「シュールですね」。突飛な物事に出合い、受け入れることも拒絶することも即座に判断できないとき、人はしばしばこの言 葉を使う。カフカの『変身』も、つげ義春の『ねじ式』も、"シュールな話"で片付いてしまう。なんとも便利で、時には無責任にも聞こえる言葉、それが「シュール」だ。
このシュールという言葉は、シュルレアリスムという文学や美術の用語に由来する。キュビズムや印象派など、教科書で学ぶ美術用語はいっぱいあるけれど、日常会話で使われるほどポピュラーなものはシュールだけ。しかし、多くの人はシュルレアリスムとはどのようなものかを知らない。なんともシュールな状況だ。
1919年、フランスの詩人アンドレ・ブルトンらは、高速でペンを走らせることで無意識に飛び出した言葉を紡ぐ「オートマティスム(自動記述)」の技法で制作を始めた。ブルトンは、理性で自分自身を縛り付けている現代人の生き方を批判していた。そして、夢や無意識などを通してこの統制を解放すれば、人間の本質に迫れるはずだと考えるようになった。
これがシュルレアリスムの基本的な考え方だ。文学から始まったシュルレアリスムは芸術にも伝播し、マックス・エルンストやサルバドール・ダリなどの作家が次々と作品を発表するようになる。つまり、2019年はシュルレアリスムが誕生してちょうど100年という節目の年なのだ。
ポーラ美術館で開催されている「シュルレアリスムと絵画」展は、このシュルレアリスム100年の変遷をたどっていくものだ。海外のシュルレアリスムの展開はもちろんのこと、日本人作家たちの作品も多数展示されている。
ブルトンらの動きにリアルタイムで影響を受けた福沢一郎や古賀春江、三岸好太郎、そして戦後に活躍した吉原治良や瑛九など、自分たちなりにシュルレアリスムを解釈し、独自の要素を加え、日本独自の「シュール」へとローカライズさせている過程はとてもおもしろい。
「シュール」を知ることで、シュルレアリスム本来の理解も進んでいくのが刺激的だ。冬の箱根を訪れて、わかったつもりで 使っている「シュール」という言葉の意味を、改めて考えてみよう。
「シュルレアリスムと絵画―ダリ、エルンストと日本の『シュール』」は2020年4月5日まで箱根・仙石原のポーラ美術館にて開催中。
詳細はホームページまで https://www.polamuseum.or.jp/
TEL.0460-84-2111
文=浦島茂世(美術ライター)
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