2023.09.21

CARS

フェラーリのヴェッチューラ・ラヴォラトリオというクルマの存在を知っていますか? いまに続くフェラーリのハイブリッド・モデルの起源とは【『エンジン』アーカイブ蔵出しシリーズ フェラーリ篇#3】

今やフェラーリといえども温暖化、CO2問題には積極的に取り組むのが当たり前だが、10年前は、アンチ温暖化の世論、世界中で始まろうとしていた燃費規制に適応すべく、スーパーカー専業メーカーのフェラーリまでもがハイブリッドを開発しているというニュースに世界中のファンが驚いた。そして2010年の2月下旬、その革新技術説明会がついにマラネロで開かれた。貴重なアーカイブ記事を蔵出しするシリーズのフェラーリ篇。今回は、2010年5月号に掲載されたハイブリッド・モデルの実験車、「ヴェッチューラ・ラヴォラトリオ」の発表会の記事をお届けする。

ポルシェ、米市場から撤退?

燃費とCO2(二酸化炭素)排出量の低減は、フェラーリにとっても重要な課題だ。いや、むしろ高性能車ほど高い環境性能が望まれている。そうでなければ社会的な認知を得ることがむずかしくなっているのだ。

ハイブリッド化しても馬力荷重は変わらない。


現実問題として、オバマ大統領が打ち出したアメリカ合衆国の燃費規制に対応しなければならない。これは、2012年から各メーカーが生産するクルマの平均燃費を毎年5%改善し、2016年には1ガロンあたり35.5マイル(リッター約15.1km)を達成せよ、という厳しい要求だ。ドイツの経済紙フィナンシャル・タイムズが、「ポルシェ、米市場から撤退か!?」という憶測記事を書いたほど達成困難な目標である。自動車メーカーにとって、政治家と役人ほど怖いものはない。

フェラーリはもちろん、環境対策に消極的だったわけではない。2007年にCO2削減に関する5カ年計画を独自に立て、実行に移しているのだ。08年のカリフォルニア、09年の458イタリアに高効率の直噴エンジンを搭載し、3年前と較べ、フリート燃費をおよそ30%も改善、3月にはカリフォルニアにアイドリング・ストップ機能を組み込んだ

今回ジュネーブ・オート・サロンで一般公開された599ベースの「ハイ・カース・ハイブリッド」なる実験車はこの計画の延長線上にある。フェラーリはジュネーブ・サロンに先立って少数のジャーナリストを本拠地マラネロに招待し、このハイ・カース・ハイブリッドに関するテクニカル・ワークショップを開催したのである。

ヴェルデ・カース

フェラーリのテクニカル・ディレクター、ロベルト・フェデーリによって紹介された「ハイ・カース・ハイブリッド」は、599GTBフィオラノをベースとする実験車で、ロッソ・フェラーリならぬ「ヴェルデ(緑)・カース」と名付けられたメタリック・グリーンに塗られていた。

車名だけでなくボディ色の名称にまで採用されたカース(KERS:Kinetic Energy Recovery System)とは、もちろん昨年のF1で採用されたブレーキ・エネルギー回生によるブースト・システムのことである。フェラーリはこのKERSのロジックを量産車に応用しようとしているのだ。つまり、電気モーターの助けを借りて、主に街中での燃費を改善し、同時に性能アップをも図ろうというのである。

7段DCTと一体化された小型の電気モーター。トランクの床板をはずして見たところ。パッケージ上、実用性をまったく損なっていない。7段デュアル・クラッチ・トランスミッションの後端に加えた小型電気モーター部分が見えている。右端のハコは冷却ポンプを含む制御システム。


599ベースの実験車には、100ps以上の出力を発生する、40kgの軽量電気モーターが7段デュアル・クラッチ・トランスミッションの後端に取りつけられている。「デュアル・クラッチのおかげで、電気モーターとV12エンジンのパワーはよどみなく、瞬時に連結されます」とハイブリッド・パワートレイン・システム担当のフランコ・シマッティは語っている。

開発に当たっての大前提は、「フェラーリらしさを失ってはならない!」であった、とロベルト・フェデーリは言う。そのために開発されたのが薄型リチウム・イオン電池とフェラーリ独自のレイアウトだ。アルミのケーシングに納められた電池(メーカー名は未公開)は床下にレイアウトされ、低重心を保つどころか、スタンダードよりも低い重心を確保でき、ハンドリングはいっそう向上しているという。

電池のケースに熱伝導率の高いアルミを使い、薄く延ばして面積が広い形状としたのは、走行風のみで効果的な冷却を行うためだ。なにより、重量の嵩む新たな冷却システムを必要としないですむ。

新開発のフラット・リチウム・イオン・バッテリー/重心を低く保つために床下に配置される薄型リチウム・イオン電池。ハイブリッド用のすべての部品はすべて、599の重心高である480mm以下に置かれている。なお、このハイブリッド・システムはミドシップにも応用できる。


馬力荷重は変わらない

ハイブリッド化による重量増は可能な限り抑えると同時に、重量増ぶんは電気モーターの出力で相殺する、というのが基本的な考え方で、仮に重量増加が120kgとすれば、電気モーターの出力を120馬力まで上げる。そうすれば、ハイブリッド化しても馬力荷重は変わらない。

電気モーターの力が加わることで、走行性能は向上する。たとえば、現行599比、0-200km/h加速はコンマ6秒速くなる。一方、CO2排出量は約35%、燃費は100kmあたり21リッター(4.8km/リッター)から14リッター(7.1km/リッター)に向上する。

「市場に登場するにはさらに3、4年はかかる。将来は可変気筒、ダウンサイジングなど、ほかのシステムと組み合わせることも必要になってくるだろう」とロベルト・フェデーリは締めくくった。フェラーリは、たとえハイブリッドであろうともフェラーリたることをあきらめない。そういうこだわりを、日本メーカーには学んでほしい、と私は思う。

文=木村 好宏 写真=フェラーリS.p.A.

(ENGINE2010年5月号)

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