2020.11.29

CARS

BMW i8ロードスター×アウディTTロードスター 生産終了、残りわずか! こういう時こそ乗りたいオープンカー

BMW がハイブリッドの新たな可能性を求めたi8のオープン・モデルと、アウディが20年以上追求してきたFFのスポーツ・クーペ、TTのオープン・モデル。生産終了が決まった2台を惜しみながら座談会。


荒井 ポルシェ911カレラ・カブリオレとBMW M8カブリオレに続く、ジャーマン・オープン・スポーツ第2弾はBMW i8ロードスターとアウディTTロードスターです。あちらの2台が2+2だったのに対し、こちらは2台とも2座オープンです。


村上 今回のオープンカー特集はロードスター、スパイダー系ではなくて、カブリオレ、コンバーチブル系を取り上げることにした。その趣旨からすると、この2台は入ってこない。それなのにどうしてロードスターという名前が付いているこの2台を取り上げたのかというと、ピュア・スポーツとしての側面よりも、オープンカーとして楽しもうという側面の方が、より強いと感じられるから。そのことは最初に言っておきたい。


新井 まあ、乗ってみればすぐわかりますけどね。


塩澤 i8ロードスターはようするにエコ・カーでしょ。空力が考慮されたスタイリングはスーパーカーと言ってもいいほどだけど、タイヤがエコ・カー。壮大なBMWの実験という感じがする。そこが面白いんだけど、これを生活に取り入れるのは大変だと思う。


誰でも楽しめる

村上 この2台に共通するのは、走る楽しみを誰にでも手に届くカタチで提供していること。ロードスターという名前が付いているのだから、走りに力点を置いたクルマであることは間違いない。僕はとりわけアウディTTロードスターは、本当に誰もが手軽にスポーティな運転を楽しめるクルマだと思う。箱根ターンパイクをこれで走れば、誰もが“ちょっと運転がうまくなったような気分”になれるはず。こんなクルマ、そうそうないと思った。しかもオープンカーだから、風や光や匂いなんかが入ってくる。そういうものを味わいながら、ほどほどの速度で走っていると、本当に気持ちがいい。ピュアなロードスターに乗っていると、目が吊り上がっちゃってなかなか味わえない部分まで、味わえるロードスターなんだ。アウディTTロードスターはこれで最後なの?


新井 最後です。


塩澤 もしかしたら復活するかもしれないけど、それはEVだろうね。


耐候性に優れた3層構造のソフトトップを持つアウディTTロードスター。TTクーペと比べて車重は90kg重く1510kg。ソフトトップの開閉時間は約10秒。50km/h以下であれば走行中でも開閉できる。ソフトトップはクーペでは後席にあたる部分に収納される。ソフトトップを閉じた状態での荷室容量は280リッター。インテリアはクリーンな印象。「アウディ・バーチャル・コックピット」と名付けられたメーター内には車両情報に加え、ナビゲーション・マップも表示可能。

村上 本当に惜しい。それぐらい素晴らしかった。FFベースのスポーツカーを作るのってなかなか難しいんだよね。アウディは苦しみながらTTでずっと挑戦を続けてきた。今回TTロードスターに乗って、ある高みに到達したと思った。こんなに民主的なスポーツカーはほかにない。


爽やかなTTロードスター

荒井 ちょっとね、ナメてたんですよ、TTロードスター。だって、911カブリオレ、M8 カブリオレに乗ったばかりだったし、組み合わせの相手はi8ロードスターでしょ? 価格も全然違うじゃないですか。ところが乗ってビックリ。乗り味がとても爽やか。大きさも手ごろだし、こんなにいいクルマだったんだ! と思った。


村上 そうそう。爽やかという言葉がぴったり。


塩澤 マツダ・ロードスターみたいだと思った。


村上 そう? マツダ・ロードスターよりTTロードスターのほうが普通の人が運転したら気持ちいいと思うはず。


塩澤 ライト・ウェイトな感覚がマツダ・ロードスターっぽい。


村上 実際はそんなに軽くない。


塩澤 そうなんだ。走った感じはライト・ウェイトのそれだよね。


村上 そう。でもあくまでも軽快感であって、本当に軽いマツダ・ロードスターのそれとは違う。


荒井 1・5トンある。


村上 ポルシェ911カレラぐらいあるわけでしょ。それなのに軽やかで爽やかな印象がある。


新井 歳取ったせいか、コロナ禍だからか、TTロードスターはすごくいい頃合いのクルマだった。ライバルのマツダ・ロードスター、メルセデス・ベンツSLK、BMW Z3やZ4は後輪駆動のちゃんとしたスポーツカーだった。そこになんとか追いつこうとしたけど、やっぱりFFが足枷になって追いつけなかった。


荒井 初代TTは見た目勝負だったからね。


村上 高速走行での接地性が問題になってスポイラーを付けたりした。


新井 もう少しスポーティにならないかなあ? と、ずっと思っていたけれど、今回乗ったら丁度いい気持ち良さがあった。


新しい世界

村上 i8ロードスターにはそれとはまったく違う新しい世界がある。これも乗れば気持ちがいいけれど、ロードスターとして、速さを極めようというものとはまったく違う。


塩澤 ようするに“なんちゃってロードスター”です。新しい提案であることには間違いないけど。


新井 最初に乗ったときは異端な感じがしたけれど、いま乗るとハイブリッドに乗り慣れてきたせいか、意外とフツーですね。


荒井 みんなが箱根で乗ったときにはほとんど電気がなかったから。


村上 そう。だから意外と遅いクルマだった。


荒井 でもね、BMWから借り出して、公道をスッと走り出したときは、やっぱりこれまでとは違うものに乗っている感覚は強かった。


塩澤 宇宙的な乗り物だった?


荒井 そうそう。頭のなかでピンク・フロイドが鳴った。


村上 僕のときは1・5リッター3気筒ターボのクルマだったけれど、それでも走りの気持ち良さは、間違いなくある。重心を低くしてあったりとか、前後の重量配分がよく考えられているあたりは流石BMW。


荒井 トップは開けても、それほど見た目の印象が変わらないし、Aピラーが寝ているから開放感もそんなにない。一方で超高剛性のフル・カーボン・ボディのおかげでユルイという印象はまったくない。


アルミニウム合金製のシャシーの上にフル・カーボン・ボディを組み、オープン・モデルながら高い剛性を誇るi8ロードスター。オープン化による車重増加はわずか60kg。ソフトトップを模したリトラクタブル式トップはクーペでは後席にあたる部分に収納される。開閉時間は15秒、50km/hまでなら操作可能。

新井 開放感はあまりないですね。Cピラーを残したトンネル・バック・スタイルは無理やり感がある。特殊なパワートレインを使ったドア跳ね上げ式4座クーペが思ったほど売れなかったから、オープンカーに活路を求めたのかもしれない。


荒井 i8ロードスターの屋根を開けてどこへ行くんだろう? これが似合う場所を探すのはなかなか大変じゃない?


村上 どこにも行かなくていいんだと思う。


一同 えー!


村上 どこか目的地があって出かけるようなクルマじゃないんだと思う。どこにいてもi8ロードスターはi8ロードスターとして存在する。


荒井 いやあ、確かに都内でもすごく注目された。


村上 なにしろ数が少ないから。久しぶりに見るとやっぱりカッコイイ。ディテールも凝っていて、相当考えられたデザインだよね。さっき塩澤さんが“なんちゃってロードスター”って言ったけれど、そんなこと言ったらTTロードスターもそう。で、その“なんちゃって”の良さをこの2台はすごく持っている。TTのカタチってやっぱりどこかポルシェ911を意識している。でも、ポルシェ911よりずっと敷居が低くて、手軽に運転の気持ち良さが味わえる。それは素晴らしいことだと思う。ましてや屋根が開けば、言うことない。


荒井 “なんちゃって”なんて言うけど、TTは普通の人が乗ったら、なんて速いクルマなんだろう! って感じるはず。新井 スポーティですよね。


荒井 わたしたちはスーパー・スポーツカーに乗りすぎちゃって、麻痺している。


村上 それはi8ロードスターに対しても言える。普通の人が乗ったら驚くほど速い。


電動モーターのみを使ったEV走行の最高速度は120km/h。満充電で最長53kmのEV走行が可能。
シートの後ろには荷物を置くスペース(92リッター)がある。

荒井 やっぱりi8ロードスター、いいクルマだと思ったなあ。トップを開けると、シンセサイズド・サウンドがミックスされた快音がダイレクトに聞こえるのもいい。


村上 BMW i8という単体のビジネスとしては成功しなかったかもしれないけれど、BMWという存在を知らしめた。広告塔としてはすごく大きな成果を残した。


塩澤 BMWってそういうクルマが多い。挑戦をするところがすごい。


村上 Z1やZ8もそうだった。憧れのブランドであり続けるためには大切なこと。


フツーに使える

新井 i8はどこにも行かなくていいって話が出ましたけど、TTロードスターはどこへでも行けます。オシャレに乗りたければ、トップの色を変えたりして。そこまで目立ちたくない人は黒&黒でもいい。


村上 TTクーペは2+2なのに、ロードスターが2座なのは幌を格納するスペースが必要だからだよね。


新井 その分、トランクはそんなに犠牲になってない。


塩澤 2人で乗るんだったら実用性も文句ないでしょう。


荒井 今回の特集ではすごくオススメの1台。


新井 ホームセンターには行けないけど、コンビニには行ける。


村上 コンビニで思いついたんだけど、この2台はコンビニエントな気持ち良さを持っている。コンビニエント・ロードスター。身近にスポーティな気分が味わえて、オープンで、しかも実用性もある。


新井 ハッチバック・ベースのオープンカーがなくなってしまったのは残念ですね。日本の軽自動車を除けば、ここがオープンカーの入門になっちゃった。


村上 マツダ・ロードスターの方が安いんだけど、あっちは本格スポーツカーだから、それなりの運転技術がないと気持ち良くは走れない。でもTTロードスターなら、そんなことを気にせずに普通に気楽に乗って気持ちいい。


新井 トヨタ86のオープン・モデルがあったら、そういうクルマになったかもしれない。4座でそこそこス70ポーティなオープンカー。採算が取れそうもなくて、やめちゃったみたいですけど。


荒井 TTロードスターもi8ロードスターもなくなるわけだから、さらにオープンカーが選べなくなる。


新井 そうそう。Z4もこれで終わりだし。SLCは終わったし。


村上 ポスト・コロナでもっともっとオープンカーを作る時代になったっていいんじゃないかと思う。やっぱりポスト・コロナ時代にはオープンカーは必需品だよ。


荒井 公共交通機関を嫌い、自分のクルマで移動する機会が増えるんだと思う。そのなかで楽しみを見つけようと思ったら、オープンカーは絶対アリだよね。


村上 あと50万円出せばオープンになるなら絶対そうしたほうがいいし、あと100万円出すとしても、迷うぐらいの価値はある。


塩澤 中古車でもいい。みなさん、一度オープンカーに乗ってみてください。


■BMW i8ロードスター


駆動方式 4WD(前:電動機+後:横置き内燃機)
全長×全幅×全高 4690×1940c×1290mm
ホイールベース 2800mm
トレッド 前/後 1645/1720mm
車両重量 1650kg
動力源形式(前) 交流同期型電動モーター
総電力量/定格出力 11.6kWh/75.0kW
最高出力/最大トルク 143ps/4300rpm/250Nm/100~4100rpm
動力源形式(後) 直列3気筒DOHC直噴ターボ+6AT
総排気量 1498cc
最高出力 231ps/5800rpm
最大トルク 320Nm/3700rpm
総合出力/総合トルク 374ps/570Nm
サスペンション 前/後 ダブルウィッシュボーン/マルチリンク
タイヤ 前/後 195/50R20 215/45R20
車両本体価格 2276万円


■アウディTTロードスター45 TFSIクワトロ


駆動方式 フロント横置きエンジン四輪駆動
全長×全幅×全高 4190×1830×1360mm
ホイールベース 2505mm
トレッド 前/後 1565/15545mm
車両重量 1510kg
エンジン形式 直列4気筒DOHCターボ
総排気量 1984cc
最高出力 169ps/4500~6200rpm
最大トルク 370Nm/1600~4300rpm
変速機 6段AT
サスペンション 前 マクファーソンストラット/コイル
サスペンション 後 ウィッシュボーン/コイル
ブレーキ 前&後 通気冷却式ディスク&ディスク
タイヤ 前&後 245/40R18
車両本体価格 626万円


語る人=村上 政+塩澤則浩+荒井寿彦+新井一樹(以上ENGINE編集部、まとめ荒井) 写真=神村 聖


(ENGINE2020年11月号)

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