2023.07.02

CARS

「自社のクルマを特別扱いするな!」 故豊田章一郎氏の言葉で誕生した世界屈指の自動車博物館 全収蔵車を動態保存する「トヨタ博物館」が凄い!!

ネオ・クラシックと呼ばれる80年代のクルマを新鮮に感じる世代にも、懐かしく思う世代にも、ぜひ訪れて欲しい場所がある。自社のクルマも特別扱いはしない、置物ではなく乗り物として、すべての収蔵車を動態保存。ガソリン自動車の誕生以来の歴史を、その展示で紹介する「モノを語る博物館」。それが今年で開館34年を迎えるトヨタ博物館だ。今回は、その前篇をお送りする。

華の89年組

トヨタ・セルシオ、ユーノス・ロードスター、日産スカイラインGTR、スバル・レガシィ……。1989年は、ジャパニーズカーたちの“当たり年”として知られ、以降日本車が世界で飛躍する大きなきっかけになったが、もう1つ日本自動車史を語る上で大きな出来事があったのをご存じだろうか?

それが4月にトヨタ自動車創立50周年記念事業の1つとして愛知県長久手市にオープンしたトヨタ博物館である。



「ガソリン自動車誕生以来の歴史を紹介する」というテーマを掲げる同館の特徴は、設立に際して、トヨタ自動車の当時の社長、豊田章一郎氏が“自社のクルマを特別扱いするな”と指示したというエピソードが残っているように、トヨタの名を冠しながらも、自動車の歴史、文化を紐解く上で必要なものは、国内外のメーカーを問わず、きっちりと押さえた世界屈指の総合自動車博物館である点だ。

また収蔵車すべてを“置き物”としてではなく“乗り物”として動態保存に努めているという点も、変わらないプリンシプルとして引き継がれている。

そんな館内には、1886年のベンツ・パテント・モトールヴァーゲン(レプリカ)から、2014年のトヨタMIRAIまで、140台あまりのクルマが常設展示されているのだが、今回はネオ・ヒストリックと呼ばれるクルマたちに焦点を当てて紹介していくことにしたい。

モノを語る博物館

「モータリゼーションの進展と多様化」をテーマに掲げる3階のフロアには、50年代から現在までの国内外のクルマが、時系列に沿って展示されている。

中でも「試練の時代 社会的課題への対応」というタイトルがついたゾーン11では、自動車が一般に普及する一方で、環境対策や安全対策が進化を遂げた70年代のクルマが並べられていた。

そのトップバッターを飾るのが、CVCC(複合渦流調速燃焼方式)を採用した水冷直列4気筒SOHCエンジンを搭載して世界で初めてマスキー法をクリアした初代ホンダ・シビックだ。

HONDA CIVIC CVCC 1200GL (1975) ワイドトレッドの軽量2ボックス・ボディにCVCC(複合渦流調速燃焼方式)水冷直4SOHCを搭載し、世界で初めて1975年規制のマスキー法に合格。日本自動車殿堂の歴史遺産車。

「できればシビックと一緒に、排ガス規制を2番目にクリアしたアンチポリューション(AP)のロータリーエンジンを積んだマツダ・ルーチェかコスモを並べたいところですね。あれがあるから今の日本車がある。環境先進国日本の象徴としてのストーリーを語る上で必要なクルマだと思うんです」

と語るのは、副館長を務める増茂浩之さん。その言葉の通り、史実をしっかり伝えること。そのためならメーカーの垣根を越えて、その功績を紹介するという姿勢が、博物館のディスプレイには貫かれている。

AUDI QUATTRO (1981) フェルディナント・ピエヒのもとで開発され、4WDをオンロードでの操縦製向上の手段に用いたグループBマシンのパイオニア。WRCにも参戦し、1982年と84年にタイトルを獲得した。

「今、アウディ・クアトロを置いてあるところには、以前スバルさんからお借りしていた初代レオーネ・バンが展示してありました。パートタイム式ですが、市販乗用車初の4WDとして、絶対に置いておきたい1台。その前にはVWゴルフIがありますが、FF2ボックス・ハッチバックのパイオニアという意味では、その前にルノー・サンクがあったとか、そういうことはちゃんと伝えたい。“モノを語る博物館”とは、そういうことなのだと思います」

とはいえ“お勉強感”の強い難しい展示というわけではない。むしろその逆で、フェラーリ512BBのような“華のある”クルマがあれば、当時の時代、風俗を感じさせる補足展示が挟まれていたり、より自動車文化に特化した模型やオートモビリア、資料が充実した文化館も併設されているなど、特別な知識がなくても見ていくうちに、時代の流れ、自動車の進化を感じ取れる内容になっているのが特徴である。

◆セルシオやハリアー、ユーノス・ロードスター、スカイラインGT-RにホンダNSXも! 懐かしさに溢れるクルマが続々登場! この続きは後篇で!!

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文=藤原よしお 写真=茂呂幸正

FERRARI 512BB (1979) 180度V12エンジンをギヤボックスの上に重ねたミドシップ・レイアウトを採用した365GT4BBの排気量を4942ccに拡大した。カウンタックと並ぶスーパーカー・ブームの雄だ。


(ENGINE2023年7月号)

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