イタリアで少量生産のスーパースポーツカーを輩出しているパガーニ・アウトモビリ社は、2021年3月18日(イタリア現地時間)、ウアイラのサーキット走行専用モデルとなる「ウアイラR」をワールドプレミアした。



公道を走行することは許されず、またサーキットにも参戦可能なレース・イベントが存在しない、純粋にサーキットでの走りを楽しむためのモデルを製作するのは、パガーニにとってはウアイラの前身となるゾンダですでに経験済みだ。しかし、この時のノウハウを含め、今回発表されたウアイラRはウアイラの正常進化型などという安易な表現で解説できるほどシンプルな構成のモデルではなかった。
それを証明する第一のポイントは、ウアイラRのために新設計されたセンター・モノコックにある。モノコックは、炭素繊維強化プラスチック(カーボン)とチタンを組み合わせた「HP62G2」と「HP62」と呼ばれる炭素繊維強化プラスチックから成型されたカーボン・チタニウム製。かなりの高さを持つサイド・シルをはじめ、ストリート仕様のウアイラとは形状も大きく異なる。モノコックの前後にはクロームモリブデン(CrMo)鋼のサブフレームが接続され、パワー・ユニット一式は、このリア・サブフレーム上に搭載される。
モノコックをロード仕様のウアイラとまったく異なるデザインとした理由のひとつには安全性の確保がある。ウアイラRにはFIAレギュレーションのセーフティ・ギアが、ロールケージやオートマチック式の消化システムなど完全装備されるほか。モノコック自体側面からの衝突に対しては、さらなる強化が施されている。参考までにウアイラRの捻り剛性値はウアイラ比でプラス16%、曲げ剛性はプラス51%もの結果を得たとのこと。ドアの開閉方法が、ガルウイング式から斜め前方に開くディヘドラル式に変更されたのも、デザイン上のRの大きな特徴でもある。なお、乾燥重量は1050kgしかない。



ボディ・ワークは、もちろんロードモデル以上のエアロダイナミクスを実現することを目的に行われた。それには当然最新のコンピュータ技術による風洞実験装置が使用されたとのことだが、デザイナーでありパガーニ・アウトモビリの社長であるオラチオ・パガーニ氏によれば、そうやって完成したデザインには、彼が期待したものとは少し異なる硬さのようなものが目立ったという。そこでパガーニ氏は自らディテールのラインを引き直し、かつてのポルシェ917KやフェラーリP4といった歴史的な名作を意識したデザインを採り入れていくことで、独特な美観と優秀なエアロダイナミクスの両方を手に入れることに成功したのだと語る。ダウンフォースのターゲットは、320km/h走行時に1000kg。この1000kgを前後で46:54に配分することが目標であったが、それをウアイラRは見事にクリアしていることは言うまでもない。ちなみにウアイラRのロード・クリアランスは、フロントが75mm、リアは95mm。これならばサーキットでも取扱いは容易だろう。
リア・ミドシップのエンジンもウアイラから一新され、メルセデスAMGではなく、メルセデス・ベンツのGT3マシンにエンジン等を供給するHWA(ハンス・ヴェルナー・アウフレヒト)社の新開発エンジンとなった。このエンジンは完全なゼロから設計されたウアイラR専用の直噴型6.0リッターV型12気筒自然吸気で、レブリミットは9000rpm。最高出力は850ps/8250rpm、最大トルクは750Nm/5500-8300rpmを発揮する。そして驚くべきはそのコンパクトさで、重量はわずかに198kgしかない。メンテナンス・サイクルが1万kmと長いのも、カスタマーにとっては喜ばしいところだ。


組み合わせられるミッションは6段シーケンシャルのノン・シンクロ。フリクションロスはわずかに5%とされ、このミッションはシャシーに剛結され、構造体の一部としての役割を果たす。クラッチは4メタル・ディスク方式だ。またサスペンションは、フロントにダブルウィッシュボーン、リアにはヘリカル・スプリングを使用したものとされ、いずれもエレクトリック・コントロール・ダンパーを装備する。ブレーキは、フロントが410mm径、リアが390mm径のカーボンディスクを採用。重量はキャスト・アイロン仕様と比較して3分の1であるとともに、熱耐久性も非常に高い。キャリパーは前後ともに6ポッド。タイヤはドライ、ウエットともピレリから供給され、サイズはフロントが275/675R19、リアが325/705R19となる。
ウアイラRは、30台のみが限定生産される予定だが、すでにそのほとんどにはカスタマーが決定しているらしい。価格は260万ユーロ(約3億3800万円)という、これもまた驚異の数字となる。はたして日本でこのウアイラRのステアリングを手に入れるカスタマーはいるだろうか。それが今は最も気になるところではある。
文=山崎元裕
(ENGINEWEBオリジナル)
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