フランク・ロイド・ライトの高弟でもあった建築家の遠藤新。名建築として名高い葉山の邸宅が、現代的な施設に生まれ変わった。
葉山の御用邸から徒歩数分の、緑あふれる丘の麓。この邸宅は、三井物産の重役などを務めた、加地利夫の別荘として1928年に建てられた。設計は、フランク・ロイド・ライトの弟子で、帝国ホテルなど日本でのライトの仕事に全て関わった遠藤新。加地邸も、水平に延びる屋根のラインや、幾何学的な家具など、ライトの流れを汲む遠藤建築の特徴がよく表れている。なんとも個性的だ。
驚くべきは、建物の内外とも、殆ど竣工当時のままに残っていること。独特な装飾的意匠が施されているだけでなく、掃除がしやすいディテールなど、設計は細部にまで行き届いている。用いられている素材のレベルも驚くほど高く、相当に力を入れて建てられた家であるのは間違いない。こうした名建築であるにもかかわらず、利夫の孫の代が数年前まで丁寧に使っていたので、一般には知られることのない存在だった。
ところがこの家は、縁あって同じ神奈川県で事業を営む武井さん夫婦が引き継ぎ、9月から「葉山加地邸」という民泊としてオープンすることになった。新オーナーは、クラシックカーを所有するなど、古いものの文化的価値をよく理解する家族である。館を案内されて感じたのは、加地邸を大切に思う気持ちが極めて強いこと。長年訪れた経験を持つ親族のように思えたほどだ。
さて、90年前に建てられた家で現代人が快適に過ごすのは簡単ではない。照明が足りないうえ、空調も備わっていない。さらに水回りは相当に遅れている。そこで研究家のアドバイスを受けながら老朽化した部分を補修。文化財としての価値を損なわないように配慮しながら、現代の施設として快適に泊まれるように手を入れた。洋風のバスルームだけでなく、旅館のような大きな風呂を新設したのは、最大の改良点だ。
補修・改築の費用は相当額だろう。ビジネスとして考えた場合、割に合わないかもしれない。しかし武井さんは、「この時代の洋館が残っている例は少ない」と、加地邸を後世に伝えていくことに大きな意味を見出している。日本の建築史に残るであろう邸宅は、良きオーナーと巡り合えたようだ。
■建築家・神谷修平 1982年愛知県豊橋市生まれ。早稲田大学大学院修了後、隈研吾事務所に勤務。その後、文化庁の派遣によりデンマークのBIG(トヨタのスマートシティの設計で話題)で経験を積んでから帰国し、2017年に自身の事務所であるカミヤアーキテクツを設立。世界レベルの大胆な提案が注目されている。代表作は当「葉山加地邸」。文化財保存・再生プロジェクトである「九段ハウス」のコンセプトも担当した。
https://kamiya-architects.com/
文=ジョー スズキ(デザイン・プロデューサー) 写真=太田拓実
(ENGINE2020年9・10月合併号)
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