2020.03.31

LIFESTYLE

東京、大阪、京都で次々にオープン ホテルに変わる 歴史的建造物

100年ほど前に造られた建造物を、ホテルに生まれ変わらせる計画が全国的に増えている。東京・兜町に誕生したホテルK5を訪ね、その特別な魅力を探った。
東京・旧第一銀行別館
1923年竣工の建物を、ホテルと飲食施設のある地域に寄り添った施設「K5」としてリニューアル。街に溶け込んでいる外観に注目。ホテルの4階部分の客室は、天井高が5m近い。1階の床には、竣工当時の木製タイルが残る。廊下の意匠は、そのタイルを模したもの。

日本の再開発の特徴といえば、「スクラップ&ビルド」だろう。「老朽化」などの理由から、建っている建物を解体し、その場に新しく建物を建てる事である。20世紀以降に作られた現代的な建物は、十分に使えるにもかかわらず取り壊されて新しくなるケースが殆どだ。


これには、新築を礼賛し歴史ある建物を評価しない文化的な風土も関係している。「将来重要文化財などに指定されると改装が難しく、経済的なデメリットが多い」と、名建築が味気ない高層ビルとなる残念な建て替えも随分とあった。


一方ヨーロッパでは、建物は歴史があるほど価値が高く、改修を行いながら長く使うのが一般的。歴史的な街並を保つため、厳しい条例も存在する。そして日本でも、古いビルに手を入れ使い続ける事例が増えつつあるのだ。


つい先頃には100年近い歴史を持つ建物が東京と大阪で生まれ変わり、京都でも同じような計画が進行中だ。という訳で、そのひとつである東京・兜町のK5を訪れてみた。


現代では珍しい贅沢な空間

K5が建つのは、東京証券取引所の裏。1923年に第一銀行別館として建てられた、4階建てビルを改装した。まず驚いたのは、この建物が現代の兜町の街でも自然に見える事。とても築100年近いビルとは思えない現代的なデザインだ。


実はこの外観、後年付けられた銀色のパネルで長い間隠されていて、現オーナーがそれを剥がす2年前まで分からなかったとか。街に溶け込んでいる歴史ある外観を考慮し、今回はスクラップ&ビルドではなく改装することとなった。


外観だけではない。内部も歳月を感じさせないしっかりした造りだ。関東大震災にも耐えたのではなかろうか。天井も高く、現代のビルではなかなかお目にかかれない贅沢な空間である。名のある建築家の手によるものではないが、相当にエネルギーを注ぎ込んで作られたのが分かる建物だ。


たしかにこれであれば、取り壊して建て替える理由は見つからない。逆に、歴史ある建物を利用したことで、K5は特別感のある魅力的な施設となっている。同じような事例が、今後も増えると嬉しいものだ。


装飾の少ない時代を先取りした外観。外部・躯体は殆ど当時のまま。写真の建物裏側が入口で、目の前が東京証券取引所。運河沿いに建つため、基礎工事などには最先端の技術が。現在運河は埋め立てられ首都高速に。
大阪・高島屋東別館
1928年に百貨店として建てられた。アーチ型の装飾が特徴。取り壊し案を却下して、今年1月に滞在型ホテル、シタディーンなんば大阪としてオープン。写真:毎日新聞社アフロ
京都・任天堂旧本社(右)
1930年に竣工し、30年ほど任天堂の 本社として使われた。景観を配慮し、 外観を残しながら来夏ホテルに生ま れ変わる予定。設計は安藤忠雄。写真: 読売新聞アフロ<

取材協力:(株)ADX    K5の詳細はhttp://k5-tokyo.comまで
住所:東京都中央区日本橋兜町3-5


文=ジョー スズキ(デザイン・プロデューサー)


(ENGINE2020年5月号)

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