2022.08.28

CARS

新型も大人気のトヨタ・ノアに乗って、ニッポンにはなくてはならないミニバンを再考する

2022年1月に4代目トヨタ・ノア&ヴォクシーが登場してから半年以上が経過。新型も相変わらず好調な販売を記録しているようで、部品供給遅延の問題があるとはいうもののトヨタの公式サイトによるとゆうに6か月以上の及ぶ納車待ちの長い列ができるほどの人気を博している。最近、「これからはSUV、ミニバンなんか時代遅れ」みたいなことも囁かれてはいるが、まだまだ日本人のミニバンへの信仰は根強いのだ。今回、そんなノアを借り出して、モータージャーナリストの高平高輝氏が再考してみた。

駐車場はミニバンで溢れる

高速道路のSA(サービスエリア)がミニバンで埋め尽くされるようになると、日本の夏休みだ。SUV全盛と言われる時代ではあるが、いわゆる5ナンバー・サイズのミドル・クラスのミニバンがびっしり並んで駐車する光景を見ると、家族持ちには本当に必要とされており、今も変わらず一大勢力であることを実感する。



ニッポンの固有種

事実上限られたボディ・サイズの中にできるだけ大きな居住空間を確保した5ナンバー・ミニバンは、軽自動車や商用バンと同じように、国内の使用環境に適応して進化してきたいわば固有種であり、生活の土台としてもうなくてはならないクルマである。

そんな5ナンバー・サイズ・ミニバンの王者として君臨してきたのがご存知トヨタのノア&ヴォクシー(先代一代限りで廃止されたもののエスクァイアも兄弟車)である。近年は日産セレナおよびホンダ・ステップワゴンと三つ巴の競争を繰り広げてきたが、ノア(元々はカローラ店向けだが現在は全系列扱い)とヴォクシー(同じくネッツ店)を別々に勘定するのではなく、同じクルマとして合計した販売台数で見れば、実はほかの2車を圧倒し続けている。昨年2021年だけを見ても、ノア、ヴォクシー、エスクァイアの販売台数はモデル末期にもかかわらず合計でおよそ12万7000台、それに対してセレナは約5万9000台、ステップワゴンは4万台というからその差は大きい。



新型ノアはプラットフォームから刷新

今年初めに8年ぶりにモデルチェンジした4代目に当たる新型は、これまで通りノアがファミリー向け、ヴォクシーはよりアグレッシブなグリルを備えた若者向け、という基本的なデザインの棲み分けを踏襲するが、中身はプラットフォームからガソリン・エンジン、ハイブリッドシステムまですべて一新されている。

パワートレーンは2.0リッター4気筒ガソリン・エンジンと1.8リッター4気筒+モーターのハイブリッドの2種、それぞれにFWD(前輪駆動)と4WDがあり、さらにグレードによっては7人乗りと8人乗りが選べるからラインナップは幅広いが、今回取材車として借り出したノアS-G(グレードとしては上から二番目)は、170ps/6600rpmと202Nm/4900rpmを生み出す「ダイナミックフォース」2.0リッター4気筒エンジン+ダイレクトシフトCVTを積む8人乗りのFWDで、ノアのメイン車種と目されるモデルだ。

なお5ナンバー・サイズと言ったが、実は新型ノアとヴォクシーの全幅は全車1730mmとなり、初めて5ナンバー枠を飛び出した。いっぽうで全幅だけでなく全長も5ナンバー枠から逸脱した新型ステップワゴンとは異なり、全長は従来通り4.7m未満に抑えられている。



運転手役のお父さんたちのために

走り出しは軽快、一般道ではすっきり静かで洗練されており、全方位的に進化したことが伺える。さすがトヨタの看板車種だけのことはある。とはいえ、やはり万能ではない。

この新型ではプラットフォームも低重心を特徴とする最新世代の「TNGA」に一新されたとはいえ、そもそもこの種のミニバンは自動車として大きなハンディを負っている。すなわち背が高いゆえに重心が高く、その割に幅は狭く、なおかつボディは開口部だらけ、今や両側電動スライド・ドアは当たり前だから重量もかさむ。そのうえ価格も抑えなければいけないから、初めから三重苦、四重苦を背負っているようなものだ。割り切れるスポーツカーを開発する方がずっと楽(もちろんそれぞれの苦労はあるが)だろう。「クルマはやっぱスポーツカーだよな!」 と気軽に口にしている若いうちはなかなか分からないが、歳を重ねた今では、ファミリー向けの国内用ミドルクラス・ミニバンを開発するエンジニアの苦労が身に染みて分かる。

新型ノア&ヴォクシーは、そんな彼らが運転手役のお父さんたちに少しでも運転が楽しいと感じてほしいと考えて作ったと聞く。まさにその通りである。



エアロより安全装備

速度が増すとさすがにロードノイズが大きくなるし、高速道路の追い越し時や上り坂では、正直もう少しパンチがあればとは思うが(速度を維持しようとスロットル・ペダルを踏み込む度にエンジンがビーンを唸って高回転まで頻繁に回るのが気になる)、それ以外はほぼすべての場面で不足を感じることはない。無理難題を形にしたようなミニバンをよくぞここまでまとめ上げたと言うべきだろう。

ADAS系安全運転支援システムも、前方の車両やカーブを検知してブレーキや操舵をアシストするPDA(プロアクティブ・ドライビング・アシスト)を含めて一気に最新型が搭載されている。オプションとなるが、ブラインド・スポット・モニター&安心降車アシスト(接近車両を検知してスライド・ドアの作動を抑止する)が用意されていることも見逃せない。この点でもライバルより一歩先んじていると言えるだろう。ぜひお父さんたちにはエアロではなく、こちら方面に予算を使ってもらって、家族と一緒に安心安全・快適な夏休みを過ごしていただきたい。



文=高平高輝

(ENGINE WEBオリジナル)

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