2023.04.26

LIFESTYLE

最大の打撃は総開発費379億円の衛星の喪失! JAXAのH3ロケットが打ち上げ失敗だけで終わらない事情とは?

3月7日、打上げに失敗した日本の新型基幹ロケット「H3試験機1号機」。機体はフィリピンの東方沖上空で破壊され、海に沈んだ。 写真:毎日新聞社/アフロ

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フィリピンの東方沖に沈んだH3ロケット。2月のトラブルを解消しての打ち上げだったが……。

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打ち上げ頻度を増やすために

2023年3月7日午前10時37分、日本の新型基幹ロケット「H3試験機1号機」は快晴の空へ飛翔していった。度重なる遅延の後だけに期待されたが、第2段のエンジンが着火しなかったためリフトオフから約14分後に飛行を中断して機体を破壊。1号機は失敗に終わった。

H3ロケットとは、2014年からJAXA・三菱重工業が開発する日本の新型基幹ロケット。主力機H-IIAから第1段エンジンを刷新し、シンプル化と低コスト化、製造期間の短縮、打ち上げ機会の拡大を目指している。

これまで46機を打ち上げてきたH-IIAは信頼性は高いものの、設計が古く、衛星の大型化や小型衛星のまとめ打ち上げなど宇宙輸送の多様なミッション要求に対応できない。宇宙用の専用部品を使用していてコストを下げることが難しく、商業受注をあまり取れず、打ち上げ頻度を増やせない課題があった。年間の打ち上げ回数は平均2、3回と世界の中でも少なく、製造・打ち上げサイクルを回せず、部品供給体制を維持できなくなってきていた。そこで新型H3では信頼の高い自動車部品を取り入れて部品点数も削減している。またH-II、H-IIAでエンジン開発に携わった技術者から若手へ経験を引き継ぎ、開発のノウハウを維持するという意味合いもある。

通信放送、気象、測位、地球観測など人工衛星はすでに生活のインフラとなっており、自国ロケットの維持は自立宇宙輸送手段を守り、他国の事情に振り回されずに衛星打ち上げができるということになる。

後継機計画を前倒しするしか

ただし新型エンジンの開発は一筋縄ではいかない。H-IIAの主エンジンで採用した方式は、複雑で部品点数が多く、高コストだが高効率で高い出力が得られるというものだ。一方H3主エンジンの「LE- 9」は、よりシンプルで低コスト、大出力を目指しているが、H-IIAで達成できなかった相反する要求を一度に満足させようということにほかならず、結果として開発は難航した。2020年にエンジン内で推進剤を燃焼室に送り込むターボ・ポンプが振動で破損する問題が発覚し、1号機は計画を2回延期して、搭載予定の地球観測衛星「だいち3号」を待たせることになった。

エンジン問題を克服した2023年2月17日、1段エンジンを制御する機器の電源系統でノイズによりスイッチがオフになるという電気系統トラブルが発生し、打ち上げが中止となった。その後、特急で電気系統トラブルの解消にめどをつけての3月7日の打上げだった。

開発が難航した第1段主エンジンは計画通り燃焼したものの、新たな電気系統の異常で2段が着火しなかった。試験機はそもそもトラブルや失敗リスクがあるものだが、搭載していた「だいち3号」を失ったことが最大の痛手だ。トルコ・シリア地震の被災地観測でも活躍する民生用の光学地球観測衛星を日本は12年間持っていない状態にある。さらに総開発費379億円の衛星喪失とあっては、観測できない期間が長引く。現実的には2028年打ち上げ予定の「だいち3号」後継機計画を前倒しするしかないだろう。運用中のレーダー地球観測衛星「だいち2号」は寿命が迫っており、H3試験機2号機に搭載予定の後継機「だいち4号」も遅れる可能性が高い。H3試験機にはトラブルを乗り越えてもらうしかないが、地球観測衛星ロスによる損失には早期の代替機開発、災害時のデータ調達、運用チームの維持などの手当が必要になる。

文=秋山文野(サイエンス・ライター)

(ENGINE2023年5月号)

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