1都3県に緊急事態宣言が発令されたなか、日本を代表する伝統芸能である歌舞伎はどうなっているのか? 『壽 初春大歌舞伎』を公演中の歌舞伎座を訪ねた。
劇場入り口ではサーモグラフィーによる表体温スクリーニングが置かれるほか、消毒液で手の消毒が行われている。演目を説明するイヤホンガイドも劇場内ではなく、入り口の外でソーシャル・ディスタンスを取りながら貸し出していた。
客席は感染予防対策のために座席の間隔が空いている。2人で観に行っても間に空き席がひとつ入る。
スタッフが「会話は控えめに」、「飲食はご遠慮ください」「マスク着用」などのボードを掲げて客席を巡回している。劇場内は平常時とはまったく違ってひっそりとした雰囲気だ。
1月公演より密を防ぐために公演は3部制(各部2演目)となり、私は第一部を観劇した。
最初の演目は『壽浅草柱建』。若手俳優による舞踊である。今回出演している若手は浅草公会堂で『新春浅草歌舞伎』に出演するのが通例だが、今年はコロナの影響で中止となった。
その無念さもあってか、尾上松也を筆頭に若手の演技は大変熱のこもったものだった。
新年のスタートとなる1月らしい華やかな演目で、観客に素晴らしい1年を迎えて欲しいと願う演者のエネルギーに心が打たれた。
2演目目は市川猿之助が主人公、悪太郎を演じる『悪太郎』。捧腹絶倒の舞踊劇でこちらも新春にふさわしいと思った。
とにかく、明るいのがいい。最後はハッピーなダンス! こういう演目は敷居が高いと思っている人に是非観て欲しい。
あっと言う間の2演目だった。いい舞台ほど、すぐ終わってしまう。
『壽浅草柱建』に忘れられないセリフがあったので紹介したい。
「流行病も未だ収束いたさぬその内は、まずは我らに所縁ある金龍山浅草寺、正観世音菩薩の加護を受け、世界平らかなるを皆々で祈念いたそうぞ」
コロナ終息を願ってのセリフだ。世界平らかなるをみんなで祈念しよう! 舞台に立つ演者だけでなく、歌舞伎に関わるすべてのスタッフの願いがそのセリフにはあった。
心に勇気の火を灯して歌舞伎座を後にすることができたのは、やはりナマで観たからだと思う。同じ空間を共有しないと熱は伝わらない。それを躊躇なく楽しめる世の中になるよう祈願しよう!
尾上松也さんが現在の心境を書面によるインタビューで答えてくれたので、紹介したい。
――2021年の抱負を教えてください。
歌舞伎への出演は少なくなると思うので、その時間を活用して新しいチャレンジの年にして歌舞伎に還元したい。
――歌舞伎座1月公演『壽浅草柱建』の見どころをご自身の口からお聞かせください。
毎年恒例の新春浅草歌舞伎が開催出来ないのは非常に残念ですが、歌舞伎座の舞台に皆が出演出来る事がとても有難く誇らしいです。見所として対面仕立ての華やかな舞と舞台です。新年らしく観劇のお客様には晴れやかな気持ちでご覧頂きいっときの憂さを晴らしてもらいたいです。
――歌舞伎座の舞台から見る客席が平常時とはまったく違っていると思います。何か感じたことはございますか?
席数も少なくしておりますが、それ以上にお客様が遠慮しながらご覧になっているのがとてももどかしく寂しいです。
――コロナ禍で飲食店だけでなく音楽、芸能分野も大変な状況にあります。一番驚いたことはなんですか? 具体的に教えていただけると幸いです。
お客様が全員マスクをしているのを舞台から初めて見たときは、驚きと異様さを感じました。
――そんななか、どうやってモチベーションを上げていますか?
自分自身も昨年の自粛期間中に気付いたらエンタメを求めていました。改めて我々の日々の生活においてエンタメは、必要不可欠であると再認識しました。なので、より一層のやる気が出ました。
――プライベートで新たに挑戦しようと思っていることがあったら教えてください。
自粛期間中、キャンドル作りに興味を持ちました。 キャンドル協会が認定するキャンドル・アーティストやインストラクターの資格を目指し、 制作スキルを学ぶレッスンを受けようと思っています。
文=荒井寿彦(ENGINE編集部)
(ENGINEWEBオリジナル)
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