大きなキドニー・グリルに目も話題も集中しがちな新型4シリーズだが、精密機械のように滑らかでパワフルなエンジンをはじめ、スポーツ・クーペとしての完成度の高さには目を見張るものがあった。
新型4シリーズは2020年6月のワールドプレミア以来、世界中の好事家の間で議論を巻き起こした。その理由はいうまでもなく、この巨大なキドニー・グリルだ。これまでも徐々に拡大してきたキドニーも、ここ数年はヘッドライトに密着するようになり、横方向の伸長は限界に達していた。それならば……とばかりに、今度は縦方向に拡大したのが新型4シリーズというわけだ。
これをカッコいいと思うかどうかは個々人の主観にお任せするにしても、まだ写真でしか新型4シリーズを見ていない向きに申し上げると、実車は写真よりははるかに真っ当な仕上がりである。控えめな造形とは言わないが、顔だけが悪目立ちするわけでもない。そもそも、こうして議論を巻き起こしているだけで、BMWの思惑はほぼ達成されたと言っていい。

ボディ・サイズは全長4775mm×全幅1850mm×全高1395mm。3シリーズ・セダンより全高が50mm低く、リア・トレッドが23mm拡大された新型4シリーズそのものは、流麗で美しく古典的なクーペらしいプロポーションをもつ。4シリーズ(かつては3シリーズ・クーペ)の伝統として、フル4座というべき実用的な空間が用意されている。兄貴分8シリーズほど極端な扁平ルーフでもなく、キャビン形状も自然である。もしここに従来どおりのキドニーが組み合わせられていたら「端正すぎて印象に残りづらいのでは?」と思わなくもない。

新型4シリーズのデザインはかように賛否両論だが、その走行性能や乗り味についての議論なら、ほとんどの意見が「賛」で埋め尽くされるだろう。少なくとも今回試乗したM440i xDriveについていえば、その走りは率直にいって、素晴らしいものである。
可変ダンパーやパワートレインの統合制御をコンフォート・モード(あるいは標準モードにあたるアダプティブ・モード)にセットしたM440iは、とにかく滑らかな乗り心地を披露する。しかも、ただ凹凸を柔らかに吸収してくれるだけでなく、上屋はピタリとフラットに安定したまま。体感的にはロールはほとんどしない。
そのまま走行ペースを引き上げて、ときおり強めの横Gに見舞われるようになると、そのフットワークは見る見るうちに引き締まっていくのだが、それでも水平姿勢はピタリと保たれる。これは熟成きわまるMアダプティブ・サスペンションに加えて、もともと低重心の3シリーズよりさらに21mmも低められたという新型4シリーズの重心高のおかげだろう。

しかし、アシが最初から引き締まるスポーツ・モードにすると、M440iはちょっと驚くコーナリング・マシンと化す。乗り心地は若干ゴツゴツとしたものになるが、まったく跳ねない。ターボ過給される3.0Lストレート・シックスは387ps/500Nmという剛腕で、4シリーズに驚くような速さを与える。しかし、精密な4WDがそのトルクを余すところなく路面に伝えるので、乗り手はまったくイージーなコツ要らずのドライブで、ほとんどロールをしないでスッスッと向きを変える。しかも、ボディはミシリともいわない。
エンジンは低速から高回転まで素晴らしく柔軟に力を発揮して、抑揚はきちんとあるのに谷間がなく、8段ATの仕事はまるで精密時計のように律儀で滑らか。新型4シリーズの顔は個人的にはもともと悪くないと思っていたが、この走りを味わうと、もはや文句なしのイケメンに見えてくるから不思議だ。
文=佐野弘宗 写真=望月浩彦
(ENGINE2021年1月号)
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