2022.01.16

LIFESTYLE

全米の映画賞レースを席巻! 濱口竜介監督×西島秀俊『ドライブ・マイ・カー』アカデミー賞受賞までの距離 

村上春樹の短編を映画化した濱口竜介監督『ドライブ・マイ・カー』が全米の賞レースを賑わせている。3月に授賞式が行われる米アカデミー賞で栄冠に輝く可能性は?

巻き起こる称賛の嵐

村上春樹の短編小説を映画化した濱口竜介監督の『ドライブ・マイ・カー』が、米アカデミー賞の前哨戦とされるゴールデングローブ賞で非英語映画賞(旧外国語映画賞)を受賞した。日本映画の受賞は62年ぶりと大々的に報じられたが、それに先立つ全米批評家協会賞、ニューヨーク映画批評家協会賞、ロサンゼルス映画批評家協会賞、ボストン映画批評家協会賞においても、下馬評の高かった英語圏の力作を押しのけて作品賞を獲得。うち全米批評家協会賞とボストン映画批評家協会賞では監督賞、さらには西島秀俊が主演男優賞に輝くなど、日本の実写映画としては珍しいほどの称賛の嵐をアメリカで巻き起こしているのだ。



主人公は舞台演出家であり俳優の家福(西島秀俊)。愛する妻を突然亡くした彼は2年後、演劇祭に参加するため、妻の記憶が刻まれたサーブ900を運転して広島へと向かう。だが現地に辿り着いた彼は、実行委員会の規定により滞在中の運転を禁じられてしまう。代わりに家福の専属ドライバーとしてあてがわれたのは、左頬に傷のある無口な若い女性、みさき(三浦透子)だった。

濱口監督は、『ドライブ・マイ・カー』以外の村上春樹による短編小説のモチーフも取り入れながら、本作を179分という長尺の作品に仕上げた。舞台を東京から広島、北海道、そして韓国に広げるなど大胆な脚色がなされているが、原作のエッセンスは的確に捉えている。



家福の妻は、ある謎を残したままこの世を去った。そんな妻を理解しきれなかったという思いが、彼の心に暗い影を落としている。だがどんなに親密な相手であろうと、他者を完璧に理解することなどできるのだろうか? 本作は人間関係における根源的な問いを我々に突きつける。

英語圏の人々も共感できる普遍的なテーマ

5時間17分の長編『ハッピーアワー』や、ベルリン国際映画祭で銀熊賞を受賞した新作『偶然と想像』もそうだったが、本作品も人間同士のコミュニケーションが大きなテーマとなっている。劇中、家福が演出する芝居に集まるスタッフ・キャストが多国籍なのもそのためだろう(中には韓国手話の役者も登場する)。たとえ日本語の映画であっても、コミュニケーションの難しさという普遍的なテーマが、英語圏の人々の共感を呼ぶ大きな要因になっている。

一方、車中でほとんど言葉を交わさなかった家福とみさきは、次第に打ち解け、互いの心の内を語り始める。2人の間に新たな絆が生まれる瞬間は、言葉での説明が必要のない静かな感動に満ちあふれている。

なおアカデミー賞の候補作品は2月8日に発表、授賞式は3月27日に行われる。これまでの流れからすれば、外国語映画賞にあたる国際長編映画賞の受賞はほぼ確実。作品賞と監督賞に関しては、『ピアノ・レッスン』のジェーン・カンピオン監督が手掛けた異色の西部劇『パワー・オブ・ザ・ドッグ』が最有力とされるが、『ドライブ・マイ・カー』と濱口監督、さらには西島秀俊までもが主要部門の候補に挙がる可能性も充分に残されている。思えばポン・ジュノ監督の韓国映画『パラサイト 半地下の家族』がオスカーに輝き、世界中を驚かせたのは2年前。そんな快事が再び起きることを大いに期待したいのである。



■『ドライブ・マイ・カー』は全国上映中 (C)2021『ドライブ・マイ・カー』製作委員会

文=永野正雄(ENGINE編集部)

(エンジンWEBオリジナル)

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