2021.05.23

CARS

【試乗記】ロールス・ロイス・ゴーストは、物理現象を超越した極上の乗り心地が凄い!

写真=柏田芳敬

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2021年版ENGINE大試乗会。巨体が箱根を疾走! ドライバーズカーへと進化した新型ロールス・ロイス・ゴーストに清水和夫、渡辺敏史、佐野弘宗、吉田由美、塩見智の5人のモータージャーナリストが試乗した。


先代からすべてを一新

かつてのシルバー・ゴーストから名前を受け継いだ新世代ゴーストは、2020年に2代目へと進化した。BMW7シリーズ・ベースだった初代から、プラットフォームも足まわりも内外装も一新されている。フロントに搭載された、最高出力571ps/最大トルク850Nmを発揮する6.75リッターV12ツインターボ・エンジンは8段ATを介して4輪を駆動する。全長、全幅、全高は5545mm、2000mm、1570mmと破格のサイズで、ホイールベースは3295mmもある。車重は2560kgだ。車両価格が3590万円のゴーストに乗って5人のジャーナリストはどう思ったのか。


写真=小林利樹

「剛家絢爛な走り」清水和夫

オリジナルのアルミ・ボディはすごい技術だと思うが、みんなが想像するようなコンピューターを駆使したハイテク・カーではない。むしろ、伝統的なクルマ作りを丹念に繰り返した結果の作品なのだ。サスは電子制御の切り替えなどなく、たった1つのモードでも、色々な路面をいなしてしまう。そのロバスト性には脱帽だ。「いったいどんなサスペンションなのか」と、ホイール・ハウスの上部を覗き込む。するとダブル・ウィッシュボーンのアッパー・アームにピップ・エレキバンのような小さなラバーが無数に見える。


このラバーが摩訶不思議な特性を醸しだす。まるで底なし沼に吸い込まれたような(そんな経験はありませんが)、深くて限りないストローク感。どんな高性能車でも、サスペンションのストロークには限界があり、フル・バンプするとサスペンションはその反動で伸び上がり、タイヤから荷重を奪ってしまう。しかし、ゴーストはその物理現象を超越していた。うっとりする乗り心地とダイナミクスが豪華絢爛だったのだ。シンプルかつエレガントな新型ゴーストのインテリア。真円でリムが細く、驚くほどに操作のしやすいステアリングはフィールも絶品。


写真=茂呂幸正

「史上最大に曲がれるロールス」渡辺敏史

中の人曰くの「グッドウッド・ゴースト」は、ロールス・ロイスのビジネスを新たなステップへと導いた立役者だ。その新型はファントムやカリナンと同じ「アーキテクチャー・オブ・ラグジュアリー」を採用、ロールスとしての純度は一段高められている。


と聞けば、重厚や悠然といったショーファードリブンの振る舞いが思い浮かぶだろう。が、新型ゴーストのシャシーはすこぶるスポーティに仕立てられており、間違いなくロールス史上最大に曲がれるモデルに仕上がっている。コアなファンには邪道といわれそうな4WD&4WS、そして絹漉しのような電子制御との重ね技で山道をしなやかに駆けつつも、きっちりアペックスを掴み取っていくサマに先入観はぶっ壊される。


が、そういう気がない限りはひたすら極上のサルーンとして振る舞える、そのダイナミックレンジの途方もない広さが凄い。その後席が英国紳士的直立姿勢にも、米国商人的寝そべり足組み姿勢にも調整できるサマに、このクルマの国際的万能無類ぶりを思い知る。


写真=茂呂幸正
写真=茂呂幸正

「もはやスポーツ・セダン」佐野弘宗

乗った瞬間、これはドライバーズ・カーだと思った。そして日本屈指の急勾配が続く箱根ターンパイクに乗り入れたら、ちょっとしたスポーティ・セダンとすら思った。ロールスと箱根といえば、さらに巨大なファントムとも、見上げるような体躯のSUVのカリナンとも、同じターンパイクでお相手していただいたことがある。どちらも持てあますことはなかったが、さすがに挙動がどっこいしょと大きい「場違い」感があった。


新型ゴーストでターンパイクを走りながら、クルマとはわずかでも小さく軽くなるとずいぶん違うんだなと実感しつつも、フロント・アッパーマウントにも減衰効果をもたせた「アッパー・ウィッシュボーン・ダンパー」とか、複数のカメラで前路面を監視しながら制御する「フラッグベアラー・システム」といった新型ゴーストの新技術がとてつもなくスゴイのではないか……と思いたった。そうじゃないと、十二分に巨体といえるゴーストが、ターンパイクをこれほど軽々と登り、ヒタリと曲がるのは不思議でしかたない。


写真=茂呂幸正

「運転して楽しい」吉田由美

11年ぶりのフルモデルチェンジとなったロールス・ロイス・ゴースト。今回はテーマが「ポスト・オピュニエンス」(脱・贅沢)。しかしそれによってクラシカルの中にモダンさが加わり、最上級のロールス・ロイス・ブランドの中では手を出しやすい雰囲気。ロールス・ロイス車の中ではコンパクトだけど全然コンパクトじゃない全長5545mm、全幅2000mm、全高1570mm。全長5m超えの運転席に座ると、ぽつーん。しかしゴーストは後席の快適性はもちろん、運転しても楽しいというのがミソ。と言っても、いわゆるスポーツカーのような楽しさではなく、刷新されたプラットフォームや「プラナー・サスペンション・システム」、さりげなくエスコートしてくれる「サテライト・エイデッド・トランスミッション」などの総合力で、「マジック・カーペット・イド」(魔法の絨毯)な乗り心地と驚くほどの静粛性。さらに2.5トンの車体を6.75リッター V12ツイン・ターボ・エンジンがぐいぐい引っ張り、箱根ターンパイクも余裕さ。後席もいいけど、運転しても楽しい~!


写真=神村聖

「ガイシャのなかでも飛び抜けて特別なクルマ」塩見智

ロールス・ロイスの超絶な乗り心地のよさは、カメラで前方の路面状況を検知してダンパーの減衰力を常に最適化し続けるシステムや、GPSで道路の曲率を把握してギアを最適化する変速機など、電子制御のハイテクのおかげでもあるが、アルミのスペース・フレームや大量の遮音材(タイヤ内部にも発泡剤が入っている!)といった伝統的な製法によるものだ。ゴーストでは新たにアッパー・ウィッシュボーンを上下からゴムで挟む込むマスダンパーが仕込まれ、垂直、水平方向の微小な動きを吸収する。


呆れるほどの人件費と重量がかさむこうしたアナログ的手法を歓迎する顧客を世界中にもつのがロールスの強みだ。他のブランドが今から同じことをしても実績がないから見向きもされない。仮にそれなりに実績を積み重ねても、その間にロールスもさらに実績を積み上げるので、ロールスが自ら没落しない限り永遠に追いつけない。だからロールスは特別なガイシャの中でも飛び抜けて特別なのだ。


(ENGINE 2021年4月号)

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