2021.05.30

CARS

「特別EV対談・後篇」クルマ好きも注目! 世界を見据えていよいよトヨタとホンダが動き出した!!

トヨタbZ4X

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アウディ、ポルシェ、フォルクスワーゲンにメルセデス・ベンツ。ドイツを中心に欧州メーカーから次々に発表されているBEV(バッテリー式電動自動車)だが、ついに日本でもホンダが電動化に大きく舵を切ることを発表した。一方、トヨタはBEVをやりつつ内燃機関も継続するという。各国、各社で戦略が分かれる混沌とした状態のEV市場は今後どうなって行くのか。モータージャーナリストの清水和夫氏と島下泰久氏による「EV対談」の後篇は、クルマ好き視点による、これからのEVについて語ります。

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ホンダが電動化に向けて動き出した

——(エンジン編集部)さて、なんと言っても国内の大きなニュースはホンダです。新任の三部敏宏社長がステートメントを発表しました。BEVとFCV(燃料電池車)の比率を2030年に40%、2035年に80%、2040年にグローバルでは100%を目指すんですよね。

清水 あの「エンジンのホンダ」がついに! っていう感じだよね。三部さん、社長就任直後のタイミングであの発表をするということは、以前からずっと考えていたんだろうね。

島下 あれくらいのことを言わないと、デカい船は動かないということですね。発表した以上、これでもう中途半端なことはできない。

清水 実際は2040年には多少ハイブリッドは残ると思うけど、BEVとFCVと言い切ったところに潔さがある。

島下 ホンダがGMと組んだのも、時流が読めていたのかもしれません。1人でやっているとマズイ、というのはあったと思う。

清水 GMのメアリー・バーラCEOもBEVだって言っているから、ホンダとGMは一枚岩になったんじゃないかな。

島下 GMのプラットフォームで大型車を、ホンダ側は中型車、小型車を、という感じでお互いが融通するのはハッキリしましたね。GMとホンダは協力しあって、技術を出し合うサプライヤー的な役割を果たそうという訳です。

ホンダ・三部敏宏社長

ジャガーIペイス

清水 噂では、ジャガー・ランドローバーとBMWもさらに近づくんじゃないかな。 ——次世代のパワートレイン開発ではすでに手を組んでいますよね。

島下 走り系のメーカー同士が手を組むことになる。BMWくらいの規模があっても今では難しい。

清水 ジャガーは見事だよ。Iペイスはいちから作ったし、BEVの次期XJも1回引っ込めて、2025年で内燃エンジンは終わりにする。一番動きが早い。

——電動化の発表は今年の2月でしたね。

清水 でも、ランドローバーは2035年まで続けるんだけどね。

島下 デカくて重くて長距離を走るから、そちらはFCVでやる。

——その棲み分けは理にかなっていて、すごくよくわかりますね。

清水 ジャガーがエンジンを捨てたとして、これまでのジャガーネスを愛した人たちが残ってくれるかどうかが問題だね。

島下 ジャガーとしては、今のままやっていてもこのままでは延びないから、新しい分野でリーダーになろうとしている訳なんですが、Iペイスに乗ってみると、「やっぱりジャガーじゃん」って思うところはあった。EVでもちゃんとブランド独自の味を表現できている。

マツダMX-30 EV

清水 マツダのMX-30のBEVもそうだよね。間違ってガソリン・スタンドに行きそうになるからね(笑)。

島下 普通に、すごくいいクルマですからね。

——やっぱりそこは、“自動車会社”がつくっているだけのことはある。

清水 内燃機関からBEVに手段が変わっても、ブランドとしてちゃんと立っていれば、そういうクルマづくりができるといういい例ですよ。

島下 Iペイスの生産はオーストリアのマグナ・シュタイアですが、とうぜん開発もマグナでやっていますよね。僕の勝手な想像ですけど、次期XJをやり直そうというのは、やっぱり全部マグナ頼みじゃ駄目だってことになったんじゃないかな。Iペイスでもあれだけジャガーになっているんだから、次は今にも増してめちゃくちゃジャガーらしくなると思いますよ。

清水 ソニーのビジョンSっていうBEVも同じマグナ・シュタイアでつくっているから、Iペイスだって将来的にソニー・ブランドで売ることになるかもよ。これも、どう? って(笑)。

一同 笑。

ソニー・ビジョンS

ベントレー・モーターズ「ビヨンド100」戦略発表

ロールス・ロイス102EXファントム・エクスペリメンタル・エレクトリック(2011)

台風の目は大英帝国か?

清水 ジャガーも舵を切るのは早かったけど、ベントレーも電動化を打ち出すのは早かった。

——2020年11月に、2030年までに電動化だって発表しました。 島下 ロールス・ロイスもそうですね。2020年の10月にハイブリッドはやらないのかとロールスに聞いたんですけど、うちのお客さんはそんな中途半端なものは求めていない、次は完全にBEVだと、キッパリ。

清水 この世界的な混乱の中で、イギリスは産業革命や金融に続いて、もう1回グリーンディールで復活を狙っている。CO2排出権取引のルールづくりを握られたら、今自動車産業で世界をリードしている日本もあっという間にフォロワーになってしまう。

島下 トヨタのハイブリッドでCO2を減らしていくっていう考えは、まったくもって正しいと思います。でも、世の中はそんな綺麗事だけじゃない。特にプレミアムカーやスポーツカーというモノは、みんな正しいものが欲しいというより、最新のもの、革新的なものが欲しいわけです。そこで大事なのは、どんなメッセージを出せるか。どんな戦略を描いて、自分はどの位置にいるべきなのか。いかに俯瞰して未来を見据えることができるのか。そこが上手ですよね。

清水 ただ、企業規模も違うからね。世界130カ国で1000万台のトヨタと英国のプレミアム・ブランドたちを一緒にはできない。ある程度規模が小さいから、これだけ早くBEVにスイッチできる。例え頂上が同じでも、トヨタが登る道と、ジャガーが登る道は違う。大都市からアフリカの奥地までビジネスをするトヨタは、世界中の国の人々を満足させながら、カーボンフリーを目指すという方程式を解かなくちゃいけない。トヨタがいちばん大変なんだよ。

島下 内燃エンジンのルートも押さえながら、ほかが電動化オンリーのルートを行くのも見逃すわけにはいかないですしね。

トヨタbZ4X 

レクサスLF-Zエレクトリファイド

ついに動き出したトヨタ

——そのトヨタがついに動き出しましたね。上海ではBEVのコンセプトカーを出してきました。

島下 上海モーターショーのbZ4Xはスバルとの共同開発です。E-TNGAっていう新しいBEV専用プラットフォームを使う。特徴的な4輪駆動システムをスバルと……とは言っているんですが。

——まだ詳細は不明ですね。

清水 ノウハウがあるスバルとコラボするかもしれないね。

島下 その一方で、レクサスはLF-ZエレクトリファイドっていうBEVを少し前に出した。

——2025年にすべてのクルマに電動車(ハイブリッド、プラグイン・ハイブリッド、BEV、FCVを含む)を設定し、電動車の比率がガソリン車の比率を上回るようにすると言ってますね。

島下 こちらはモーターや変速機、差動装置をユニットにしたe-アクスルをリアに配置して、左右ベクタリングでクルマを曲げる。さらに水素エンジンでレースにも出ると発表しました。ミライのようなFCVとは違って、水素を化学反応させて電気をつくってモーターを駆動するのではなく、既存のエンジンを改良し、純粋に水素を燃料にして走るレーシングカーです。ベースはカローラ・スポーツで、5月のスーパー耐久シリーズ2021の第3戦、NAPAC富士SUPER TEC 24時間レースに参戦し、見事完走しました。これは環境の面だけじゃなく、モータースポーツ界を救う、というところに触れたのもすごくいいことですよ。クルマが全部BEVになったら、レースは今のかたちでは続かないですよね。それこそ24時間耐久レースなんて成立しにくい。でもエンジンが、カーボンニュートラルを実現しながら残れば、可能性が広がります。

——1.6リッターの直3ターボで、ミライの圧縮水素用タンクを使うそうですね。

清水 マツダの水素ロータリーにノルウェーで乗ったことがあるけど、ノッキングしないからブースト圧を2barとか3barまで上げられる。パワーは出るけど、水素は燃やすとあっという間になくなっちゃうのが問題。たぶん富士スピードウェイを10周も走れない。

島下 テスト走行を見てきましたが、1スティントは12〜13周でした。つまり30分弱。実際のレースでは、水素の充填が1回に7〜8分かかったのと、トラブルによるピット作業もあり、走ることができたのは約12時間。水素充填回数は35回だったそうです。でも始まったばかりの技術ですからね。夢があるし、面白い話ですよ。

清水 20年前に水素燃料電池車の本を書いたとき、大手メーカーに水素の取材をしましたが、ほとんどのメーカーが熱心に研究していましたね。トヨタは豊田中央研究所でずっと水素エンジンの開発を続けていたけど、歴史と実績があるのはマツダの水素ロータリーだったね。

——そこは企業規模の大きいトヨタならではですね。

トヨタ・カローラ・スポーツ水素エンジン搭載レーシングカー

清水 今どき、これからいいエンジンをつくる、なんて言っているのはマツダくらいだよね。2022年に直6のガソリンとディーゼルを出す予定なんだよね。大丈夫かな、って心配になるいっぽうで、乗ってみたい、応援したい気持ちはある。

島下 世の中がどうなるか、まだ分かりません。結局BEVは利便性に欠けていて誰も買わない、ということもあり得る。みんなコケて、マツダの一人勝ちに……。

一同 笑。

島下 だって、日本のクルマの300万台のうち、わずか数%のBEVが走るようになっただけでいろいろトラブルが起きている。そんなに簡単にいくわけがない。欧州で充電設備が増えているとはいえ、絶対に足りませんよ。日本ですでに起こっていることに、欧州の人々はこれから気がつくわけです。都市部の集合住宅における充電はどうするのか、公共施設をちゃんと欧州の人たちが共有できるのか。問題は山積みですよ。それを、日本はもう越えつつある。ハードではなく、運営だとかインフラだとかソフトウェアの面で、世界に発信することもできるかもしれない。

——つまり、アイデアの勝負だという訳ですね。

清水 技術で負けているわけじゃないからね。むしろちょっと先に行っている。

島下 ホンダeやマツダMX-30みたいな、あえてバッテリー容量の小さいBEVを出す発想は、今の欧州にはできないことですよね。ドイツもそうですけど、日本はエンジニアリングの国だった。かつてはハードが良くなると幸せになった。アウトバーンができたり、そこを速く移動できるゴルフのようなクルマが手に入るようになったり。でも、いまはソフトの時代です。例えすごくいいハードウェアでCO2を出しませんよ、という製品でも、使いにくくて欲しくないな、と思わせてしまうこともあり得る。ただ、人の暮らし、営みに対する貪欲さみたいなものに関しては、欧州の人たちって、我々よりもずっとすごそうなイメージがありませんか?

清水 アメリカやロシア、中国といった大国もそうかもしれないけど、やっぱり戦略的にすごいのは欧州の人たちだと思うよ。

——彼らが中心になって、世界を動かそうとしている?

清水 パリ協定だとか、SDGsとかっていう単純な話じゃなくて、これはもうカーボン・ニュートラルで社会革命をするぐらいの感覚で彼らは受け止めている。日本は環境に優しいとか綺麗事が中心だけど、それで産業界が本当に生き残っていけるのか。ここまで必死にやって来た日本のものづくり文化が、このままではもう続かない可能性がある。どこかでゲームチェンジをしなくてはいけない。それができるのはトヨタとホンダ。豊田章男さんの水素エンジンでレースに出るっていうメッセージと、三部敏宏さんのホンダの会見は、言っていることはそれぞれ違うんだけど、それぞれ自分たちの山を登る、っていうことをしっかりと見せた気がする。最終的にはLCA(ライフサイクル・アセスメント)で環境負荷を評価するルール作りが大切だと思うけどね。日本にタフなネゴシエーターが必要だな。

島下 あとは、ちゃんと頂を極めないとですね。

清水和夫 国際モータージャーナリスト

島下泰久 モータージャーナリスト

(ENGINE WEBオリジナル)

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語る人=清水和夫/島下泰久/塩澤則浩(エンジン編集部) まとめ=上田純一郎(エンジン編集部) 人物写真=鈴木勝

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