2023.07.15

CARS

生産台数たった18台の「ベントレー・バトゥール」は圧倒的に静かで、そして強烈に速い! 最後のW12ツインターボは歴代最高の750馬力!! 

ベントレーの6リッターW12ツイン・ターボ・ユニットの有終の美を飾るモデルに選ばれたのは、コンチネンタルGTスピードをベースとする何もかもスペシャルなバトゥールだった。モータージャーナリストの藤原よしおがリポートする。

最後にして究極のW12気筒

「12気筒の生産を中止し、電気自動車の未来に進む前に、12気筒のあり方を最終的かつ究極的に表現するもの、それがバトゥールなのです」



マリナーのチーフテクニカルオフィサーを務めるポール・ウィリアムズはそう切り出した。

「マリナーは伝統あるコーチビルダーとしてRタイプ・コンチネンタルなど数多くの名車を生み出してきました。しかし近年は時折オーダーメイドのプロジェクトをこなす以外は、トリム・パッケージとして存続している程度でした。そこで私たちは、マリナーを生き返らせる計画を実行に移したのです」

こうして2020年、ベントレーはヘリテイジ・モデルの復刻、レストアを行う“クラシック”、コンチネンタルGTマリナーなどレギュラーモデルを製造する“コレクション”、そしてワンオフ、フューオフ・モデルを手がける“コーチビルド”の3部門へとマリナーを再編した。

シフトノブ手前には3Dプリンタで作成されたイエロー・ゴールドのリングが備わる。

「コーチビルドの第1弾として2020年に発表したのがバカラル。バトゥールはその第2弾になります」

試乗の舞台は西サハラ沖の大西洋に浮かぶスペイン領テネリフェ島。そこに彼らは2台のバトゥールを持ち込んだ。聞けば紫の#0はボディの一部に自然由来のナチュラル・ファイバーを試用した1次プロトタイプ、ブルーの#00はほぼ生産型に近い最終プロトタイプで、これらのプロトタイプの経験を活かした1号車の製造が、本国クルー工場でようやく始まったところだという。



ではなぜ、たった18台(しかも価格は165万ポンド=約2億8900万円)で売約済みのモデルの国際試乗会を、わざわざ行う必要があったのだろうか?


マリナーの真骨頂

「我々はコーチビルドをきっかけに、ベントレーの将来のデザイン言語がどのようなものになるのかを、お見せしたいと思っているのです」

というとおり、デザイン・ディレクターのアンドレア・ミンド、エクステリア担当のトビアス・シュールマン、インテリア担当のアンドリュー・ハートバロンの手によるバトゥールのデザインは、2025年に登場するBEVを予言するものになっている。さらによく見ると、サイドやリアのシルエットが、2019年に発表されたコンセプト、EXP100GTを受け継いでいることにも気づく。



そんなバトゥールのもう1つのハイライトと言えるのが、歴代最高の750ps、1000NmにまでチューンされたW12ツインターボだ。

排気量はそのままにターボやインテークを大型化。さらにインタークーラーをはじめとした冷却系を大幅に強化したというW12は、始動直後の排気音も比較的ジェントルで、荒々しさは感じられない。その印象は走り出しても同じで、低回転からのトルクも厚く扱いやすい。ところが一度アクセレレーターに力を込めると、シートに体が押し付けられるほどの強烈な加速力をみせる。



それよりも驚いたのは、シャシーの素晴らしさだ。その基本はGTスピードと共通だが、750psに対応するためにリア・トレッドを20mm拡大。前後に大径のカーボンシリコンカーバイト・ブレーキを標準装備するほか、カーボンファイバー製ボディ・パネルの採用、リアシートの撤去などにより40kgもの軽量化を達成しているという。

そこに専用にセットアップされた4WSやeLSD、3チャンバーのエアサスペンションなどが効いているのか、ステアリングの入力に対する反応がGTスピードより鋭い上、リヤのスタビリティが盤石なので、挙動を乱すことは一切なく、パワーをしっかりと路面に伝えながら立ち上がる。それは清々しいほどのニュートラル・ステアで、タイトなテネリフェ島の峠道でも自信をもってクルマをコントロール下に収めることができるのには、素直に驚いた。

そしてもう1つ驚くべきは、風切り音やロードノイズがほとんどなく、GTスピードより圧倒的に静かに感じられたことだ。それこそが老舗コーチビルダー、マリナーの真骨頂ということなのだろう。さすがは栄光のW12のフィナーレを飾るに相応しい1台である。


文=藤原よしお



■ベントレー・マリナー・バトゥール
駆動方式 フロント縦置きエンジン4輪駆動
全長×全幅×全高 非公開
ホイールベース 2850mm
車両重量 2170kg
エンジン形式 水冷W型12気筒DOHCツインターボ
総排気量 5950cc
最高出力 750ps/5500rpm 750ps/5500rpm
最大トルク 1000Nm/1750-5000rpm
トランスミッション 8段AT
サスペンション(前) ダブルウィッシュボーン/エア
サスペンション(後) マルチリンク/エア
タイヤサイズ(前) 275/35ZR22
タイヤサイズ(後) 315/30ZR22
ブレーキ(前後) 通気冷却式ディスク
車両本体価格 165万ポンド

(ENGINE2023年8月号)

無料メールマガジン会員に登録すると、
続きをお読みいただけます。

無料のメールマガジン会員に登録すると、
すべての記事が制限なく閲覧でき、記事の保存機能などがご利用いただけます。

いますぐ登録

タグ:

advertisement

PICK UP



RELATED

advertisement