まずはこの時計をご覧いただきたい。茶色のボディにうっすらと緑青をまとい、海中から引き揚げられたばかりのようなブロンズ・ウォッチ。この時計が、わずか8年前にはショウケースの中で、まるで金時計のように輝き、陳列されていたことを想像できるだろうか? このように、使い方によって色々な姿に変化するのがブロンズの面白さ。今、ディープな時計好きの間では、ブロンズの特性を生かし、オンリーワンの1本を育てるのがトレンドなのだ。
現在、多くのブランドから登場しているブロンズ・ウォッチのブームは、2010年、パネライが発表した「サブマーシブルブロンゾ」からはじまった。このモデルは少数の限定生産だったのだが、従来の時計にはない斬新なルックスとブロンズならではの特性に世界中の時計好きが注目。翌年には、早くも多くのフォロワーが現れ、今日のトレンドにつながる契機となった。
かつて潜水士のヘルメットに使われていたという事実が示すように、ブロンズは鋳造しやすく強度も高いのが特徴だ。色は、硬さを増すために加えられる錫の量によって異なるが、多くは赤みや黄みを帯びた銅色。研磨直後はゴールドと見紛うほど美しいのだが、実はブロンズの真骨頂はその直後からはじまる。酸や塩分、湿気に反応し、使用しているうちに表面が黒ずむ、すなわち"経年変化=エイジング"していくのだ。
汗や海水などを付着したままにすれば緑青(ろくしょう)と呼ばれる青緑色のサビも現れる。通常、高級時計でこのような変化(劣化)はご法度。作り手も買い手も敬遠しそうなものだが、ディープな時計好きたちは違った。彼らは、使い方次第で様々な表情が生み出せるブロンズに、デニムやレザーと同様の"育てる"感覚を見出し、オンリーワンの1本を作り出すことを楽しみ始めたのだ。
この後に紹介しているように、今年はより幅広いジャンルから、さらに多くの新作ブロンズ・ウォッチがデビューし、選択肢が広がった。好みのモデルを選び、"自分だけの1本"を育ててみる好機だ。

海釣りをこよなく愛するオーナーが、"ブロンズを世界で一番、使い倒す"と心に決め、2011年に購入したパネライの「サブマーシブルブロンゾ」。釣りの後も、敢えて潮を付けたままエイジングさせ続けてきた。「色々なダイバーズウォッチを使い分けていたけど、この時計を買って、自分の中で"釣り時計"が決まりました。エイジングのさせ方は十人十色。オーナーでなければ味わえない楽しみがブロンズにはあるんです」と語った。
「BR 01 スカル ブロンズ」はその名のとおり、スカルのモチーフをダイアルに配した大胆な意匠が目を惹く1本だ。以前からベル&ロスの時計が好きだったオーナーは、インパクトの強いデザインに惹かれ、2年前に「BR01スカルブロンズ」を購入した。もちろん、ケースにブロンズが使われていることも購入の決め手にはなったのだが、その魅力を実感したのは、実際に使用してからだという。
「購入して1年目はエイジングのスピードが速く、みるみる黒ずんでいくのが分かるんです。使うほどにコントラストがついていくのが楽しくて、最初の頃は意図的に汗を付着させたままにしていましたが、最近では適度に手入れをしながら、ゆっくりと経年変化していくのを楽しんでいます」しかもプライベートで着用している洋服は、ストリート系やワーク系のファッション・スタイル。ゆえに、アクの強いこの時計との相性もバッチリなのだという。
「今回は個性の強いモデルを買いましたが、次は落ち着いたデザインのブロンズ・ウォッチを購入したいですね。それこそ、キレイめなスタイルにも合わせられるような1本を検討中です」

オーナーが心を奪われたのはスカルをあしらったインパクトの強いデザイン。ダイアルには蓄光塗料が塗布され、暗闇ではスカルがくっきりと浮かび上がる。

最近はエイジングがゆっくり進行している」と語る。経年変化でコントラストがつき、スカルのシルエットがどんどん強調されていくのが楽しいという。

ネイビーのダイアルとブロンズ製ケースとの組み合わせが上品な「カール・ブラシア リミテッドエディション」。
オーナーは休日にマウンテンバイクやスキーを楽しむ人物。それまでは数本のスポーツウォッチを所有していたが、ある時、特別な1本を手にしたいと思い立つ。シンプルで主張し過ぎず、でも個性的な時計──そんな欲求を満たしたのが、オリスの「カール・ブラシアリミテッドエディション」だった。
「シンプルなデザインのダイバーズウォッチですが、ブロンズ特有の色や質感に個性があると感じました。でも購入するまでは、エイジングを楽しむというブロンズならではの楽しみ方があることをあまり知らなかったんです(笑)。だから実際に使ってみて、変化が速く進行するのがとても新鮮でした」
しかし、敢えて変化を加速させるようなことはしていない。「購入から3年が経ちましたが、着けた後はなるべく汗を拭き取り、緑青も出にくいようにしています。ブロンズは放っておくだけで色や質感が変わっていくので、成り行きにまかせて趣が変わっていけばいいと思うんです。自分自身とともに、時計も自然に歳をとるような感じになるといいですよね」

「エイジングされたブロンズがレザーストラップの色に合ってきたのもいい」と語る。夏場はカーキ色のキャンバス・ストラップに替えて楽しんでいるという。

ドーム状のガラスはオーナーお気に入りのディテール。ヴィンテージのダイバーズウォッチに着想を得たデザインがブロンズとの好相性を見せている。
文=竹石祐三 写真=沖田一真(近藤スタジオ)、高城幹人
(ENGINE2019年10月号)
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