2016年に復活したホンダのスーパー・スポーツカー、NSX。2019年5月に発売された改良型は、基本を変えない熟成モデル。量産スーパースポーツ初のハイブリッド・カーに乗って考えた。
齋藤 日本を代表するスポーツカーの1台、ホンダのNSX。発表は約3年前の2016年8月。2018年10月に改良モデルの投入を発表して、それがめでたく2019年5月に発売の運びになった。今回乗った1台はその改良型で、鮮やかなオレンジ色は、新色です。
大井 3年経って初めてNSXに乗れましたよ。
齋藤 どうでした? 率直なところ。
大井 すごくイイじゃんと思った。やれ重たいだのトルクベクタリングが上手くいっていないだとかあれこれ聞かされていたんだけど、そんなことないじゃんって。それがタイヤ・グリップの範囲内で走る公道で乗ったせいなのかどうかは分からないけれど、これ以上攻め込んだら別の顔が出てきてしまうかもしれないという雰囲気は感じずに気持ちよく走れた。よく出来ているなぁと。
齋藤 鬼が出てきそうな感じはしなかったわけですね。
大井 そうそう。


齋藤 このNSXって、正式発表前はいい噂がなかったわけじゃないですか。それで期待半分、不安半分な気持ちで正式発表後の公道試乗会に臨んだら、えっ? 何の問題もないどころか、これ、凄い! となったわけですよ。その後、広報車両を借り出して、編集部の皆でいつも走る道で試してもみたけど、いい意味での驚きばかりだった。新しい乗り物に乗っている感じになる。曲がりくねった山道ではとくにそう。すごく重心の低い物が路面にベタッと貼り付いてヒョイヒョイ曲がっていく。まさにオン・ザ・レールの極み。今回改良型に乗ってみても、何か特別に性格が変わったとかそういうことは感じなかった。ただ良くなった。
大井 なるほど。
齋藤 改良ポイントを見てみると、前後ともスタビライザーを2割ほど強化、リアのハブの剛性引き上げ、リアのトー・コントロール・リンクのブッシュ剛性引き上げ、というのが機械的な改良部分での目玉みたい。リアの安定性を上げて、ロールを減らしたと。あとは、このクルマのキモの部分である、前後の駆動力配分やトルクベクタリングも含めた電子制御プログラムの地道な改良熟成ということみたいです。


大井 このクルマはいったい何者なのか、ということがNSXを見る上で重要なことなんじゃないかな。そもそも30年ほど前に初代NSXが出た時も、インテリアはめちゃくちゃ普通のクルマだった。
塩澤 普通のクルマって?
齋藤 毎日乗れるスーパーカーという意味でじゃないの。混雑した街のなかであろうが、お買い物であろうが、とにかく普段の使い勝手がいいクルマ。実用に使えるクルマ。
大井 1990年当時、スーパー・スポーツカーのほとんど全てが、クラッチは重いわステアリングは重いわ視界は悪いわで、諸々の苦がいっぱいくっついてきた。
塩澤 いっぱいくっついてるほどスーパーカーだった。
大井 そうそう。で、そういうスーパー・スポーツカーたちと勝負できる運動性能を持ちながら、何の苦もなくデイリー・ユースができる。通勤にも使えます、ゴルフ・バッグも入ります、というのがNSXだった。この新型NSXは、そういう意味ではコンセプトがぶれていない。
齋藤 いちばん最初に出た時のイメージに近いですよね。でも、昔のNSXって、タイプRが出たりしてどんどん硬派なモデルがイメージの中心を占めるようになっていったでしょ。基本にあるコンセプトは変わらず生涯を全うしたのだけれど。
塩澤 そうだったよねぇ。

齋藤 最初のNSXはポルシェ911が目指していたものを、ミドシップ・スーパースポーツで体現したものだった。新型はそこへ戻った。最新の技術要素満載でね。
荒井 未来を見据えて新しいものを出すという決意はホンダとしてあったと思うな。その意味ではBMWのi8に近いものがあると思う。
齋藤 アメリカ・ホンダのNSX復活を希求する強い意思に動かされて、日本のホンダが重い腰を上げたっていうことなんだろうと思う。僕らが思っている以上に、毎日使えるスーパースポーツってアメリカでは市場があるということかな。パワートレイン系は全部日本製だけれど、ファイナル・アセンブリー工場はアメリカにあるわけで、日本のスポーツカーである以上に、アメリカのスポーツカーという色合いが濃いと思う。開発の大部分を担ったのが日本のホンダだとしてもね。
塩澤 初代NSXが出たのは1990年。その前の年、1989年にはマツダ(ユーノス)ロードスター、日産の32GT-R、トヨタ・セルシオが出た。これらはみな、世界の自動車業界を驚かせた。NSXに話を絞れば、当時、世界のどこにも“エブリデイ・スーパーカー”などというものを真剣に考えているメーカーはなかった。でも30年経って、フェラーリやランボルギーニやマクラーレンですら毎日使えるクルマへと収斂してきた。アウディR8のようなクルマも出たしね。この流れは初代NSXが出発点だった。


齋藤 初代NSX以前にはスーパーカーの世界で、サスペンションに積極的にブッシュ弾性を利用して動的なジオメトリー管理を行なうエラスト・キネマティックの考え方を導入したクルマってなかったわけですよ。起源は1970年代のポルシェの928がリア・サスペンションでやったヴァイザッハ・アクスルにあるにしてもね。この手法のおかげで、NSXはミドシップであるにもかかわらず、誰が走らせても怖くないスーパー・スポーツカー、即ち、毎日使えるスーパーカーになった。グリーンハウスが大きくて視界が良くて、荷物も積めて、運転もしやすくて。
塩澤 新型NSXも、同じなんだよ。フロントに荷物は詰めないけど、視界はめちゃくちゃいい。
齋藤 しかも、初代NSXには2ペダルのAT仕様も用意されていたでしょ。いまでこそスーパー・スポーツカーの2ペダルって常識になっちゃったけれど、当時は他になかった。
塩澤 新型NSXはしかも、格好がスーパー・スポーツカーそのもの。日本には他にない。イタリアやドイツのスーパースポーツが隣に並ぼうが、輝きを失うことがない。

齋藤 一方で、インテリアは初代と同じくエブリデイ・スーパーカーというコンセプトに引きずられすぎているんじゃないかと思う。30年前と違って、フェラーリやランボルギーニですら使おうと思えばさして苦もなく毎日使える性能をもった今では、わざわざそこで日常世界との強いリンクを意識させる必要はないと思う。それよりも、このクルマにしかない非日常空間の演出があった方が、このエクステリアに相応しかったんじゃないかなと。先進的な機械内容を連想させる力も弱いでしょ。
大井 世に数多あるスーパーカーを卒業した人が乗るクルマなんですよ。
齋藤 でもね、前にモーターを2つ置いて、リアにターボ・エンジン+モーターというハイブリッド&トルクベクタリングの手法って、NSXが先鞭をつけた。それと全く同じ手法をフェラーリが追ったわけだから、またもや世界に先んじたんですよ。その先進性をもっと表現してくれれば、と悔しい思いがするんですよ。
大井 頑張れ! ホンダ!
話す人=荒井寿彦+塩澤則浩+齋藤浩之(以上ENGINE編集部)+大井貴之 写真=神村 聖
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