2020.07.24

CARS

ダンプカー好きの少年は長じてモータージャーナリストとなり、ランボルギーニ・ミウラをドライブした!!

憧れのミウラをドライブする。

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これまで出会ったクルマの中で、もっとも印象に残っている1台は何か? クルマが私たちの人生にもたらしてくれたものについて考える企画「わが人生のクルマのクルマ」。1970年代後半に到来したスーパーカー・ブームの主役は、カウンタックやBBだった。しかし、山崎少年の心を捕えて離さなかったのはミウラだった。

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危うさに心惹かれた

気がつけば、そんなに田舎というわけではないけれど、県庁所在地の地方都市に生まれていた。1963年の話だ。後に語られたところによると、景気は第二次世界大戦後から、ずいぶん長い期間にわたって、悪くはなかったらしい。

給料は少なからず上がり続けていったから、人は自分の家や団地に住むことを願って、さらに働き続けた。山崎家は比較的交通量の多い、幹線道路の一本裏手にあった。今とは違って、子供は放し飼いのようなものだから、僕は毎日その幹線道路にあるバス停に、住宅工事のために行き来するトラック、いわゆるダンプを見に行くのが日課だった。飽きなければ夕方までそこにいるし、飽きれば友達と別の遊びをするだけの話だ。したがって、自分とクルマの原体験は、ダンプをはじめとする商用車でしかない。家に運転手付きのクルマがありましたとか、父が車好きで半年に一度は新車が納車されましたとか、3歳にして救急車に乗りましたとか、「さすがはモータージャーナリスト」と、人を感動させるストーリーでないのは、少し無念ではある。



でもそれからも、クルマは自分の趣味としては欠かせない存在になった。それまで自分の周りを走っているクルマといえば、それは商用車が大勢を占めていたのだが、いつのまにか美しく、魅力的な乗用車が田舎の道でも見られるようになってきた。そして中学生になった頃、自分の人生を変えるあのブームが訪れる。そう、少年ジャンプに連載されていた『サーキットの狼』によって一気に火が点いたスーパーカー・ブームだ。

それがいつ始まったのかは正確には記憶していないが、ブームの頂点は1977年の夏頃だっただろう。このブームの特徴は、それを追いかけたのが子供であったことで、同時にカメラのフィルムなどのスポンサーが付き、日本全国でいわゆる“スーパーカー・ショー”が開催された。都会の子供は待てばいずれ夢のクルマに遭遇できたのかもしれないが、田舎ではどんなに待ってもそれは現れない。スーパーカー・ショーはその夢を叶えてくれる唯一の場だったのだ。

フェラーリのBBか、ランボルギーニのカウンタックか。だいたい主役の人気はこの両モデルに分かれていたようだけれど、私の心を捕えて離さなかったのはランボルギーニのミウラだった。派手なスタイルで人気のミウラSVR(当時はこれをイオタと呼んでいた)にも心はひかれたが、究極的な美しさを持ちつつも、BBやカウンタックやイオタには、速さでは負けてしまいそうな危うさに、声援を送ったのだ。


スーパーカーの原点

なぜミウラはランボルギーニから生まれ、そしてどう進化したのか。ブームの渦中では知る必要もなかった事実を、モータージャーナリストの職を得る以前から、調べ始めるに至った。ジャン・パオロ・ダラーラとパオロ・スタンツァーニによるV型12気筒の横置きミドシップは、運動性能においては必ずしも優位とはいえないし、当時はまだ社長であったフェルッチオ・ランボルギーニは、当時ベルトーネのチーフ・スタイリストであったマルッチェロ・ガンディーニの描いた、流麗にして高性能なボディを見てもなお、それを量産する決断を下さなかった。彼が作りたかったのは高性能GTだったのだ。

ランボルギーニ・ミウラは、モータージャーナリストとなった僕に、さまざまなことを教えてくれた。そのご褒美とでもいうのだろう。数年前には映画『ザ・イタリアン・ジョブ』(邦題『ミニミニ大作戦』)のロケ地となったグラン・サン・ベルナール峠を全面通行止めしたうえで、ミウラSVで走行させてくれたほか、その翌年にはミウラという車名の由来であるミウラ牧場をやはりミウラで訪れるというツアーにも招かれた。

ランボルギーニ・ミウラ。それは単なるスーパーカーではなく、スーパーカーの原点であり、また自分自身にとっても特別な1台なのだ。

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文=山崎元裕(自動車ジャーナリスト)

(ENGINE2020年7・8月合併号)

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