雑誌『エンジン』のアーカイブから、初代911ターボを四半世紀に渡って所有する自動車ジャーナリストの大井貴之のとっておきのストーリーをお送りする。25年の間に起こった悲喜こもごもを、とくとご覧あれ。26歳の誕生日のプレゼント!初めてポルシェ911をドライブしたのは今から31年ほど前の1986年。26歳の誕生日を迎えた直後のことだった。カメラマンとして出入りをはじめ、ペーペーとして某自動車雑誌編集部に常駐するようになって6年が経とうとしていたある日、故徳大寺有恒氏から声を掛けられた。
「大井! 今度26になるんだってな」看板ライターであった氏は常に緊張する雲の上の存在だったが、その氏の提案した誕生日プレゼントはまさに夢のようなものだった。ポルシェ911SCカブリオレを日曜日の夜まで5日間、貸してやるというのだ。なぜ26歳のプレゼントなのかといえば、氏が掛けていた自動車保険が26歳以下は不担保だったからだ。走行距離は2000kmまでOK。どう使っても構わないが、半端なクラッシュだけはするなという約束だった。その日から熱海にある友人のマンションを借り、毎日都内まで通勤。連日箱根を走り、東名で高速走行を楽しんだ。週末には優越感を求めて六本木から赤坂を徘徊してみたが、すぐに間違いに気づき、海岸線を西へ。伊豆半島の南端、石廊崎まで走った。めくるめく時間だった。しかし、それは911に惚れたというのとはちょっと違っていた。その後も何度か911を走らせる機会があったが、オレの頭の中で911はカッコいいけどすでに昔のクルマだった。「911は魅力的だが、もう古い」。944や928といった新時代のFR車に淘汰される存在だと思っていた。ところが、イタリアはミラノにあるピレリのテスト・コースでニュー・タイヤの試乗会が行われた時、一緒だった大先輩の吉田匠氏にそんなことを話すと、こう囁かれた。「911の魅力は、所有してみないと分からないんだよ」その時、ちょっと嫌な気分になったことを覚えている。
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