2021.02.04

CARS

潜入! アウディRSモデルの開発・生産現場をリポート!!

インゴルシュタットのアウディAG本社に勢揃いした最新のRSモデル。現在RSモデルはRS3、RS4、RS5がインゴルシュタット、RS6とRS7がネッカーズルムとドイツ国内で、そしてTT RSやRS Q3のMQB系はハンガリー、RS Q8はスロバキアで生産されている。

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アウディ・スポーツが手がける高性能モデル、RSは、モータースポーツとの密接な繋がりを持つ。その開発と生産の現場をリポートする。


アウディ・スポーツに社名変更

1994年、RS2アバントの誕生によってRSモデルの歴史は始まった。それはドイツ・ネッカーズルムに本拠を置く、アウディAGの100%子会社「quattro GmbH(クワトロ社)」が開発、生産を手掛けた高性能モデルの証だ。同社はWRCのホモロゲーション用マシンなどをはじめ、2006年にはル・マン24時間レースで培った技術を活かしたスーパースポーツカー、R8を生み出したことでも知られる。


モータースポーツとロードカーとの関わりが深まっていくなか、2016年にアウディはクワトロ社を、「Audi Sport GmbH(アウディ・スポーツ社)」へと社名変更した。実はアウディ・スポーツとはそもそも1980年に登場した乗用車初のフルタイム4WDマシン、アウディ・クワトロを擁しWRC参戦のためアウディAG社内に立ち上げられたモータースポーツ部門の名称だった。その「アウディ・スポーツ」をサブブランドとして前面に押し出し、モータースポーツのみならず、ロードカーなどにも冠する戦略をスタートさせたのだ。同社は現在、R8及びRSモデルの開発を中心に、モータースポーツ用車両の開発と生産(ワークス活動およびカスタマーレーシングなど)のほか、アウディ・エクスクルーシブ・プログラムによるカスタマイゼーションへの対応、アウディ・パフォーマンス・パーツの開発、アウディ・スポーツ・コレクションとして販売されるライフスタイル製品のプロデュースなど、業務内容を大きく広げている。


アウディ・スポーツのトップエンド・モデル、R8はネッカーズルム工場近郊にあるベーリンガーホフ工場で生産される。ここでは、R8のクーペ&スパイダーのロードカーをはじめ、GT2、GT3、GT4マシンが混流生産されている。組み立て作業はほとんど手作業によるものだ。EVスポーツカーのe-tronGTもここで生産される。

アウディ・スポーツの生産の本拠地とも言えるのが、ネッカーズルム工場近郊のベーリンガーホフ工場だ。ここではR8のロードカーをはじめGT2、GT3、GT4マシンが混流生産されている。またEVスポーツカーのeトロンGTもここで生産が開始されたばかりだ。


RSモデルのバリエーションが年々増加していくなかで、生産拠点も拡張している。RS3、RS4、RS5シリーズはドイツのインゴルシュタット工場、RS6とRS7は、ネッカーズルム工場、TTRS、RSQ3シリーズはハンガリーのジュール工場、最新のRSモデルとなるRSQ8は、スロバキアのブラチスラバ工場で生産が行われている。


そしてRSモデルの起源となるモータースポーツ用車両の開発拠点が2014年に設立された「AudiNeuburg(アウディ・ノイブルク)」だ。アウディAGの本社があるインゴルシュタットから西へ約20km、ドナウ川沿いに広がる田園都市ノイブルク・アン・デア・ドナウに広がる47haの敷地内には、車両開発の建屋はもとよりハンドリング・トラックやオフロード・コース、全長約3・4kmのテスト・コース、さらにはスキッド・パッドもある。ユニークなのは顧客体験型のアウディ・ドライビング・エクスペリエンスセンターを併設していることだ。テスト走行などがなければ、一般顧客も参加可能というわけだ。


2014年に設立されたモータースポーツ用車両開発拠点アウディ・ノイブルク。顧客体験型のアウディ・ドライビング・エクスペリエンス・センターを併設する。

レースは技術の実験室

開発用の建屋はワークショップ、テストベンチ・ビル、倉庫&物流ホール、エンジニアリング・オフィスと主に4つのセクションに分かれている。メインの建屋に入るとすぐに大きな階段があり、アウディのモータースポーツの歴史がパネルで展示されている。その先にあるオフィスのエントランスには床から天井まで数々のトロフィーが飾られていた。


取材に訪れた当時のアウディのファクトリーレース活動の2本柱は、DTM(ドイツ・ツーリングカー選手権)とフォーミュラEで、すべてのマシンがここで組み立てられていた。約7割が共通部品というフォーミュラEでは、モーターやECUユニット、トランスミッション、そしてリア・サスペンションも独自の開発を行っていた。サプライヤーからの供給部品もここで最終の品質確認が行われる。DTMのワークショップでは4台同時に作業が行えるスペースが用意されており、ワークス3チーム6台、プライベーター1チーム2台の計8台のアウディRS5DTMがここで作られていた。


建屋内部にはワークスマシン用ワークショップをはじめ、7ポスト・リグを備えた最新のシミュレーター、エンジン・テスト・ベンチなどが揃う。幻となった2017年型のLMP1マシンの4分の1サイズの空力用モデルがこっそり展示されていた。

ちなみにアウディは2020年シーズンをもってDTMから撤退。さらに2020 -2021シーズン限りでフォーミュラEへの参戦も終了することを発表している。新たに2022年にEVを用いたダカール・ラリー・プログラムを開始することを表明。またスポーツカー・レースとしては、IMSAとWECにおける次期トップ・カテゴリーに参戦可能なLMDhレギュレーションにあわせて参戦への準備を進めているという。アウディのル・マンでの勝利数は13回。これはポルシェに継ぐ歴代2位の記録だ。2016年の撤退以来、念願のル・マンへ復帰し記録更新に挑むというわけだ。そういえば、ファクトリーを案内してくれたエンジニアがこんな話をしてくれた。


「アウディは1999年にル・マンに参戦しましたが、当時我々はすでに直噴システムとターボを組み合わせた、いまのTFSIエンジンの開発を始めていました。まずはレースで試してみようということで当時のル・マン・カーのR8LMPに搭載したのです。そのマシンは、2001年のル・マンで勝利しました。そして翌年には1、2、3フィニッシュを果たし、TFSIエンジンは正式にロードカーに採用されたのです」


アウディ・スポーツは、アウディの創業者であるアウグスト・ホルヒ博士が掲げた「レースは技術の実験室である」という今も昔も変わらぬ理念を受け継ぐものなのだ。


文=藤野太一 写真=アウディA.G.


(2021年2・3月合併号)

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