2020.07.30

CARS

ドッカンターボにアンダーステア それでも運転が楽しかった! 自動車ジャーナリストの佐藤久実さんの転機になったクルマとは

あらためてクルマとともに過ごしてきた来し方を振り返り、クルマが私たちの人生にもたらしてくれたものについて、じっくりと考えてみるスペシャル企画「わが人生のクルマのクルマ」。自動車ジャーナリストの佐藤久実さんが選んだのは、「日産スカイラインGT-R」。レースとGT-Rが現在の礎になっている。

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パイオニア的存在!

日産の技術を総動員して復活した スカイラインGT-Rに乗ったときのことを忘れられない。 自分にとってもパイオニア的存在だと佐藤久実さんは思っている。

人生を変えるような衝撃をもたらした1台のクルマ……。悩む。難しい。コロナ・ウイルスの影響で自粛生活が長引き、クルマ人生を振り返る時間は存分にある。が、1台に絞るのは悩ましい。スーパー・スポーツカーは大好物だし、初めて買った輸入車のルノー・トゥインゴも私にとってはインパクトが大きく思い出深いクルマだ……。



が、結局、私が選んだのは、日産スカイラインGT-R (R32)。バブル経済全盛期の1989年に、「GT-R」の復活を果たし、センセーショナルに登場したモデルだ。

初めてテスト・コースで乗った時のことを、今でも良く覚えている。当時は280psの自主規制があり、国産車の最高出力は280psとされていた。その未知のパワーに恐る恐る乗ったが、速さもさることながら、運転が上手くなったような錯覚を覚えさせるほど乗りやすいクルマというのが第一印象だった。

でも、 その時はまさか自分がGT-Rでレースに出るなんて思ってもいなかった。が、チームの事情やらスポンサーの意向などなど、見事にいろんな条件やタイミングが合い、トントン拍子で話が進んだのだ。そして、91年、現在の「スーパー耐久レース」の前身である「N1耐久」に参戦することになった。

当時の私のレース・キャリアはまだ浅く、前の年は、筑波サーキットでホンダ・シティでレースをしていた。なので、そのギャップの大きさにとまどった。FFから四駆に。100psから300psオーバーに、トップスピードは多分150km/h程度から280km/hに。何もかもが違い過ぎる。

初めてレーシング・カーとなったGT-Rのステアリングを握ったのは、富士スピードウェイでのシェイクダウン・テスト。体感したことのないスピードとパワーに戸惑い、サイン・ボードが読めなかったのを覚えている。

そして、確かにパフォーマンスは高かったが、私にとっては必ずしも市販車での第一印象ほどジェントルではなかった。ハンドリングはアンダーステアが強く、アクセルを踏めばタイムラグからのドッカン・ターボ炸裂。初期型はブレーキが弱かったため、いたわりながらの走行、などなど。だからこそ、少しずつ仲良くなっていくのが楽しく嬉しかった。あるレースで、スタート直後の混乱で接触、ガードレールが視界の正面に入るほど姿勢を乱したのに、そこから姿勢を立て直した時は、電子制御トルクスプリット四駆「ATTESAETS」の威力やSuper HICASの性能に恐れ入り、感動した。

そして、セッティングに関しても常識が覆されたクルマだった。それまでは、サーキットごとにスプリングだのダンパーだのスタビライザーだのを取っ替え引っ替えしながらセットアップするのが普通だった。しかし、GT-Rは電子制御の塊。基本セッティングはほぼ変えることなく、エンジンの出力特性からハンドリング、前後トルク配分まで、小さなロムひとつでまったく別物になった。無限大の可能性がある分、ハマると苦労もしたが。

今でこそ、セーフティ・デバイスはもちろんのこと、スーパー・スポーツカーでもハンドリング特性のために電子制御を使うのは当たり前。でも、当時としては革新的なことだった。つまり、R32GT-Rは間違いなく、そのパイオニア的存在であったと言える。

ジャーナリストとして、復活したGT-Rの進化を見てこられたこと、そしてレーシング・ドライバーとしても大きな転機をもらい、成長させてもらえたクルマに出会えたことに今でも感謝している。

スカイラインの名は取れたものの、約30年後の現在も、GT-Rは日本を代表するスポーツカーとして君臨している。現在の日産は厳しい状況にあるが、どうか、今後もこの名車を絶やさないで欲しいという願いも込めて選んだ。

文=佐藤久実(自動車ジャーナリスト)


(ENGINE2020年7・8月合併号)

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