ジョン・レノンのベスト・アルバムはこれまでにも数種リリースされている。なので、またベスト盤かぁと思った人もいるだろう。自分も初めはそう思った。ただでさえザ・ローリング・ストーンズ『山羊の頭のスープ』、プリンス『サイン・オブ・ザ・タイムズ』、ルー・リード『ニュー・ヨーク』と、このところ驚くような未発表テイクを多数加えた歴史的名盤の新装リリースが続いているのだ。お金だって続かない。
がしかし、驚くような未発表テイクがなくとも、ジョン・レノンの生誕80年を祝う意味でリリースされるこの最新ベストアルバム『ギミ・サム・トゥルース.』は持っていたい作品だし、広まってほしい作品であるなと、曲の並びを見てそう思った。2020年の「今聴いても」ではなく、「今聴いてこそ」リアルに響いてくる曲の並びになっているのだ。
全19曲のCD1枚もの、全36曲のCD2枚組、ブルーレイのついたデラックス盤、2枚または4枚のアナログ盤セットなど、さまざまなフォーマットでのリリースとなるが、基本となるCD2枚組の曲順を見てみると、1曲目が「インスタント・カーマ」で、2曲目が「コールド・ターキー(冷たい七面鳥)」で、3曲目が「ワーキング・クラス・ヒーロー(労働階級の英雄)」で、4曲目が「孤独」(1枚もののほうは「インスタント・カーマ」→「コールド・ターキー(冷たい七面鳥)」→「孤独」→「パワー・トゥ・ザ・ピープル」と続く)。いきなり「インスタント・カーマ」で始まって、2曲目で早くも薬物の禁断症状を呻いて歌った「コールド・ターキー」のヘヴィさに引きずり込まれるのだ。実に核心をついた始まりの並びではないか!
“きみに起こる全てのことはきみ自身によって引き起こされるんだ” “自分の居場所が見つからないって? きみはどこにでもいけるというのに”。アドバイスと警鐘が歌い込まれた「インスタント・カーマ」はジョンがレコーディング当日の朝に1時間程度で作曲し、夕方から深夜にかけて録音。1日で完成させ、約10日後には店頭に並んだシングルとしても知られている。体制による抑圧に対する異議申し立てを力強く歌った「パワー・トゥ・ザ・ピープル」に関しては、最近読んだ記事にこんなジョンの言葉が紹介されていた。「“平和を我等に(Give Peace a Chance)”がそうだったように、“パワー・トゥ・ザ・ピープル”も大勢の人たちに歌ってもらうために書いた曲です。僕は新聞を作るような姿勢でシングルを作っている」。その曲はジョンが政治活動家のインタビューを受けて触発され、ごく短期間で仕上げたものだそうだ(「家で、奥さんにはどんなふうに接している? 彼女は自然体でいられるかい? それが彼女の自由なんだ」とも歌い込まれてるいることは極めて重要だ)。新聞を作るような姿勢で曲を作る。触発され、沸き起こるものがあれば、すぐに曲にして、すぐに出す。それは4~5年前のケンドリック・ラマーやチャンス・ザ・ラッパーのような姿勢とも言えるし、まるでサブスクリプション時代のスピード感だとも言える。
CD2枚組では「ワーキング・クラス・ヒーロー(労働階級の英雄)」の次、1枚ものでは「コールド・ターキー(冷たい七面鳥)」と「パワー・トゥ・ザ・ピープル」に挿まれた「孤独」は、静かだがソウルフルなピアノに乗せてこんなふうに歌われる。“僕らは人間どうしが怖いんだ” “太陽は決してなくならない でも世界はもうあと何年も続かないだろう みんなが孤独なんだ”。
人種差別。性差別。不当労働。SNSでの誹謗中傷。薬物依存……。さまざまな問題が山と積まれ、分断が進み、許容が失われ、多くの子供と若者が孤独を感じ、まさに“人間どうしが怖い”と思わずにはいられなくなってしまった2020年に、ここに収録されたジョン・レノンの歌は驚くほどリアルに響く。まるで今の社会と今の僕たち私たち若者たちの気持ちを歌っているような、そんな曲が選ばれ、ジョンはひとりの、ただの人間としてどう感じていたか、それが痛いほど伝わってくる。
このニュー・ベストはヨーコ・オノがエグゼクティヴ・プロデューサーを務め、ショーン・レノンがプロデュース。ふたりが選曲したそうだ。2020年にジョン・レノンの歌とメッセージを伝えること。響かせること。ハッキリとそこに焦点を絞ったような素晴らしくも大胆な選曲と曲順であり、個人的には特に“ジョン・レノンと言えばイマジン”というような、浸透しすぎて時々鬱陶しくもなる固定イメージを打破するものになりえているのもいいと思える。恐らくはショーンの考え(ジョンに対する思いと、現代社会に対する思い)が色濃く反映されての選曲・曲順に違いない。
タイトルを『ギミ・サム・トゥルース.』とした意図も明白だ。もちろんここにも収録されているその曲は、こう歌われる。“僕はもうたくさんだ うんざりしてるんだよ 目先のことにばかりとらわれてピリピリした狭量な偽善者たちの話を聞くのは 僕が欲しいのは真実だけだ いいから少しくらい真実をくれよ”。そのジョンの訴えは、現在44歳のショーンの訴えでもあるだろうし、まさしく我々の訴えでもある。
ジョンがMBE勲章を返還しに行った日に撮影されたという写真を使ったジャケットもいいし、オリジナルのマルチトラックから新しく転移~リミックスしたという音質もいい。昔よく聴いた懐かしい曲を聴き返すというのではなく、今の曲、今のメッセージとして捉え、考えながら聴くべき作品だ。
文=内本順一(音楽ライター)
(ENGINEWEBオリジナル)
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