2022.06.26

LIFESTYLE

日本映画の枠組みにとらわれない是枝裕和監督 韓国で手掛けた新作『ベイビー・ブローカー』でも変わらないその作家性

『ベイビー・ブローカー』TOHO シネマズ日比谷ほか全国ロードショー中。

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『万引き家族』でカンヌ国際映画祭のパルム・ドールに輝いた是枝裕和監督。現代の名匠が韓国のスタッフ、キャストと共に挑んだ新作は、”赤ちゃんポスト”を題材にした優しい人間ドラマだった。

『万引き家族』にも通じるテーマ

2018年の『万引き家族』で、カンヌ国際映画祭パルム・ドールを受賞した是枝裕和監督。翌年にはカトリーヌ・ドヌーヴ主演の日仏合作映画『真実』を手掛け、日本映画の枠組みにとらわれない活動で注目を集めた。そんな是枝監督の最新作も、海を隔てたスタッフ、役者たちと手を組んでつくった韓国映画。子供を育てられない親が匿名で赤ん坊を預けていく、いわゆる”赤ちゃんポスト”を題材にした作品だ。

小さなクリーニング店を営む中年男のサンヒョン。借金まみれの彼は、ポストがある施設で働く若者ドンスと結託し、預けられた赤ん坊をこっそり、子宝に恵まれない夫婦に売っていた。だが、預けたはずの赤ん坊が施設からいなくなっていることに気づいた母親が、警察に駆け込もうとしたため、2人は計画を彼女に白状。温かい家庭を見つけることこそが子供のためになると説得し、赤ん坊を連れて養父母探しの旅に出る……。

かねてから交流のあった、韓国の俳優たちと映画をつくりたい。そんな是枝監督の願いが結実した本作品。期待に応えた役者たちのアンサンブルが見事で、主演のソン・ガンホは、カンヌで韓国人初の最優秀男優賞に輝いた。

韓国映画には、社会の闇に切り込んだ、陰惨でハードな印象の作品が多いが、本作は赤ん坊の売買という問題を扱いながらも、全体のトーンは優しく穏やかだ。血のつながらない人々が家族のような絆を築いていく様子は『万引き家族』や『そして父になる』といった作品のテーマにも連なる。人間を見守る是枝監督の温かな目線は、舞台を韓国に移しても変わることはない。

『ベイビー・ブローカー』
主演は、アカデミー賞作品賞を受賞した『パラサイト 半地下の家族』で、世界的に注目されるようになったソン・ガンホ。この作品では赤ん坊の売買という犯罪に手を染めながらも、情に厚い主人公をエモーショナルに演じ、カンヌ国際映画祭で最優秀男優賞の栄冠を手にした。また本作は、カンヌでキリスト教関連の団体から贈られるエキュメニカル審査員賞にも輝いている。ちなみに韓国で赤ちゃんポストが設けられたのは2009年が最初で、現在は3つのポストがある。毎年、200人を超える赤ん坊がポストに匿名で預け入れられるという。130分。配給:ギャガ。TOHO シネマズ日比谷ほか全国ロードショー中。



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文=永野正雄(ENGINE編集部)

(ENGINE2022年8月号)

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