モーター・ジャーナリストという仕事柄、さまざまなクルマのハンドルを握らせていただく機会が多いのだが、ルノー トゥインゴは何度も会うにつれて、その魅力に引き込まれてしまう不思議なクルマだ。フランスメーカーであるルノーの魅力を小さなボディに詰め込んでみせたトゥインゴは、エンジンを荷室の床下に搭載し、後輪を駆動して走る“RR”(リアエンジン・リアドライブ)レイアウトを採用している。
そのぶん、フロントフードは短くとられていて、車内の間取りにもひと工夫が。全長が3.7m未満の短いボディでありながら、キャビンは思いのほか窮屈ではなくて、居心地の良さを与えてくれるほど。そのうえ、助手席の背もたれが前方に倒れて長尺物の荷物が積めることに驚かされてみたりと、想像を超える実用性が備わっていたりする。
FIAT 500やフォルクスワーゲンup!など、このクラスのライバルたちは、3ドアが主流。その点、トゥインゴは5ドアで後部座席に直接アクセスしやすい。短いスイングドアは駐車場で乗り降りしやすく、隣のクルマにドアをぶつける心配も少なそうだ。もちろん、5ナンバーサイズのボディは、日本の狭い交通環境でも鼻歌交じりで走れる気さくさを備えている。車幅感覚を捉えるのが苦手なドライバーにとってはありがたい存在といえるだろう。
お洒落な輸入車というと、イタリア車とフランス車は一緒くたにされがちだが、このトゥインゴは、小さなクルマに荷物を満載にしてバカンスを楽しむフランス人が乗るクルマらしく、デザインと実用性を驚くほど高い次元で両立させていることに気づく。そのあたりは、デザイン至上主義のイタリア車と違っているところ。トゥインゴに乗るたびに感心させられるのは、ルノーで最も小粒なモデルでありながら、お洒落なスタイリングとコダワリのメカニズム、居心地の良さと実用性を見事に解決してみせた偉大なクルマであるということである。
発売開始から3年の時を経た2019年秋にマイナーチェンジモデルが日本に上陸したトゥインゴだが、その走りの熟成ぶりにも驚かされる。今回試乗したのは、0.9Lターボエンジンにデュアルクラッチ・トランスミッションの「電子制御付き6速AT」を搭載したモデル。小さなエンジンが生み出すパワーを効果的に引き出してくれるだけでなく、低速走行時のギアの繋がりが滑らかで快適にドライブできる。
小排気量のエンジンはパワフルとまではいかないが、大人4人が乗って走る時でも不足を感じさせないレベル。RRなので前輪の切角が大きく、最小回転半径は軽自動車も顔負けの4.3mの小回り性を披露。背伸びしない身の丈感のある走りが次第に愛おしく思えてくる。それでいて、石畳の上をしなやかな足どりで通過してみせたり、登り坂では素直なハンドリングとともに、後輪路面を蹴り出しながらグイグイと車体を前に押し出して駆け抜けてみせる。気がつけばクルマを操る楽しさに没頭させられてしまう感覚は、まさにルノーの魅力そのものなのだ。
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文=藤島知子(モーター・ジャーナリスト)
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