齋藤 今回乗った4台は、体育会系というくくりで集めたクルマです。BMWのX3Mコンペティション、ポルシェのマカンS、アルファ・ロメオのステルヴィオ・クアドリフォリオ、そして、マセラティのレヴァンテ・トロフェオ。マカンは、この上にさらに速いターボがラインナップされていますが、他の3台はどれも、シリーズ最強最速モデル。動力性能、運動性能では飛びぬけたクルマばかりです。今日は大井さんにも参加してもらいましたが、どうでしたか? X3Mに乗ってみて。
大井 さして予備知識を持たずに乗ったんだけれど、びっくりした。
新井 ふつう、SUVでスポーツ・モデルを作るときって、セダンやクーペをベースにしたそれと同じように仕立ててくるメーカーって、少ないわけじゃないですか。あくまでも SUVとしてスポーティな仕立てにとどめてある。ところが、X3Mって、もうM3ですよね。「あなた、サーキットで勝とうと思ってるでしょ」と言いたくなるような仕立てになっている。
大井 SUVの時代が始まってずいぶん経ったけれど、やっと15年ぐらい前からかな、脱トラックを果たしたSUVが主流になってきたのは。この間の乗用車としての進化発展があったからこそ、それをベースに今日乗ったようなクルマが成立するよ うになった。500psオーバーが成立するところまで来ちゃった。
齋藤 いきなり山道で乗ったら、絶句することになった。いったい、SUVで何をするつもりなの……って。20年近く前に初代X5が鳴り物入りで登場して、それに初めて乗った時のことを思い出した。あれと同じ驚きを、これだけ高性能なSUVが乱立するようになった今、覚えることになろうとは、思いもしなかった。
大井 500psオーバーを消化していることに驚くよね。全然、持て余していない。
新井 ただね、スプリング・レートはかなり高いですよ。
大井 スポーツ・モードにした途端、これ、サーキットに行くんですか、という硬さがある。街の中じゃ乗れないなと思った。
新井 ぐいぐいと速い周期で上下に揺すられるわけではないですけど。
大井 まずスポーツ・モードで整合性が取れるように作ったんだな、という感じ。コンフォート・モードは、そこからなんとかして、作り出しているような感触で、頑張ってはいるけど、それが本来の状態ではないことが分かる、そういう仕立てだよね。
齋藤 加速力ハンパない、コーナリング速度とんでもない、ステアリングの鋭さと正確性はM3並み。呆れるばかりの運動性能。やる気満々。
大井 エンジンはもう素晴らしく気持ちイイ。
齋藤 2tの重さがあるクルマの動きじゃない。
大井 510psという数字から想像する以上の速さがある。
齋藤 低中速回転域で引き出せるトルクが凄まじい。
大井 回さなくても速くて、回すと途轍もなく速い。
齋藤 然るべき場所で本気で走ったら、レーシング・バケットシートが必要になる。そういう速さがある。
大井 分かりやすい凄さがあるよね。
齋藤 ほんとに程ほどっていうことを知らない人たちだよねぇ。
大井 SUVだから、という言い訳を許さない厳しさが感じられる。
齋藤 そこへいくと、ポルシェのマカンSは、シリーズのトップ・パフ ォーマーではないということを勘案しても、まぁ大人な仕立てです。穏便で、物分りがいい。どこにも不満を言わせない仕上がりに、これはこれで心底驚いた。
大井 ポルシェのプライドを感じた。
新井 ほかの3台との絡みで考えるなら、本来ここに来るべきマカンは未だ登場していないGTSでしょうね。Sでもターボでもなくて。
大井 僕らはサーキットで乗ったわけでもないし、ワインディングロードを封鎖して占有走行したわけでもないけれど、パワーが足りないなんて、これっぽっちも思わなかった。
齋藤 マカンって、4気筒ターボの素のモデルでも何も不足を覚えないじゃないですか。354psのSはそれより明らかにパワーに余裕があるんだから、速いわけですよ。
新井 これだけに乗っていたら、さすがにポルシェ、しかもS、こりゃあ速いわ、と誰もが思いますよ。
齋藤 今回来たなかで、BMWとアルファ・ロメオは特殊なモデルといっていいと思う。対してマカンは、さらに90ps近く出力に余裕のあるターボや、脚の仕立てが硬派のそれになるはずのGTSに乗れば、それはそれで感心してイメージも変わるのかもしれないけれど、このSに乗ると、大人が欲しがる真にスポーティで実用性もあるSUVってこういうものだよねぇ、というものになっていることに頭を垂れるしかない。何の文句もありません。ありがとうございますって。この4メイクのなかでスポーツカー・メーカーっていったらポルシェでしょ。その彼らが出してきたクルマが、最も全方位的に満足度の高いクルマになっている。
大井 そこがポルシェなんですよ。マカンはいちばん好きな4ドア・ポルシェで、僕は4気筒モデルで十分に満足できる。でも、6発に乗ると、これもまたいい。4発の軽やかさとは違う、どしっとした重みのある感触とバランスのよさがある。どっちもいい。こうなるといいわるいではなくて、好みの問題になる。どっちが好きか、肌に合うかの問題。
齋藤 アウトバーンのない日本では使える速さに違いなどないですよ。4気筒も6気筒も、ステアリングの感触はいい、ハンドリングはいい、乗り心地はいい、運動性能はいい、実用性は高いで、甲乙つけがたい。
大井 この4台のなかで、マカンSだけフロント・ミドシップ・エンジンでウェイト・バランスがすごく良くてとか、そういう部分があるんじゃないかと感じるほど。
齋藤 ところが実際は、エンジンはオーバーハング搭載で、いちばんノーズ・ヘビーな重量配分になってる。
大井 乗ったらこれがいちばんバランスがいい。そこが凄い。
齋藤 ポルシェの本当の凄さって、 そういうセットアップの上手さ、チューニング能力にあるんだなと思う。 そして、公道で走らせるクルマはいかにあるべきかということへの見識が深い。プラットフォームもサスペンションもエンジンも、基本設計はアウディが手がけたものなのに、結果はポルシェ以外の何ものでもない。
大井 シートのホールド性能も高い。そこはピカイチだった。そこに始まって、ドライビング・ポジション、 ステアリングの感触、サスペンションの設定、動力性能まで、濃密に関連した統一感あるものになっている。ほんとに見事ですよ。<後編に続く>
■BMW X3 M コンペティション
駆動方式フロント 縦置きエンジン4輪駆動
全長×全幅×全高 4730×1895×1675mm
ホイールベース 2865mm
トレッド 前/後 1600/1645mm
車両重量 2030kg(前1020kg:後1010kg)
エンジン形式 直列6気筒DOHC 24V直噴ツインターボ過給
総排気量2992cc
ボア×ストローク 84.0×90.0mm
最高出力 510ps/6250rpm
最大トルク 61.2kgm/2600-5950rpm
変速機 8段AT
サスペンション 前/後 前/後ダブルジョイント・ストラット/マルチリンク
ブレーキ 前後 通気冷却式ディスク
タイヤ 前/後 255/40ZR21Y/265/40ZR21Y
車両価格(税込) 1394万円
■ポルシェ・マカンS
駆動方式 フロント縦置きエンジン4輪駆動
全長×全幅×全高 4684×1926×1624mm
ホイールベース 2807mm
トレッド 前/後 1645/1655mm
車両重量 1950kg(前1100kg:後850kg)
エンジン形式 90度V型6気筒DOHC 24V直噴ターボ過給
総排気量 2995cc
ボア×ストローク 84.5×89.0mm
最高出力 354ps/5400-6400rpm
最大トルク 48.9kgm/1360-4800rpm
変速機 7段自動MT
サスペンション 前/後 ダブルウィッシュボーン/マルチリンク
ブレーキ 前後 通気冷却式ディスク
タイヤ 前/後 265/45R20Y/295/40R20Y
車両価格(税込) 859万円
話す人=大井貴之+新井一樹(ENGINE編集部)+齋藤浩之(ENGINE編集部) 写真=望月浩彦
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