パナソニック汐留美術館で開催中の「和巧絶佳展」。令和を代表する12名の人気作家が、現代美術やデザイン、工芸の枠組みを超えた、新たなる美の世界を作り上げた。
近年、「超絶技巧」という枕詞とともに、幕末から明治時代に作られた工芸品に注目が集まっている。七宝や金工、漆工、陶磁器など、とにかく精巧に、そして精緻に作られた工芸品は、当時の日本にとっては貴重な外貨獲得の手段だった。そして、作っていた多くの職人は、かつては幕府や大名に召し抱えられていた者たちだったという。明治維新によってパトロンを失った彼らは、糊口をしのぐ手段として輸出用の工芸品制作を始め、その結果、明治期の工芸が大きく変化したという。
パナソニック汐留美術館で開催されている工芸の展覧会「和巧絶佳展」は、そんな超絶技巧な明治時代の工芸品を想起させるタイトルであり、展示されている作品もまた、精緻の極みを追求したものが多い。しかし、展覧会で光を当てているものは超絶技巧ではなく、作家たちのクリエイティビティそのものだ。 今回の出品作家は1970年以降生まれという、工芸の世界では「若手」の域にいる12名。明治の職人たちとは異なり、自分の意思で工芸の世界に入った12人は、ジャンルや、それこそ江戸時代から続くような「お約束」の枠を踏み越え、新しい表現を追求し続けている。それゆえか、展示している作品からは、まず最初に製作者が楽しんで作っていることが伝わってくるのだ。
池田晃将の手掛けた螺鈿(らでん)細工は、デジタル数字や細い直線をモチーフにしたもの。目の前の小さな箱の表面に映画『マトリックス』のような世界が封じ込められているかのよう。山本茜は、截金(きりがね)という、飛鳥時代から伝えられる金属箔を使った装飾を、ガラスに入れ込んだ作品を発表している。雪の結晶のような金属の文様と透明なガラスの組み合わせはとても幻想的だ。舘鼻則孝が創る不思議な形の靴は、じつは花魁の高下駄をモチーフにしたもので、独創的な形の礎に日本の伝統があるということに驚く。ほかの作家もまた独自の世界を構築していて、それを表現するために、惜しげもなく長年培ってきた技術を発揮している。こういう世界が好きで、工芸の技術をもってその世界を作り出そうとしているんだな、というのが一人ひとりの作品にまず感じ、その後に精巧な技術に驚くのだ。
日本の工芸は、絶えず変化と進化を繰り返している。明治時代はもちろんのこと、新しい表現を模索する作家が数多く現れている令和もまた、大きな変革期なのかもしれない。新しい発見と驚き、そして人によっては物欲も強くも湧いてくる展覧会だ。
「特別企画 和巧絶佳展 令和時代の超工芸」は9月22日までパナソニック汐留美術館(東京都港区東新橋1-5-1 パナソニック東京汐留ビル4階 ℡. 03-5777-8600)で開催中。
詳細は公式ホームページまで https://panasonic.co.jp/ls/museum/
文=浦島茂世(美術ライター)
(ENGINEWEB オリジナル)
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