かつてアルフレッド・ヒッチコックが『ロープ』という作品で、一本の映画をまるまるワンカットで撮ったことがある。だがサム・メンデス監督の『1917 命をかけた伝令』は、技術的な難易度において遥か上を行く。アパートの一室で物語が展開した『ロープ』と比べ、本作の主人公は死体が転がる塹壕の中を歩き、砲弾が降り注ぐ市街地を駆け抜け、そして濁流に飲み込まれる。これらのシーンが一切の継ぎ目なく、映画の冒頭から最後まで、まるでワンカットで撮られたかのようにつくられているのだ。
第一次世界大戦が始まって3年が経った1917年の春。ドイツ軍と連合国軍が睨み合う西部戦線で、2人の若き兵士に重大な任務が与えられる。それはドイツ軍を追撃中の部隊に、あるメッセージを届けること。退却したかのように見えたドイツ軍は、要塞化された陣地を築いて、罠を仕掛けていたのだ。あらゆる通信手段は遮断されており、このままでは1600人の友軍が全滅してしまう。2人は決死の覚悟で仲間の部隊のもとへ急ぐ。
1時間59分の本作は、実際に全編がワンカットで撮影されたわけではなく、高度な編集作業で、いくつかの場面がシームレスにつながれている。それでも長回しを多用した各シーンの撮影は困難を極め、たとえばある時は、ワイヤーにつながれたカメラマンが上空を移動しながら俳優の姿を捉え、地上に降りた瞬間にワイヤーを外して走りながら撮影を続行、さらにジープに飛び乗って……、といったアクロバティックな撮影が行われた。役者もカメラマンも常に動き続けているので、照明は使用できない。またリハーサルには、通常の作品の何倍もの時間を要したという。
結果、出来上がったのは登場人物の息遣いまでもが伝わってくる超リアルな映像だ。観客はあたかも自分が戦地に放り込まれたかのような錯覚を覚え、主人公2人が感じる恐怖や悲しみ、そして興奮を共有することとなる。そのスリリングな感覚は、まさに体感する映画と呼ぶに相応しい。
『1917 命をかけた伝令』は全国ロードショー中。119分。配給:東宝東和
文=永野正雄(ENGINE編集部)
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