2017年のフランクフルト・ショーで2020年の発売がアナウンスされた第3世代のミニ・ジョン・クーパー・ワークスGP。このほどミュンヘンで行われたデザイン・プレビューで実車を確認してきた。
ヨーロッパの自動車市場を大きなうねりのように覆い尽くそうとしている電動化の波。ミニとてその例外ではなく、今後は積極的にEVの開発を行い、近い将来に"エレクトリック・ミニ"の名前でニュー・モデルを導入すると予告しているが、その一方で、先のフランクフルト・ショーでは、2017年に発表したミニ・ジョン・クーパー・ワークスGP(JCW・GP)コンセプトの市販モデルを、2020年に登場させるとアナウンスしている。
JCW・GPといえば、JCWを更にチューンナップしてサーキット走行にフォーカスしたミニの最強、最速モデルだ。EVは世の中の流れとして当然だとしても、それだけでいいのか? と思っていたところに、なんとそのJCW・GPのデザイン・プレビューに来ないかというお誘いがBMWからあった。スネーク・プレビューというから、内内のチョイ見せということだと思うが、もちろんふたつ返事でオーケーして、急いでミュンヘンに向かったことはいうまでもない。
到着したミュンヘンの街はすでに真冬のような寒さで、降り続いていた雨が雪に変わりそうな気配すらあった。そんななか滞在していたホテルからミニJCWクラブマンのシャトル便でプレビュー場所に向かうと、そこは小さなハウス・スタジオだった。フレンドリーに迎えられたものの、しっかり入り口でスマートフォンとカメラを取り上げるところはさすがである。でも、かえってそのほうが滅多にお目にかかれないものを目にすることができると期待でわくわくする。なかに入るとそっけない白いホリゾントのスタジオの真ん中にベールを被ったJCW・GPが見える。なんとそのベールがふるっていて、現代アートのような線画だと思っていた模様は世界中のグランプリ・サーキットだという。
プレビューが始まり、アンベールとともに姿を現したJCW・GPを見て、腰を抜かしそうになった。「な、なんなんだこれは」。そこにあるのは確かにミニなのに、いままで見たこともないようなミニだった。
吸い寄せられるように目が行くのは鈍く光る黒い巨大なオーバー・フェンダーだ。これはフェンダーなのか、それともサイド・ウイングなのか。ボディとオーバー・フェンダーの間には空気を通すための明らかな隙間がある。凄みのあるレーシング・グレー・メタリックのボディ・カラー。エンブレム、ヘッドライト・リング、ドア・ハンドル、給油キャップにいたるまで、すべてがブラック・アウトされ、フロント・グリルの赤い差し色をどぎついくらいに際立たせている。とどめはGPのロゴが刻まれたリア・ウイングだ。翼型になっていることから、それがマジもんであるのは間違いない。ウイングの後端にはリップ・モールもつく。これは凄い。ここまで徹底して空力をつめたミニはかつてなかった。しかも完成度が高い。見ていて思わずカラダが熱くなる。
内装のデキも素晴らしい(残念ながら写真はない)。コンセプト・モデルで張り巡らされていた複雑なロール・ケージは跡形もなく、あるのはリア・サスペンションのマウント部分を左右でつなぐ真っ赤に塗られたタワー・バーのみ。シートはヘッドレストまで一体化されたスポーツ・シートで、ステップには赤いGPの刻印が入る。あとはほぼブラックで統一されている、精悍な室内だ。ステアリング・ホイールの裏側につくパドルを指ではじくとキーンと硬質な金属音がしたので、間違いなくアルミの削り出しだろう。室内のデザインは液晶パネルを多用した新型がベースだった。
あくまでもデザイン・プレビューということでスペックの詳細は明らかにされていない。聞けばエンジン・パワーはJCWと同じ306馬力だが、モータースポーツ用のクーリング・システムを備え、マフラーは専用だという。サスペンションももちろん専用にチューニングされている。ボディの全幅は40㎜拡大されていて、そのすべてがオーバー・フェンダーにあてられた。このオーバー・フェンダーの清流効果は絶大らしい。なんと素材はリサイクル・カーボンだというので驚いた。
生産はオックスフォード工場で、日を決めて集中的にラインに流す生産計画だという。先代のGPは2000台の限定だったが、今回は3000台の予定だ。果たして日本には何台入るのか。スペックや価格などを含めた詳細は、11月20日のLAショーで発表されることになっているので、本誌が発売された頃にはネットでも話題になっていることだろう。いずれにしても、最高にカッコいいミニであることは間違いない。
文=塩澤則浩(ENGINE編集部) 写真=BMW A.G.
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