予選ではギンサーの11号車がフェラーリに次ぐ2番グリッドを確保し、決勝でも2周目にトップへ浮上し独走体勢を築きあげた。また10号車のヒルも3分49秒2というファステストラップを記録し、フェラーリに対してそのポテンシャルの高さを見せつけた。しかしながら、夜明けを迎える前に3台が相次いでメカニカルトラブルでリタイア。優勝はフェラーリに奪われてしまう。
このうち本命はケン・マイルズとブルース・マクラーレンがドライブする1号車、フィル・ヒルと2年前に19歳(当時の最年少記録)でF1デビューを果たしたクリス・エイモンがドライブする2号車を擁したシェルビーの2台で、その期待に応えた2号車がポールポジションを獲得。決勝ではスタートから1号車、2号車の順で1-2体制を固めるものの、2台ともギヤボックスのトラブルでリタイア。結局6台のGT40がトラブルによりレース開始後7時間以内に全滅するという惨敗となってしまったが、ヒルの2号車(なんとレース直前に完成したばかりだった!)が前年を12秒も上回るファステストラップを記録したうえ、340km/hという最高速度を記録したのは、翌年に向けての明るい材料といえた。
フォードvsフェラーリ、運命の66年
そして運命の66年。フォードはシェルビーから3台、セミワークス格のホルマン・ムーディーから3台、アラン・マンから2台、さらにプライベーターから5台の計13台という体制でル・マンに挑んだ。対するフェラーリもニューマシン330P3を用意し待ち構えていたのだが、労働争議の影響で開発、熟成が遅れた上にフェラーリ内部のお家騒動でシーズン中にエースのジョン・サーティースが離脱するなど、盤石とはいえない状態であった。レースの方はゴール後のいざこざがあったものの、映画で描かれているとおりフォードの1-2-3フィニッシュで終了した。しかしその裏では、トップ3以外のGT40が全てリタイアしており、フォードとしても余裕の勝利というわけではなかった。映画『フォードvsフェラーリ』のハイライトとなる66年ル・マンのゴールシーン。ル・マンの大舞台で演出された3台同時ゴールは世界中にインパクトを与えた。
レースは両陣営にクラッシュやトラブルが続出する荒れた展開となったが、唯一トラブルなく序盤からトップを快走したシェルビー・チームのダン・ガーニー/A.J.フォイト組のマークIVが2位のフェラーリに5周差をつける独走で優勝。ル・マン史上初の総走行距離5000km突破という大記録も打ち立てた。この結果に満足したフォードは、翌年からレギュレーションが変わることもあり、ワークス活動の終了を宣言する。
でもこれでGT40の挑戦は終わらなかった。次なる主役に躍り出るのはフォードがFAVのマネージャーとして起用したジョン・ワイアだ。GT40の開発とレース運営の拠点として設立されたFAVであったが、プロジェクトが進むにつれ本社との対立が激しくなり、66年で解散の憂き目にあってしまう。これを期にワイアは独立し、JWオートモーティブ・エンジニアリングを設立。ガルフ石油のスポンサードを受け、GT40をベースにしたオリジナルマシンの開発や、レース運営などを手がけていく。
JWは、GT40マークIVが優勝した67年のル・マンにオリジナルマシン、ミラージュM1を2台持ち込んだが、準備不足もありあっけなくリタイアしてしまった。そこで68年は変更されたレギュレーションを逆手に取り、GT40をグループ4(生産台数50台、5リッター以下)マシンとして登録し選手権にフル参戦すると、徐々に調子をあげ、新たなライバルとなったポルシェとチャンピオン争いを繰り広げる。その天王山となったのが、五月革命の影響で9月に延期されたル・マンだ。このレースに33台のGT40をエントリーしたJWは、4台のワークスカーを持ち込んだポルシェを相手にするが、ペドロ・ロドリゲス/ルシアン・ビアンキ組が序盤から首位を独走。見事優勝してシリーズタイトルまで獲得してしまうのである。
翌69年になると、さすがにGT40の旧態化が否めなくなってきたが、JWは抜群の耐久性を武器に2台のGT40をル・マンにエントリーさせた。こうして迎えた決勝レースはル・マン史に残る1戦となった。
ガルフ石油の援助を受けたJWチームは、68年、69年のル・マンをGT40で連覇(写真は69年)する。ちなみに優勝したのは両年ともシャシーナンバー「1075」。同じクルマが2度もル・マンを制した例はこれしかない。
13番グリッドからスタートすることとなったジャッキー・イクス/ジャッキー・オリヴァー組の6号車だが、スタートで各ドライバーが一斉にマシンへと走り出す中、ル・マン式スタートの危険性を唱えるイクスは、1人だけ歩いて乗り込み大幅に遅れてスタートする。その後はポルシェ勢の上位独占が続くのだが、残り4時間を切ったあたりからポルシェにトラブルが続発。気づけばイクス/オリヴァー組とハンス・ヘルマン/ジェラール・ラルース組のポルシェ908との一騎打ちとなった。そして運命の最終ラップ。イクスとヘルマンは何度も順位を入れ替える激しいトップ争いを展開。24時間、4998kmを走りきり、わずか120mという僅差でイクス組がGT40に4年連続となる総合優勝をもたらしたのである。
その年末、JWはポルシェのワークス・チームになることを電撃発表。1970年はマシンをポルシェ917Kへと変更し、フェラーリ・ワークスとの全面対決を迎えることになる。その当時の様子を捉えたのが、スティーブ・マックイーン主演の映画『栄光のル・マン』だ。そうした背景をもとに『フォードvsフェラーリ』を観てみるのも、面白いかもしれない。
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文・藤原よしお 写真・Ford Motor Company、Ferrari
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