ニュルブルクリンクのラップタイムが6分44秒97という量販市販車の最速レコードを持つアヴェンタドールSVJ。スーパーカーのなかのスーパーカーにエンジン編集部、村上、齋藤、塩澤の3人が試乗した。
村上 こういうスーパーカー中のスーパーカーに乗れるというのは、ある意味すごくおめでたい話だ。
塩澤 こんなクルマに乗ること自体、めったにないことだからね。
村上 見た瞬間に、これぞスーパーカーって、あらためて思った。朝のお台場でちょっと乗っただけでも、振り向かれる率がムチャクチャ高い。
塩澤 こんなにオーラがあって、ここまで突出しているスーパーカーも最近は珍しくなってるからね。
齋藤 イベント用にワンオフで仕立てたような特殊なクルマを除けば、間違いなく世界で最も注目されるクルマですよ。
塩澤 スーパーカーっていうのはランボルギーニのことだと、前からエンジンでは言ってきたけど、そもそもアヴェンタドール自体がその象徴みたいなクルマだからね。
村上 今回はいろんな制約があってサーキットで乗ったわけじゃないし、ワインディングにも行けなかったけど、スーパーカーってなんなんだろうって、しみじみ考えた。見た目はもちろんだけど、乗った瞬間から全然違う。例の赤いフラップを持ち上げて、スターター・ボタンを押すと、キュルキュルキュルってレーシングカーのような独特なセルモーターの音がして、フォン! とV12が目覚める。そのエンジン音もすごいけど、発進がスムーズじゃないところが、ほかのスーパーカーと違うところだね。
塩澤 ガガガガガって、MT初心者みたいな発進(笑)。シングル・クラッチだからなんだけど、はっきり言って、街中でのストップ&ゴーのことなんて考えてない。試してないけど、きっとレーシング・スタートは抜群なんだろうな。
村上 そういうところは独特だよね。
塩澤 走り出してさえしまえば、後はスパン、スパンと繋ぐだけだから。
村上 ところが、その繋がり方が上げるときも下げるときもガンッていうショックが普通のクルマとは全然違うからね。いまどきの自動MTはもっともっとスムーズになってるから、逆にこういうところにスーパーな部分を感じる。
塩澤 ドライブ・モードはストラーダとスポーツとコルサがあるわけだけど、ストラーダを選んで、シフトをオートにしていると、盛大につんのめる。ツイン・クラッチに慣れてしまっていたから、右足でアクセレレーターを上手くコントロールするのを忘れていたよ。
齋藤 あのね、発進でガガガガってなるのは、シングル・クラッチだけどツイン・プレート式だからですよ。770馬力もあるからシングル・プレートだとクラッチの径がものすごく大きくなってしまうところを、ツイン・プレートにして径を抑えてるんだよ。ツイン・プレート式は、場合によってはジャダーっぽいものが出たりするのは仕方がない。ま、走り出してしまえば関係ないんだけどね。
村上 逆にそれが独特でいいんだと思う。それにツイン・クラッチにできない理由があるんだよね。
齋藤 ツイン・クラッチにするとギアボックスの幅がいまより20 ㎝も広がることになる。いまでさえ全幅が2098㎜もあるから、もうこれ以上は広げられない。
村上 トラックじゃないんだから、そんなクルマはありえない(笑)。
齋藤 それもこれも、カウンタック以来続いている、後ろにエンジンがあって前にギアボックスがあるという、ミドシップとしては極めて異例なレイアウトを優先しているからにほかならない。
塩澤 シングル・クラッチにも理由があって、それがカウンタック由来のレイアウトにまで遡ると聞けば、このクルマにしかない、このクルマをスーパーカーたらしめている貴重な要素だとも言える。
齋藤 ストラーダだとショックを嫌ってどうしても半クラッチの時間が長いからンギュってなるけど、コルサは変速時間が極端に短いからどうしてもショックが出る。でもショックの質が硬いだけで大きいわけじゃない。真ん中のスポーツが、実はいちばんショックが大きい。それにしても、ツイン・クラッチ式が出る前は、ほかのスーパーカーもみんなシングル・クラッチ式だったんだけどね。いまはコレだけになっちゃった。
齋藤 いまやスーパーカーと言ってもスーパー・スポーツカーっていう言い方もあれば、スーパースポーツGTもあれば、ハイパー・カーとかアルティメット・カーとかいろんな言い方があるけど、カウンタック、ディアブロ、ムルシエラーゴ、アヴェンタドールっていう系譜はやっぱりどのモデルもスーパーカーだよね。
村上 そう。これぞスーパーカーですよ。いまや12気筒を搭載するのって、あとはフェラーリの812かラ・フェラーリくらいでしょ。
齋藤 ラ・フェラーリは生産が終わってる。自然吸気でかろうじて残っているのはほかにアストンマーティンのラピードくらいじゃない。
村上 だけど2ドアスポーツカーだと812とアヴェンタドールだけ。
塩澤 ミドシップでは唯一。
齋藤 それに、フェラーリの812っていうのはスーパーカーっていうより、スーパースポーツGTと言うべきだよね。
塩澤 昔はスーパーカーって乗り難さでも運転の難しさでもスーパーだったけど、いまやAT免許があれば、電子制御の助けもあって誰もが乗れるようになった。でもアヴェンタドールは敷居が高いままなのがすごい。と言いつつ、少し下がっているけど。
村上 いや、劇的に下がってるよ。ムルシエラーゴあたりまでは、ホントに乗るのが大変だったんだから。
齋藤 ディアブロの初期型なんか、普通の人は重くてクラッチが踏めないからね。
村上 SVJになっても劇的と言っていいほど乗りやすくなってる。まあ、後ろがほとんど見えないとか、アゴを擦りそうになるとか、そういう乗り難さはあるけどね。
塩澤 レーシングカーみたいに車高が低いからね。
齋藤 ただ、乗っていて思ったのは、アヴェンタドールってスーパーカー中のスーパーカーなんだけど、前期型でSVが出たときは物すごいウイングが付いてナリもすごかった。1分の1のミニ4駆みたいだったけど、このSVJはド派手ではない。空力とかマジもので本気で詰めてきてる。
塩澤 SVは見た目は、ハイこのままサーキットへどうぞという感じだったけど、本気でサーキットのことを考えてるのはSVJというわけだ。
村上 SVJは、明らかにウラカンのペルフォルマンテによって得たレーシングカー由来の空力技術を使って仕立てられている。
塩澤 ALA(アエロディナミカ・ランボルギーニ・アッティヴァ)2.0ね。ペルフォルマンテから更にバージョンアップされてる。
齋藤 そのおかげでアヴェンタドールSより40%もダウンフォースがアップしている。あと、ちょっとしか踏めなかったんだけど、そういう空力的なことだけじゃなくて、スーパーカーの典型でありながら、走ることを最優先するスーパースポーツ的な感触がけっこう入り込んできていると思った。
塩澤 同感。力強さのなかに機械的な精密さ、緻密さが感じとれたのには驚いた。インテークマニフォールドを新設計して、吸気バルブもチタン製にしたっていうんでしょ。確実にスーパースポーツとしての質感も高まってるよ。
村上 ランボルギーニがすごいなと思うのは、そういう速く走るための要素をしっかり取り込みながらも、スーパーカーのなかのスーパーカーと言われるような要素を上手くミックスして混在させている。こういう味のクルマはなかなかつくれない。
齋藤 社長がフェラーリからきたドメニカリになってから、こういう方向性への動きが加速したんだと思う。今後ますます楽しみだよね。
▶「ランボルギーニのおすすめ記事」をもっと見る■ランボルギーニ・アヴェンタドール SVJ
駆動方式 ミドシップ縦置きエンジン4輪駆動
全長×全幅×全高 4943×2098×1136㎜
ホイールベース 2700㎜
トレッド 前/後 1720/1680㎜
車両重量〔車検証値〕 1820㎏(前780㎏:後1040㎏)
エンジン形式 V型12気筒DOHC 48V
総排気量 6498㏄
ボア×ストローク 95.0×76.4㎜
最高出力 770ps/8500rpm
最大トルク 73.4kgm/6750rpm
変速機 シングル・クラッチ式7段自動MT
サスペンション 前後 ダブルウィッシュボーン式
ブレーキ 前後 通気冷却式ディスク(CCMC)
タイヤ 前/後 255/30ZR20Y/355/25ZR21Y(P-Zero corsa)
車両価格(税込) 5567万2242円
話す人=村上 政+齋藤浩之+塩澤則浩(すべてENGINE編集部) 写真=神村 聖
(ENGINE2019年3月号)
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