「老いてますます盛ん」だなんて、ずいぶんと79号車に失礼なことを書いてしまった。ゴメンナサイ。クルマは機嫌を損ねると急に調子が悪くなることがあるから、そんな発言は禁物。前言撤回します。
―と書きながら思い出したのが、一昨年の79号車導入直後に取材に訪れたシュトゥットガルトのポルシェ・ミュージアムで、バックヤードを案内してくれたコレクション管理担当者の言葉だ。長期リポート車として2005年型の996カレラ4Sを導入したことを話し、「でも、8万2000kmものマイレージを重ねた個体だから」と付け加えたところ、「何を言っているんだ。そりゃ、慣らしが終わったかどうかくらいの距離じゃないか。ポルシェは10万kmからが本番だよ」と真顔で返されてしまったのだ。
なるほど、どんなクルマでもちょっと走行距離が長いとすぐに"過走行"のレッテルを貼りつけて価値を貶めるどこかの国とは違って、クルマを発明し、その文化を120年以上も育み守り続けてきたドイツでは、10年10万kmなんてまだまだヒヨッ子くらいの扱いなんだと知って、深く頷かされたものである。
実際のところ、79号車はこの2年間乗り続けてきて、まったく不具合に見舞われていないばかりか、毎日乗ることで、ますます調子が良くなってきているように感じられる。とりわけ、エンジンの吹け上がりが良くなっていると思う。そもそも水冷化されて最初の世代となるこの時代のフラット6は、昨今のそれのようにドライにどこまでも軽く吹け上がる性格のものではなく、いかにも緻密に組まれた機械が厳かに回転を増していく感じの、むしろ湿り気のある重々しい感触の吹け上がり方が印象的なエンジンだ。
アイドリング時から音もそれなりに大きいし、振動も獣の鼓動のように伝わってくる。そして一番低い回転域のトルクこそ細いものの、2500回転を超えるあたりから一気に極太のトルクが湧き出てきて、4000回転を超えるところまでドーンとクルマを押し出していく。そのフィールは変わらないのだが、どことなくその回り方がスムーズになっている感じがするのだ。と同時に、さらにその上の中回転域から7200回転のレッドゾーンに至る吹け上がり方が、まるでブラックホールに吸い込まれるような鋭さを増しているように思う。
もちろん、その領域を一般道で使うことはなく、最近、筑波1000やツインリンクもてぎなどを走る機会が続いたせいもあるのだろうが、少なくとも衰えを感じさせるどころか、むしろ盛んになっている印象をエンジンについては強くしている。
その一方でブレーキやクラッチなど、やがてオーバーホールが必要になるだろうと感じさせる部分もないわけではないが、それは消耗部品だから仕方がない。必要になったらパーツを交換すればいいだけだ。
あとは平均でリッター6km台半ばという燃費が、今のクルマの基準からすれば悪いという問題があるが、これはいかんともし難い。必要のない時はできるだけ高いギアで走ることで対応していると言っておこう。
というわけで、この長期リポートもこれからが本番だ。
■79号車/ポルシェ911カレラ4S(996型)
PORSCHE 911 CARRERA 4S
購入価格(新車時) 340万円(1244万2500円)
導入時期 2017年4月
走行距離(購入後) 9万7959km(1万5574km)
文=村上 政(ENGINE編集長)写真=郡 大二郎
(ENGINE 2019年7月号)
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