2022.03.24

LIFESTYLE

クリエイターが結集して生まれ変わった下町の銭湯「黄金(こがね)湯」に人々が集まる理由とは

バーカウンターでもあり、DJブースでもあるこの場所、実は銭湯の番台です!

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下町ならではの親密さを色濃く残す東京の錦糸町に、クリエイターたちの力で生まれ変わった銭湯、黄金湯がある。町おこし的経済効果もある、老若男女を惹きつける古くて新しい魅力の源泉とは。

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いま一番注目の場所、銭湯!

日本家屋の特徴として語られるのが境界の曖昧さだ。外から内へ、濡れ縁、土間、敷居、障子を経由し、私的な空間に至る。開閉自在の扉や光を透過させる建材の効果で、開放感と居住性、外部とのゆるやかなつながりを実現してきた。

公共施設である銭湯にもその流れは息づく。もともとは寺社で僧職者が身を清める設備として考案され、やがて庶民へと開放されていった。当初はサウナのように閉じられた部屋で蒸気にあたる形式だったが、やがて大きな湯船を人々が共有するようになる。構造上は天井まで伸ばしたほうが強度のある男女の仕切り壁を、上部を開けて互いの気配を感じられるようにしたのも示唆的だろう。こうして江戸時代中期には庶民の社交場も兼ね、暮らしに欠かせない場所となる。明治以降も長く隆盛を誇ったが、内湯が普及するに伴い、事業としては衰退の一途。現在の軒数は往時の2割にも満たない。

浴場のボリュームは以前の大きさのまま。43~44℃のあつ湯、日替わりの薬湯、炭酸湯があり、入り比べるのも楽しい。ほしよりこ氏による壁の銭湯絵は、男女の湯をつなぐ絵巻物になっている。

黄金湯も先代が高齢のため、廃業の瀬戸際にあった。そこで同じ界隈にある大黒湯オーナーの新保夫妻が経営を引き継ぐことに。利用客減だけでなく、躯体の老朽化も進んでおり、大規模なリフォームが必要だった。だが、マンションの一階で、改装の選択肢は限られている。

きっかけはクリエイティブディレクターの高橋理ひろ子こ氏に総合ディレクションを依頼したことだった。内装設計にスキーマ建築計画を率いる長坂常が加わったほか、銭湯絵にベストセラー『きょうの猫村さん』の漫画家・ほしよりこ、大暖簾に美術家・田中 偉一郎の各氏が加わり、垣根を越えたコラボレートが実現した。特筆すべきは単なる設備のリノベーションではなく、「銭湯から始まるコミュニケーションの場」というコンセプトが、クリエイターの感性を経て具現化されたことだろう。大きな開口部を設けたエントランスにモダンな番台、奏でられるアナログレコードの音は男女の浴場まで響く。五感を通じて素肌が外気とゆるやかにつながる心地よさは、まさに銭湯の原点回帰であり、進化といえる。

最近は2階にドミトリー形式の宿泊施設もオープン。風呂を浴びてひと休みという至福も加わった。銭湯という古い桶に注がれた新しい湯。下町散策の折にはぜひ全身で体感してみたい。

ボイラー室を改装し、サウナと15℃の水風呂を設けた(別料金500円)。開放的な裏庭で外気浴を楽しむのも一興。こちらは男性側だが、男女の湯が入れ替わる水曜は女性も利用できる。

文=酒向充英(KATANA) Photograph credit : Yurika Kono

(ENGINE2022年4月号)

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