1960年代に自動車界を揺るがしたスキャンダルといえば、アメリカの巨人フォードと、イタリアのアイドル、フェラーリとの間で展開された愛憎劇だろう。
"トータル・パフォーマンス"を掲げ、若者へのスポーティ・イメージ向上に苦心するフォードと、経営基盤の安定しないフェラーリとの間で秘密裏に行われた縁談は順調に進んでいたものの土壇場で破談。その1週間後、フォードは一転して打倒フェラーリを宣言し、ル・マン24時間制覇を目指したマシンの開発に着手する。こうして生まれたのが、フォードGT40だ。
『フォードvsフェラーリ』は、そこから悲願のル・マン優勝に至る数年間を、ワークスとしてGT40に携わったシェルビー・アメリカンのボス、キャロル・シェルビーと、ドライバーとしてその開発を支えたケン・マイルズの視点で描いた作品である。
マニア的な視点で見れば、史実と違うところ、映画的にオーバーに脚色された部分は確かに存在する。また映画のもう一方の主役であるシェルビー・コブラ、GT40、フェラーリ330P3、ポルシェ906といったクルマたちは、いずれも精巧なレプリカが使われている。
しかしそれらが気にならず、むしろ話に引き込まれていくのは、迫力ある走行シーンがCGではなくすべて実写で撮影されていたり、フォード・リバールージュ工場、フェラーリ・マラネッロ本社、ル・マンのピットが実物大のオープンセットで再現されるなど、当時のモーター・レーシング・シーンに対する敬意と愛が、画面全体から感じられるためだろう。
そこに輪をかけて素晴らしいのがマイルズを演じるクリスチャン・ベイルだ。職人気質でどこか影のある仕草や表情は、まるでマイルズの生き写しのよう。その数奇な運命を知っていればなおさら、彼の演技に心をグッと掴まれてしまう。
これまで『グランプリ』、『栄光のル・マン』、『RUSH』など、レースを題材にした多くの名作が生まれてきたが、この『フォードvsフェラーリ』は限りなくドキュメントに近い上質なエンターテインメントとして、後世に残る1本だと断言できる。
文=藤原よしお
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