2022.08.09

LIFESTYLE

ウォン・カーウァイが認めたタイの俊英 新作『プアン/友だちと呼ばせて』は60年代のBMWでタイを旅するロード・ムービー

若者2人のセンチメンタル・ジャーニー。 (C)2021 Jet Tone Contents Inc.All Rights Reserved.

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香港の名匠、ウォン・カーウァイが、その才能にほれこんだタイの映画監督、バズ・プーンピリヤ。2人が手を組んだ『プアン/友だちと呼ばせて』は、どんな作品に仕上がっているのか?

『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』で注目

1990年代から2000年代前半にかけて、日本の若者の間でも高い人気を誇った香港のフィルム・メーカー、ウォン・カーウァイ。手持ちカメラを多用したカメラワークや大胆な色彩、ポップスとスタンダードを混在させた音楽など、独特のスタイルで多くの映画ファンを虜にした。

残念ながら2013年以降、新作は撮っていないが、『恋する惑星』や『ブエノスアイレス』といった過去の代表作が、監督自身の手により4Kにレストアされ、『WKW 4K』として劇場公開されることとなった。彼の作品の魅力を、ベストな状態で再発見できる嬉しい機会である。
 
そのウォン・カーウァイが作品にほれ込み、「一緒に映画を作ろう」と、プロデューサーになることを申し出たのがタイのバズ・プーンピリヤ監督。2017年の『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』の大成功で、世界的な注目を集めた41歳の俊英である。



前作で、カンニング・ビジネスで金儲けを目論む高校生たちの頭脳ゲームをスリリングに描いたプーンピリヤ監督。だが新作『プアン/友だちと呼ばせて』は一転、監督のパーソナルな体験が反映された、親友2人のほろ苦い物語に仕上がっている。

ニューヨークでバーを経営する青年ボス。白血病に冒された親友ウードをバンコクに訪ねた彼は、タイの各地に散らばる3人の元カノに会いたいという親友のため、クルマの運転手になることを引き受ける。ウードの亡き父親の形見であるBMW2000Cに乗り込んだ2人は、過去を振り返る旅に出る……。

現代の話でありながら、どこか懐かしい雰囲気が漂う本作。60年代につくられたヴィンテージのBMWの存在はもちろん、劇中を彩るフランク・シナトラやエルトン・ジョンらの音楽、さらにはカクテルやカセットテープなどの小物が、ウォン・カーウァイの世界に通じるノスタルジックなテイストを強める。カーウァイ自身、一度も撮影現場には顔を出さなかったそうだが、それでいて軽快なカメラワークや色彩豊かな映像に、カーウァイの作品の影響が見て取れるのが興味深い。

いささか感傷的な、センチメンタル・ジャーニーといった趣で始まる本作だが、話が俄然、面白くなるのは後半。旅の裏に隠された、真の目的が明らかにされてからだ。この語り口の上手さこそがプーンピリヤ監督の強み。世代を超えた2人の監督のケミストリーは今回、うまく働いたようである。




『プアン/友だちと呼ばせて』 8月5日(金)新宿武蔵野館、シネスイッチ銀座、渋谷シネクイントほか全国順次ロードショー。
129分、配給:GAGA     (C)2021 Jet Tone Contents Inc.All Rights Reserved.

『WKW 4K』 
8月19日(金)よりシネマート新宿ほか全国順次公開。上映されるのは『恋する惑星 4K』『天使の涙 4K』『ブエノスアイレス 4K』『花様年華 4K』『2046 4K』の5作品。

文=永野正雄(本誌)

(ENGINE 2022年9・10月号)

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