これまで約30年、4世代にわたって「もっとも売れるルノー」であり続けてきたルーテシアだが、先代は歴代でもとくに成功したルーテシアだった。それはモデルライフの最後の最後まで、フォルクスワーゲン・ポロやトヨタ・ヤリスなどが属する欧州Bセグメント市場で売り上げNo.1の地位をキープしたという。
5代目となる新型ルーテシアはそんな大成功作の後を継ぐだけに、まさに横綱相撲、超キープ・コンセプトのモデルチェンジといっていい。とくにエクステリア・デザインはすべてが新しいのに、先代のイメージを忠実に受け継ぐ。
フロント・ライトや細かいプレスラインこそ新しいが、「ルーテシアらしさ」を表現する基本プロポーションは先代とほとんど変わらず、ボディ・サイズも微調整の域にとどまる(しかも、わずかに小さくなった)ので、よほどルーテシアに詳しい人間でないと新旧の区別すら難しいほどである。しかし、それこそがルノーのねらい。
先代ルーテシアが歴史的ヒット作となったのも、そのスタイリングが最大の要因だったそうだ。なるほど、ルーテシアのエクステリアは素直にバランスの取れた流麗なデザインだと思う。
このように見た目はキープ・コンセプトでも、中身はことごとく新しいのも特徴である。 基本骨格となるプラットフォームは今後のルノー・日産・三菱アライアンスを支える完全新開発であり、新型ルーテシアが市販化第1号となる。
欧州ではいくつか設定されるエンジン・ラインナップの中で日本仕様に選ばれたのは最上級となるユニット。アライアンス3社とダイムラーで共同開発した1.33リッター4気筒ターボで、ルノーとしては今回が日本初上陸だ。これまでは他社に明らかに出遅れていた先進安全支援システム(ADAS)はこの新型では “ゲームチェンジ” というべき飛躍的な進化を遂げて、一気にクラス・トップ級に躍り出た。
歩行者・自転車対応の緊急自動ブレーキや車間距離警告、車線逸脱警報、後側方車両検知警報、道路標識認識機能、リア・カメラ、そして電動パーキング・ブレーキによる全車速対応+渋滞追従機能付きのアダプティブ・クルーズコントロール……は全車標準装備。
さらに最上級グレードの「インテンス・テックパック」には、車線中央を能動的に維持するレーン・センタリング・アシストや、日本では必須の人気装備になりつつある360°カメラが追加となる。いずれにしても、Bセグメント用ADASとしては「普通に思いつくものすべてプラスアルファ」といえる品ぞろえである。
そのADAS機能の実際の能力や使い勝手も高度だ。道路標識認識機能の日本の道路における “誤読・失読” の少なさは欧州車トップ・レベルといっていいし、レーン・センタリング・アシストはかなり介入が強力でありながら、作動はあくまで滑らかな部類に入る。アダプティブ・クルーズコントロールの加減速も、意外なほど積極的で素直に小気味いい。
先代から見るからに大きく変わった部分があるとすれば、それはインテリアだろう。これまでにないコクピット感覚も新しいが、それ以上にソフトパッドや繊細なメッキ、レザー素材を効果的にあしらった調度類の質感は完全にひとクラス上といっていい。なんとステアリング・ヒーターが全車標準なのも、それを一度でも使ったことがある人には、けっこう強力なキラー・アイテムとなるはずだ。
気になる走りは、これまでどおりのルノー味と、新しさが共存する。あくまで安定志向で穏やかな挙動に徹するルノー伝統のシャシーの基本特性は、新開発プラットフォームでも健在である。いっぽうで、これまではスロー気味のレシオを好んできたルノーのステアリングは、最近トレンドに沿ってクイック化されており、交差点やS字コーナー、せまい路地などでは操作量が明確に減少して、長く乗るほど疲れにくいと実感するだろう。
すべてが新しくなったルーテシアだが、デザインや走り以外の部分にも奇をてらうような飛び道具はなく、どこを取り上げても「素直によくできている」あるいは「実用的でバランスがいい」としか表現しようがない。こういう普通に飽きない美しさのあるルーテシアこそが欧州スタンダードであり、欧州No.1の横綱相撲ということだ。
欧州の「いま」にしみじみと浸りたい好事家なら、新型ルーテシアのようなクルマに乗ることをオススメする。
文=佐野弘宗 写真=小林俊樹
(ENGINE WEBオリジナル)
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