2020.10.22

LIFESTYLE

現代アートではありません、すべてトイレです……

坂茂建築界のノーベル賞「プリツカー賞」受賞建築家による、今プロジェクトを象徴するガラスのトイレ。最新の技術が用いられ、使用していない時はガラスが透明になり、外から中がキレイか、誰か隠れていないか確認できるが、使用中は(停電時も)ガラスが曇る構造。夜はカラフルに光り公園を照らす。代々木公園脇2か所に設置。

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公園などに設置されている公共トイレは、できればあまり利用したくない……。そんなイメージを覆す、現代アートのごとき斬新なデザインのトイレが、東京・渋谷区に続々と誕生している。


渋谷区の公共トイレのプロジェクト「THE TOKYO TOILET」が話題になっている。公園などに設置されている17カ所のトイレが、来年の夏までに新しいものに建て替えられる、日本財団の企画だ。設計は、著名な建築家やデザイナーら16人。8月上旬には、坂茂、槇文彦、片山正通、田村奈穂が手がけた5軒のトイレが完成した。どれも個性的で、海外メディアも、早速そのユニークな建物を世界に向けて紹介している。今後、伊東豊雄や隈研吾、NIGO®らの手によるトイレが登場する予定だ。


筆者は長いこと海外で暮らし、様々な国を旅した経験を持つが、公共トイレの少なさに困った経験が多い。その点日本は、公共トイレが多くて助かる。もっとも場所さえ知っていればの話だが。というのも、存在を消すような目立たぬデザインのものが殆どなのだ。今回トイレが設置された公園の横を何度も通ったことがあるが、このプロジェクトを知るまでトイレがあるのに気づかなかった。


ところが今回完成した5つのトイレはどれも存在感がある。遠くからでも目立つのだ。明るく清潔で心地よく使えるのはもちろん、人目に付くことで、子供や女性もより安心して使えるのではなかろうか。坂茂のトイレは、代々木公園脇の、夜は人通りが少ない公園に建っているが、光ることで周囲まで明るく不安なく使えるのが良い。それだけではない。SNS映えするオブジェのような光るトイレは、ちょっとした観光スポットになりつつある。田村奈穂の赤いトイレは、巨大な現代アートの作品のようだが、場所柄タクシードライバーが入れ替わり利用していた。アートなら抵抗があるかもしれないが、トイレだと受け入れ易いようだ。


槇文彦
ヒルサイドテラスなどを手がけた、我が国を代表する建築家の手がけたトイレのコンセプトは、「休憩所を備えた公園内のパビリオンとして機能する公共空間」。中庭やベンチまである真っ白で風が抜けるトイレは、建物の配置をずらしてプライバシーを守る配慮も。通称「タコ公園」にあるので「イカのトイレ」と呼ばれるか?


田村奈穂
ニューヨークを拠点に活動するデザイナーが込めた想いは「社会に属する全ての人たちが、安全でハッピーに」。以前もタクシードライバーの利用が多いトイレだったが、前の道路にクルマを停めて利用するドライバーの多さに驚かさる。山手線の土手と道路に挟まれた狭い三角形の土地に、男性、女性、多目的の三つのトイレ空間を設けた。


片山正通/ワンダーウォール
世界的に活躍するインテリアデザイナーが手がけた、コンクリートの壁を15枚組み合わせた、シンプルな構成のトイレ。壁と壁の間が男性、女性、多目的の3つのトイレへの入口となっており、プライバシーはしっかり。コンクリート打設時に使われた木枠の跡が美しく、公園の遊具の隣で大人な雰囲気を醸し出している。

有名建築家が手掛けたにもかかわらず、十分に利用されずに問題となる公共施設は少なくない。また、挑戦的なデザインが、批判の対象になることもしばしばだ。しかし今回のプロジェクトは、著名なクリエイターに依頼した価値のある、素直に個性を楽しめるもの。デザインの力で利便性と安全性が増し、誰もが使うもので地域の名所になるのなら、多くの人がウエルカムだろう。こんな公共トイレなら、是非近くの公園に欲しいものだ。


文=ジョースズキ(デザイン・プロデューサー)


(ENGINE2020年11月号)

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