日本市場において、シトロエンとしては爆発的と言っていいほどの人気と販売台数を記録した現行型3代目C3。人気の秘密は……とはいっても秘密どころか実車を見れば一目瞭然だが、シトロエンらしい奇抜さに愛らしさを絶妙な配分でミックスしたそのデザインと言っていいだろう。そんなシトロエンのスモール・ハッチバックがフェイスリフト(=マイナーチェンジ)を実施。ちょっと精悍さを増して男性的なイメージが強められた新しいフロント・マスクを持つ新型C3に清水草一さんが乗った。
シトロエンC3(現行モデル)は、本邦におけるシトロエン車として最大のヒット作だ。2017年7月の導入から3年半で、約8000台も売れたという。かつてシトロエンと言えば、きわめつけのカーマニア以外はまず手を出さないブランドだったが、C3はその状況を完全に変えた。つまりゲームチェンジャーである。
ではC3が、それほど一般受けしそうな常識的なルックスかと言えば、決してそうではない。日産ジュークにインスパイアされたと思しきフロント・マスクは昆虫的な4眼を持ち、サイドのエアバンプはいかにも遊び心に満ちている。総合的に見ても、しっかりシトロエン的なアバンギャルドなエクステリア/インテリアなのだが、なぜか現行C3は爆発的に受けた。不思議である。
私事だが、家人がC3の姉妹に当たるDS3に乗っている。それが家人の周囲(つまり中高年女性)に「かわいい、かわいい」と大変評判がよく、そのうちのひとりは、「清水さんのクルマを見て、同じ4ドアを買ったのよ」とのたまったという。つまり C3である。「乗りやすいし、本当にかわいいのよねぇ」と、ベタ惚れであるという。
彼女たちは、C3のエンジンが低中速トルク豊かな1.2リッター・ターボであるとか、ATがアイシン製の6段になったとか、そんなことにはこだわっていないし、そもそも知りもしない。しかしなぜかC3は、彼女たちのハートを捉えた。先代C3も十分魅力的だったと思うのだが、先代とは段違いに現行C3が受けたのである。謎だが、その分析は私には不可能だ。
しかしクルマ好きとして見れば、現行C3は人気が出て当然だ。前述のようにエクステリア/インテリアはとってもアバンギャルドだが、そこには開けっぴろげなおおらかさがある。オシャレだけど飾らない感じなのである。それが女性の言う「かわいい」の意味かもしれない。
そして、走りがいい。しかも実にシトロエンらしい。パワートレインは日常域で活発でありながら、気難しいところがまったくなく、乗り心地は金属バネでありながらハイドロ的なふんわり感に満ちている。私はエグザンティア、C5とハイドロ・シトロエンを乗り継いだ者だが、そんなシトロエン好きにとっても、これならハイドロじゃなくてもオッケーと思わせてくれる。
そのC3が2021年1月マイナーチェンジを受けた。フロント・マスクはコンセプトカー「Cエクスペリエンス」にインスパイアされ、以前よりちょっとだけシャープなイメージになり、ボディ・サイドのエアバンプもより印象的な意匠に変更。インテリアは、C5エアクロスSUVで好評のアドバンスト・コンフォート・シートを導入した。ただ、どれも小さな変更であり、マイチェン前と後とで、どちらが好きかを問うほどのものではない。
最大の変更は、エンジン・マネジメント・ソフトウエアの改善によって、カタログ燃費が15%向上したことだろうか。乗った印象では、以前よりシフトアップが速くなり、低い回転をキープしようとしているようにも思えたが、最高出力や最大トルクの数値は変わっていないし、これまた決して大きな変更ではない。
とにかくC3は、アバンギャルドでかわいくて、日本の一般的な中高年女性でもなんの戸惑いもなく乗れる、ステキな小型車なのである。そして、私のようなシトロエン・ファンでも十分満足できるのだから、素晴らしいじゃないですか!
■シトロエンC3シャイン
駆動方式 フロント横置きエンジン前輪駆動
全長×全幅×全高 3995×1750×1495mm
ホイールベース 2535mm
車両重量 1160kg
エンジン形式 直列3気筒SOHC12Vターボ
総排気量 1199cc
ボア×ストローク 75.0×90.5mm
エンジン最高出力 110ps/5500rpm
エンジン最大トルク 205Nm/1750rpm
変速機 6段AT
サスペンション形式 前/後 ストラット式/トーションビーム式
ブレーキ 前/後 通気冷却式ディスク/ディスク
タイヤ 前後 205/55R16
車両価格(税込) 257.5万円
文=清水草一
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