荒井 BMW X5が2000年に最初に出たときは「SAV=スポーツ・アクティビティ・ビークル」と自称した。つまり、当時のジープやGクラスといった泥臭いSUVではないとして登場してきたわけ。
新井 メルセデス・ベンツGLEの前身であるMクラスはX5よりさらに早くて、1997年にアメリカ向けにシティ・ユースを意識して開発された。ただ、当時のMには独立ラダーフレームが残されていた。
佐野 それはメルセデスにはGクラスという伝統的オフロード車の技術があったからだと思う。BMWは最初から完全な乗用車メーカーだったから、そもそもフレーム付きSUVのノウハウはなかった。
荒井 作りたくても作れなかったと。
佐野 ボルボもBMWに似ていて、1980年代から90年代前半に日本の三菱パジェロなどが牽引した第一次SUVブームの波には乗れなかった。そのぶん、X5が開拓したコンセプトにいち早く呼応して、2002年に初代XC90を出した。
荒井 そのあたりのメルセデスにBMW、そしてボルボがそれまでの泥臭いSUVとは異なる都会派SUV、いわば今どきの「新王道系SUV」の最初ということになる。でも、彼ら自身ですら、自分たちが先んじたジャンルがここまで普及するなんて思ってもいなかったはず。
新井 細かくいうと、最初から乗用車そのもののモノコック・ボディで登場したBMWのX5こそが、新王道系SUVの本当の元祖かな。
佐野 都会派SUVという思想はメルセデスが最初かもしれないけど、彼らの初代Mは古典的なラダーフレームにこだわったことで、新しさではX5やXCに譲るところがあった。だから、この新王道SUV系業界(?)では、メルセデスはどことなくBMWやボルボを半周とまではいわなくても、0.2周くらい後ろから追いかけるイメージがあったよね。
荒井 それまではSUVとはゴツい男っぽいクルマだったのが、X5やXCは奥さんがアウトレットに乗りつけられるオシャレさが新しかった。でも、今ではそれがSUVのど真ん中=王道になって、そこからさらにオシャレやスポーティなヒネリを入れたX6やGLEクーペみたいなものまで出てくる時代になった。
新井 初代X5や初代XC90なんて当時はオシャレの最先端だったけれど、今では室内空間やトランクなどのパッケージ、そして駆動方式などは真面目に作り込まれている。
荒井 その一方で、X5やGLEのインテリアの装備や仕立て、デザインなどはオシャレ系に引っ張られている感じもするけどね。
佐野 デザインではボルボが最初に「最も泥が似合わないデザイン」に脱皮した感じがあるね。このXCだって内装はインテリア・ショップのショールームみたい。
荒井 X5の内装は良くも悪くもBMWそのものだけど、シフトレバーやi-Driveダイヤルがクリスタルで、そこに精巧なギザギザが刻まれている。こういうデザインには明らかにボルボの影響を感じる。
新井 X5以上に、新しいGLEのインテリアは泥んこが似合わないどころか、雨に濡れた靴で乗り込むのが申し訳ないくらい。それに、今までのメルセデスではほとんど見たことのないツヤのないウッド・パネルまで使っている。こういうのが、たとえば最近流行の「グランピング」の世界観なのかもしれない。
佐野 今回は違うけれど、ボルボは流木を模した枯れた色合いの「ドリフトウッド」のパネルを打ち出すなど、ドイツ勢は絶対に思いつかなそう。そういうボルボのセンスが、ドイツの高級車ブランドに影響を与えているのは間違いない。
荒井 GLEはデザインテイストが新しいだけでなく、とにかくすべての要素を詰め込んだクルマだと思った。ウッドやレザーが高級な一方で、メーターは巨大なタブレット風だし、夜間はカラフルなイルミネーションが光る。「ブルメスター」のオーディオも素晴らしい音だった。まあ、この点はX5の「バウワーズ・ウィルキンス」も負けていないけれど。
佐野 GLEには、室内フレグランスやシートヒーター、マッサージ機能に、ディスプレイに映す専用アニメーションと専用ヒーリング・ミュージックを連動させたリラクゼーション機能までついている(笑)。
新井 技術でもデザインでも、一度「やる」と決めたらとことん大胆に、場合によっては歯止めがきかないくらい突き進んでしまうのが、いかにもメルセデスらしい。
荒井 ただ、今のところは思いを詰め込みすぎていて、こなれていないところがあると思う。スイッチが多いので、ヘッドアップ・ディスプレイを消すだけでも迷っちゃった。
佐野 GLEを借りるとき、メルセデスの担当者は「機能は説明しきれません。分からなくなったら〝ハイ、メルセデス〟とクルマに聞いてください」といっていた(笑)。
荒井 で、いろいろスイッチを触っているうちに、クルマが「どうしますか?」と聞いてきたので「ヘッドアップ・ディスプレイ消去」としゃべったら、一発で消えた。今のクルマは恐ろしいことになっている(笑)。新王道系は新電脳系でもある。
新井 新しいGLEはプラットフォームを新規で起こしている。セダンのEクラスとも異なるSUV専用プラットフォーム。乗り心地や操縦性、そしてモーター・アシスト付きの直6エンジンまで、走りや静粛性は素直にいい。
佐野 でも、GLEの2020mmという全幅は、日本だとさすがにちょっと持てあますところもある。広いところで走っていると、その歩幅の大きさが乗り心地や操縦性にバッチリ効いているのは確かだけど。
新井 GLEは特にエア・サスのデキが素晴らしい。スポーツ・モードとコンフォート・モードの両方が、これほどよくできているクルマはそうない。
荒井 X5もGLEとそんなに変わらない大きさなのに、走っていると GLEと対照的に大きさを感じない。BMWだなあ、と思った。
佐野 GLEは本当に静かで乗り心地も滑らか。対するX5はディーゼルという点を差し引いても、良くも悪くもパワートレインの存在感が大きい。重厚で静かなGLEと、ちょっとヤンチャだけど軽快に走るX5。これこそ、私らが知っているメルセデスとBMWの伝統的構図だね。
新井 これまでの新王道系SUVでは、最初に一歩リードしたX5をメルセデスが追いかける構図だった気がするけれど、今回のGLEでついに追いつき、場合によっては追い越したという部分も多い。今回は新型GLEのデキに驚いた。
佐野 その意味でいうと、今回のXC60はX5やGLEとクラスが違うから直接比べられないものの、「ボルボだなあ」と思わせる。
荒井 ボルボのインテリアはメルセデスやBMWX5と違って、コクピットまわりのスイッチも少なくてシンプルだし。いかにも優しいステアリング・フィールに、ディーゼル・エンジンも似合っている。
新井 メルセデスもXC60と競合するGLCになると、一気にスポーティな味つけになる。それに、日本で使うなら、XC60くらいのサイズがちょうどいいと思った。GLEやX5はさすがに大きい。
佐野 伝統的なセダンやハッチバックはモデルチェンジで「あえて縮小する」というケースもあるけれど、SUVはまだまだ成長市場ということもあって、サイズ拡大競争になっている。それにしても、今回の3台は、いち早く都会派SUVに乗り出した各社で最大級の稼ぎ頭だけに、さすがにどれも気合が入っている。
荒井 3台とも技術的に最先端で、パッケージも奇をてらわず実用的。今回の3台は特に乗り味でも、メルセデス、BMW、ボルボそれぞれ、いかにも「らしい」ものがあった。
新井 メルセデスやBMWは、ずっと後輪駆動にこだわって、いまだに セダンを何種類も売る保守的なメーカー。そんな彼らでも、今は実際の利益の大半をSUVが稼いでいる。
佐野 もはや、こういうクルマをわざわざ「SUV」と呼ぶ時代でもな くなっている。今はSUVこそが乗用車の基本的な姿であって、それと 区別するために、セダンやハッチバック、ステーションワゴンという呼び名がある感じ。本当に時代が変わった。
荒井 SUVのなかの王道系というのではなくて、すでに乗用車の王道系なんだよね。
■メルセデス・ベンツGLE450 4MATIC SPORTS
駆動方式 フロント縦置きエンジン全輪駆動
全長×全幅×全高 4940×2020×1780mm
ホイールベース 2995mm
トレッド 前/後 1680/1730mm
車両重量 2390kg
エンジン形式 直列6気筒DOHCターボ+モーター
総排気量 1968cc
最高出力 367ps/5500~6100rpm+モーター16ps
最大トルク 51.0kgm/1600~4500rpm+モーター25.5kgm
変速機 9段AT
サスペンション 前 ダブルウィッシュボーン/エア
サスペンション 後 マルチリンク/エア
ブレーキ 前&後 通気冷却式ディスク
タイヤ 前&後 275/50R20
車両本体価格 1153万円
■BMW X5 xDRIVE35d M SPORT
駆動方式 フロント縦置きエンジン全輪駆動
全長×全幅×全高 4935×2005×1770mm
ホイールベース 2975mm
トレッド 前/後 1685/1695mm
車両重量 2320kg
エンジン形式 直列6気筒DOHCディーゼル・ターボ
総排気量 2992cc
最高出力 265ps/4000rpm
最大トルク 63.2kgm/2000~2500rpm
変速機 8段AT
サスペンション 前 ダブルウィッシュボーン/エア
サスペンション 後 マルチリンク/エア
ブレーキ 前&後 通気冷却式ディスク
タイヤ 前&後 275/40R21 315/35R21
車両本体価格 1031万円
■ボルボXC60 D4 AWD R-DESIGN
駆動方式 フロント横置きエンジン全輪駆動
全長×全幅×全高 4690×1900×1660mm
ホイールベース 2865mm
トレッド 前/後 1655/1655mm
車両重量 1900kg
エンジン形式 直列4気筒DOHCディーゼル・ターボ
総排気量 1968cc
最高出力 190ps/4250rpm
最大トルク 40.8kgm/1750~2500rpm
変速機 8段AT
サスペンション 前 ダブルウィッシュボーン/コイル
サスペンション 後 マルチリンク/コイル
ブレーキ 前&後 通気冷却式ディスク
タイヤ 前&後 235/55R19
車両本体価格 706万8519円
語る人=佐野弘宗+荒井寿彦(ENGINE編集部)+新井一樹(ENGINE編集部) 写真=神村 聖
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