公園などに設置されている公共トイレは、できればあまり利用したくない……。そんなイメージを覆す、現代アートのごとき斬新なデザインのトイレが、東京・渋谷区に続々と誕生している。
渋谷区の公共トイレのプロジェクト「THE TOKYO TOILET」が話題になっている。公園などに設置されている17カ所のトイレが、来年の夏までに新しいものに建て替えられる、日本財団の企画だ。設計は、著名な建築家やデザイナーら16人。8月上旬には、坂茂、槇文彦、片山正通、田村奈穂が手がけた5軒のトイレが完成した。どれも個性的で、海外メディアも、早速そのユニークな建物を世界に向けて紹介している。今後、伊東豊雄や隈研吾、NIGO®らの手によるトイレが登場する予定だ。
筆者は長いこと海外で暮らし、様々な国を旅した経験を持つが、公共トイレの少なさに困った経験が多い。その点日本は、公共トイレが多くて助かる。もっとも場所さえ知っていればの話だが。というのも、存在を消すような目立たぬデザインのものが殆どなのだ。今回トイレが設置された公園の横を何度も通ったことがあるが、このプロジェクトを知るまでトイレがあるのに気づかなかった。
ところが今回完成した5つのトイレはどれも存在感がある。遠くからでも目立つのだ。明るく清潔で心地よく使えるのはもちろん、人目に付くことで、子供や女性もより安心して使えるのではなかろうか。坂茂のトイレは、代々木公園脇の、夜は人通りが少ない公園に建っているが、光ることで周囲まで明るく不安なく使えるのが良い。それだけではない。SNS映えするオブジェのような光るトイレは、ちょっとした観光スポットになりつつある。田村奈穂の赤いトイレは、巨大な現代アートの作品のようだが、場所柄タクシードライバーが入れ替わり利用していた。アートなら抵抗があるかもしれないが、トイレだと受け入れ易いようだ。
有名建築家が手掛けたにもかかわらず、十分に利用されずに問題となる公共施設は少なくない。また、挑戦的なデザインが、批判の対象になることもしばしばだ。しかし今回のプロジェクトは、著名なクリエイターに依頼した価値のある、素直に個性を楽しめるもの。デザインの力で利便性と安全性が増し、誰もが使うもので地域の名所になるのなら、多くの人がウエルカムだろう。こんな公共トイレなら、是非近くの公園に欲しいものだ。
文=ジョースズキ(デザイン・プロデューサー)
(ENGINE2020年11月号)
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