建築家の廣部剛司さんは自分でも1974年型のスパイダー・ヴェローチェに乗る根っからのアルフィスタでもある。そんな廣部さんが進化を遂げた新型ジュリアの2.0ターボ・ヴェローチェに試乗。建築にも通じるアルファ ロメオのDNAについて語った。
「やっぱりアルファだなと思えるのは、走り出すとテンションが上がるところですね。アルファって、ドライバーズ・シートに座っただけで、『ドライビングしよう』という気分が高まってウズウズしてくるんですが、ジュリアにもちゃんとそれがある。同じだなと思いました」
廣部さんは、ジュリアの試乗から戻ると、開口一番にそう言った。スパイダーを運転したときは、家に帰ってくると疲れていることに気がつくことがよくあるという廣部さん、なぜ疲れるのかと言えば、「一生懸命ドライビングしていた」から。ジュリアに乗った廣部さんは、思わず運転に集中していたことに気がつくと、「あのときと一緒だ」と思ったそうだ。
「一見すると、ラグジュアリーなセダンに見えるけれど、コクピットに収まった途端、やる気になった」という廣部さんによると、ジュリアの魅力はやはりハンドリングにあるという。
「駐車スペースから道路に出てすぐにわかりました。ステアリングのフィールが軽い。そしてクイック。決して小さなクルマではないのにヒラリヒラリという感じがすごくある。思わずニヤニヤしてしまいました(笑)。しかもめちゃくちゃ速い。普通に走らせているときはフレンドリーで、エンジンも手強くない。パワーもすごくあるけれど、アクセルを踏むのは怖い感じはしないんです。変ないい方かもしれないけれど、『エンジンの回転が読める』感じ。突然豹変したりしない。走行モードも変えて走ってみましたが、走りはダイナミックだけれど、エンジン回転だけに引っ張られている感じがしない」
さすがに長年スパイダーに乗り続けているだけあって、指摘するところが“アルファ目線”なところがアルフィスタの廣部さんらしい。「エンジンの回転が読める」「エンジン回転だけに引っ張られている感じがしない」とは、エンジンとシャシーのバランスが優れているから感じられることで、試乗した2.0ターボ・ヴェローチェの狙いはまさにそこにある。オールアルミ製の4気筒ターボの280馬力の最高出力は、官能的な力強さと扱いやすさのバランスを考えてのもの。シャシーにも一切手抜きはなく、総アルミ製のサスペンションとカーボン製のプロペラシャフトなどで軽量化もぬかりはない。このエンジンとシャシーの絶妙なチューニング・バランスによる軽快なハンドリングこそがアルファ ロメオDNAだ。
「あと、あの音が素晴らしい。あのエンジン音は絶対に“デザイナーの世界”だと思う。建築もそうですが、高い方の音を削るのが遮音の制御では楽な方法ですが、ジュリアは高い方のエンジンが吹け上がる音がちゃんと残してある。どちらかというとそちらの方が印象に残る。音からもエンジンと人間が向き合っている感じがするのはスパイダーも同じで、繋がっている。ちゃんと音環境からもデザインされていると、建築家的には思いましたね」
廣部さんがいまも乗り続けている2000スパイダー・ヴェローチェを手に入れたのは勤めていた建築事務所から独立する前の25歳の頃。一時は仕事用にと147ツインスパークとのアルファ2台持ちの頃もあったが、どちらか1台を手放さなければならなくなったときに選んだのは、スパイダーの方だった。建築家としてスパイダーとともに歩んできた廣部さんが、ジュリアのインテリアについて語ったコメントが興味深い。
「新しくなったというタッチパネルですが、アナログ的なところもあるんですね。階層ごとに役割が整理されていますが、常に人間を意識していると感じました。デジタルを使っているけれど、デジタルに支配されないようにしている。運転したフィーリングにも通じることですが、人を大事にしていると思う」
人を真ん中に置いてつくりあげて行く作業は、クルマと建築には通じるものがあると廣部さんはいう。デザインの作業はその最たるものだろう。ジュリアは、一見するとわかりやすいフロントに目が行きがちだが、廣部さんはフロントからサイド、リアにまで続く全体が緻密にデザインされているという。
「デザインというのは、何かを強調して強く押し出そうとすると、品がなくなるんです。家もそうなんですが、たくさんある要素を消して何かを出そうとすると記号としては強く伝わる。しかし、それぞれの要素のひとつひとつに丁寧にカタチを与えていくと全体として美しい空間ができあがる。ジュリアもまさにそうで、特にサイドからリアに続くデザイン周りには、ディテールを磨き上げることで生まれるエレガントさを感じます」
この日、ジュリアを試乗しながらたどり着いたのは、伊豆のとある場所にある廣部さんが設計した別荘だった。建物の基礎を兼ねたコンクリート部分の上に木造の架構を載せた建物の室内に、視線を遮るような柱はない。窓の外にある庭に面して多角形的にカーブした空間が、静謐な室内にわずかに躍動感を与えている。この空間をつくり出しているのが、コンクリート壁の角度やアールであったり、細いスチールの手すりの曲げ具合であったり、連続的に変化する木造の屋根形状であったりという丁寧に作り上げられたディテールだということに驚く。
空間全体が大きな力を持った特別なモノになっていることがよくわかった。ただ生活するだけなら必要のないものかもしれないが、自然と豊かな気持ちなる、アートのような空間。クルマにも同じようなことが言えて、乗るとワクワクして、眺めているだけでも「いいな」と思えるような、五感を刺激してくれるクルマがある。まさにアルファ ロメオはそういうクルマなんだと思う。
全長×全幅×全高=4655×1865×1435㎜。ホイールベース=2820㎜。車重=1630kg。エンジン=2リットル直列4気筒マルチエア16バルブ・インタークーラー付きツインスクロール・ターボ。最高出力=280ps/5250rpm。最大トルク=400Nm/2250rpm。トランスミッション=8段A T。価格=598万円(税込)
廣部剛司(ひろべ たけし)1968年神奈川県生まれ。一級建築士。日本大学理工学部海洋建築工学科卒。芦原建築設計研究所に7年間勤務後、世界の建築を巡るために8ケ月をかけて世界を一周。のちに『サイドウェイ 建築への旅』として出版。1999年、廣部剛司建築設計室設立。2009年(株)廣部剛司建築研究所に改組。近著に『世界の美しい住宅』(エクスナレッジ刊)がある。
無料メールマガジン会員に登録すると、
続きをお読みいただけます。
無料のメールマガジン会員に登録すると、
すべての記事が制限なく閲覧でき、記事の保存機能などがご利用いただけます。
取材・文=塩澤則浩(ENGINE編集部) 写真=鈴木 勝
PR | 2024.11.27
CARS
14年30万kmを愛犬たちと走り抜けてきた御手洗さんご夫妻のディス…
2024.11.23
LIFESTYLE
森に飲み込まれた家が『住んでくれよ』と訴えてきた 見事に生まれ変わ…
PR | 2024.11.21
LIFESTYLE
冬のオープンエアのお供にするなら、小ぶりショルダー! エティアムか…
2024.11.21
CARS
日本市場のためだけに4台が特別に製作されたマセラティMC20チェロ…
PR | 2024.11.06
WATCHES
移ろいゆく時の美しさがここにある! ザ・シチズン の新作は、土佐和…
2024.11.22
WATCHES
パテック フィリップ 25年ぶり話題の新作「Cubitus(キュビ…