世界的な巨匠とのコラボレーションで知られる故・石岡瑛子。世界初の大規模回顧展で、唯一無二の刺激的な世界に浸る。
迫力あるモノクロのポートレート。石岡瑛子(1938-2012年)の骨太で激しい人柄がよく表れている。撮られたのは、ニューヨークに拠点を移して間もない1983年。それ以前の60~70年代に、彼女は資生堂やパルコなどの広告を手がけ、ポスターが盗まれるという社会現象を起こしたグラフィックデザイナーであった。活躍の場を海外に求めてからは、レコードジャケット、映画衣装、オペラ、サーカス、オリンピックのプロジェクトなど、それまでと異なるジャンルで、世界的な巨匠たちとコラボレーション。なかでも映画『ドラキュラ』の衣装でのアカデミー賞受賞は、キャリアのハイライトだろう。
そんな石岡の回顧展が大きな話題になっている。東京都現代美術館の展示室に足を踏み入れてまず驚くのは、彼女の独特な低い声が響き渡っていること。とても死の半年前に録音されたものとは思えない力強さだ。そしてその声が、石岡の作り出す世界は単に「キレイ」では済まないことを予感させる。
展示は時系列に構成され、最初のパートは40~50年前に世に出た広告。展示品を目にしたことがある人は多いはずだ。古さを感じさせることなく時代を超えた美しさがあり、今見ても新鮮である。また、数種類作られたマイルス・デイヴィスのアルバム・パッケージ案には、細かな指示書きが。仕事の進め方が分かり興味深い。
さらに驚かされたのが、既成概念にとらわれない創造性である。例えばドラキュラは、誰もが知っている黒マントに牙のあの姿ではない。筋肉のような鎧を纏っているのだ。石岡の衣装はファッションとは違う、映画やオペラのビジュアル全体を支配するアートワークなのである。こうした展示が圧倒的な物量で続く展覧会は、見応え十分だ。
アートディレクターという仕事は、多くの人との共同作業である。しかし展覧会を通して観ると、石岡瑛子という一人の個性が浮き上がってくるから面白い。そして、本当に強い人なのだろう。女性であり日本人というマイノリティでありながら、創造の世界で一人、海外で奮闘していた石岡瑛子の仕事に、多くの人が刺激を受けるに違いない。
■「石岡瑛子 血が、汗が、涙がデザインできるか」は2021年2月14日まで東京都現代美術館(東京都江東区三好4-1-1)で開催中
詳細はハローダイヤル03-5777-8600、または美術館ホームページまで https://www.mot-art-museum.jp
文=ジョー スズキ(デザイン・プロデューサー)
(ENGINE2021年2・3月合併号)
無料メールマガジン会員に登録すると、
続きをお読みいただけます。
無料のメールマガジン会員に登録すると、
すべての記事が制限なく閲覧でき、記事の保存機能などがご利用いただけます。
advertisement
PR | 2024.04.05
CARS
見た目も中身も大きく生まれ変わった「MINI ジョン・クーパー・ワ…
PR | 2024.04.04
WATCHES
カール F. ブヘラから日本限定88本のヴィンテージ感あふれるクロ…
2024.04.09
CARS
ライバルはメルセデスAMG G63 ディフェンダー史上最強モデルと…
PR | 2024.03.22
LIFESTYLE
「自分好みに育てるソファ」 カッシーナがセルヴィッジデニムで作った…
PR | 2024.03.28
CARS
クルマ好きが集う、秘密基地を訪ねる(後篇)
2024.04.10
WATCHES
これぞ、エレガンスの極み! ディオールの名作時計「シフル ルージュ…
advertisement
2024.04.13
清水草一が乗るちょっと古いクルマ、フェラーリ328 GTS(1989年型) もう速さには意味はない? おれのロマンはここにある!
2024.04.09
ライバルはメルセデスAMG G63 ディフェンダー史上最強モデルとなる「オクタ」が受注開始
2024.04.12
こんな時計、知ってましたか? 旧車ファン垂涎!?の、アナログ感が最高! 「大塚ローテック 6号」は国産ドライバーズ・ウォッチの注目モデル
2024.04.15
藤野太一が乗るちょっと古いクルマ、ポルシェ911カレラ(2010年型) “中古車探しはお宝探し” 憧れだったクルマに乗れるのがいいところ!
2024.04.15
GT-Rニスモよりお買い得!? メルセデス・スポーツ・モデルの頂点、新型AMG GTが日本上陸