31歳の新進気鋭の監督が手掛けた青春映画が世界中で絶賛されている。独特のサウンドと映像が織りなす、エモーショナルな物語を体験する。
昨年9月に行われたトロント国際映画祭で、1本の青春映画が観客を熱狂の渦に巻き込んだ。実験的とも思える大胆なカメラワークと、赤と青を際立たせた色彩の美しさが印象的なその作品『WAVES/ウェイブス』は、全米の有力紙がこぞって激賞。
31歳のトレイ・エドワード・シュルツ監督は、次代の映画界を担う若き才能として一躍、注目を集める存在になったのである。
物語は2部構成で展開する。第1部の主人公は、高校レスリング部のスター選手タイラー。裕福な家庭で育ち、恋人との交際も順調だったが、肩の故障をきっかけに、取り返しのつかない事件を起こしてしまう。
そして第2部の主人公がタイラーの妹エミリーだ。華やかな兄の陰に隠れて目立たなかった彼女は、家族を襲った悲劇をきっかけに、自分の殻に閉じこもるようになる。だが同じ高校のルークと出逢い、彼の不器用な優しさに心を開いていく。
転落していく兄と、幸せを掴もうとする妹。この2人に加え、本作にはもうひとつの“主役”がいる。2時間15分の物語を彩る31曲の音楽だ。
監督自身によるこだわりの選曲は、フランク・オーシャンやケンドリック・ラマー、レディオヘッドといった先鋭的なアーティストのものから、1950年代にヒットしたダイナ・ワシントンの名曲まで様々。それらがBGMのようなお飾りではなく、物語に自然と溶け込みながら、主人公たちが置かれた状況や、彼らの心の動きを見事に表現していくのである。
また回転するカメラで若者たちの姿を捉えた斬新なオープニングや、物語の展開に応じて切り替わる画面の縦横比など、随所に盛り込まれた映像的な仕掛けも満載だ。
だがこれだけ凝った作りでありながら、奇を衒った印象は不思議と受けない。躍動するサウンドと映像のすべてが、物語をエモーショナルに盛り上げるために存在しているからだ。
新世代のクリエイターによるストーリーテリングの才を堪能しながら、主人公たちが感じる人生の喜びや悲しみを深く共有できる作品である。
『WAVES/ウェイブス』は7月10日(金)よりTOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー。
配給:ファントム・フィルム。135分。
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文=永野正雄(ENGINE編集部)
(ENGINE2020年5月号)
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