2021.04.10

CARS

エルメスのビスポーク・アトリエを訪ねる 夢をかたちに、クルマ版

パリ郊外のパンタンにあるエルメスのビスポーク・アトリエ。そこでは、世界中の顧客たちの“夢”が叶えられている。たとえば、クルマについては、こんな具合だ。


きっかけは2019年に東京で開かれた「夢のかたち」と題された展覧会だった。そこには世界中の顧客からのオーダーを受けて作られた、エルメスらしいエスプリと遊びごころあふれる様々なプロダクトが集められていたのだが、スカーフと同じ柄のサーフボードや33回転のLPをかけられるカラフルな革張りのジュークボックスと並んで、なんと1台のクルマが置かれていたのだ。


ヴォワザンC28エアロスポーツ。1930年代に製造されたフランスの伝説の名車だ。その内装がエルメスの革張りに仕立て直されていた。


耐候性も考慮して、バッファロー・レザーを使って内装を仕立てたというヴォワザン。ドアの内張りや肘掛け、助手席の足元に取り付けられた物入れなど、隅々まで丁寧に仕上げられており、写真でみてもその品質の高さが伝わってくる。アルミ・ボディの硬質感や幾何学的なデザインと自然な色合いのレザーの質感とのコントラストが素晴らしい。

そもそも飛行機製造から始めたヴォワザンはのちに自動車に転じ、航空技術を転用した軽量なアルミを用いた空力ボディや低重心と適切な重量配分を重視した設計に基づく独自のクルマづくりを展開する。それはレーシング・カーとしても十分に通用するもので、実際、草創期のグランプリ・レースで活躍し、あまりの強さに主催者側が規則変更で意地悪した(?)なんて逸話も残る。そしてレースから撤退した後は、独特の構築的デザインを持った高級車を手がけたが、かのル・コルビュジエがその大ファンで、自らの建築の前にヴォワザンを置いた写真を数多く残していることは知る人ぞ知る話だ。


C28はそんな後期ヴォワザンの高級車だが、構築的なアルミボディとレザーの内装とのマッチングの素晴らしさに見とれる私に、エルメスから、一度パリのビスポーク・アトリエを見に行きませんか、と声がかかったのだ。ところが、コロナ禍のために中止になり、がっかりしていたら、今度は、リモートでどうですか、という話が。今を逃しては2度と見られないようなクルマが2台(うち1台は違うヴォワザン!)あると聞き、ふたつ返事でお願いした次第だ。


詳細は不明だが、この個体は1922年の石畳の公道を走るレースで、アルチュール・デュレイらの運転により、勝利を上げたという。実際に、1922年に撮影されたデュレイが運転するこのクルマの写真がネットでも検索できる。石畳でも速く走れたのは、軽量化や低重心、重量配分の良さに加えてサスペンションの技術が優れていたからだと言われる。

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