2023.11.23

CARS

アルファ・ロメオの救世主、ミトに追加された2ペダルモデル「ミトTCT」はどんなクルマだったのか?【『エンジン』蔵出しシリーズ アルファ・ロメオ篇】 

アルファ・ロメオ・ミトTCT

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雑誌『エンジン』の貴重なアーカイブ記事を厳選してお送りしている「蔵出しシリーズ」。今回は2010年に日本に上陸したアルファ・ロメオのミトTCTを取り上げる。ついに、いやとうとう、いやようやくと言った方がいいかもしれない。それくらい待ちに待ったミトの2ペダル仕様が発売された。当時の価格は、デュアル・クラッチ式変速機にアイドリング・ストップも付いたスプリントが278万円、コンペティツィオーネは292万円だった。2つの仕様で販売されたミトTCT(ツイン・クラッチ・トランスミッション)、乗ってみたらこれが性格に違いがあって、どちらも捨てがたかったという、2010年12月号の記事をお送りする。

「ミトTCT入りました! 最新の2ペダルです」ENGINE 2010年12月号

出るぞ出るぞと噂されながら姿を現さず、予約注文した多くのひとたちをやきもきさせてきたアルファ・ミトの2ペダル仕様。それがようやくイタリアで発表されて、バカンス明けのこの9月から欧州各国で発売という運びになってから、こんどはわずかに1カ月。2ペダル仕様の最重要マーケットのひとつというだけあって、日本へやってくるのは早かった。10月5日、ついにミトTCTの販売が開始された。



最初に日本導入モデルについて書いておこう。仕様は2種類ある。ミト・スプリント(278万円)とミト・コンペティツィオーネ(292万円)だ。135psマルチエア・エンジンとデュアル・クラッチ6段変速機を組み合わせるパワートレインの構成も、右ハンドルのみの設定ということでも変わらないが、クルマ全体の性格づけが異なっている。

乱暴な言い方をすると、スプリントはミトを2ペダルの自動変速機付きのクルマとして乗りたいひと向け、コンペティツィオーネはデュアル・クラッチ変速機をよりスポーティなマニュアル変速機として積極的に楽しみたいひと向けの仕様だ。たんにトリムの安い高いの違いではない。

ミトTCTはスプリントとコンペティツィオーネ、2種類の仕様で日本に導入された。これはステアリング・ホイール裏に小さめのパドル・シフターが備わる後者の例。2ペダルということもあって、ペダルのオフセットはほとんどなく、ドライバーに正対している。ステアリング・コラムは角度だけでなく、伸長も調整できる。運転席には座面高の調整機能も備わる。ナビはディーラー・オプション。


大きな違いは2つある。ひとつはスプリントは通常のATセレクターと同じようにセンター・コンソールから生えるシフト・セレクターしかもたないのに対して、コンペティツィオーネはステアリング・ホイールに装着されたパドル・シフターを兼ね備えている。もうひとつは、スプリントには柔らかい16インチ・タイヤが装着されるのに対して、コンペティツィオーネにはグリップ性能をほどほどに重視した硬めの17インチ・タイヤが選ばれていることだ。

このふたつの違いによって、2種類のミトTCTは乗っては明確に意図の違うクルマになっているのだ。

快適至極なスプリント

スプリントはタイヤが16インチになるといってもアルミ・ホイールのデザインが巧妙なおかげもあって、足元が貧相に見えるなどということは全然ない。パッとひと目見ての印象は、“上品”というものだ。

運転席に着いて、エンジンをかけ、センター・コンソールを見やれば、そこにある縦一列にP-R-N-Dと並び、Dから左のティップ・ゲートに入れてマニュアル・モードというロジックのシフト・セレクターは、通常のAT車で慣れしたんだそれ。Dレインジに入れてブレーキから足を上げれば、即座にクリープが始まるところも変わらない。

アクセレレーターを踏み込んで走り出せばスイッと加速していく。あとは望む速度へ到達するまで何事もなし!

スプリント、コンペティツィオーネともにシート表皮はファブリック。フラウ製の革シートがオプションで選べる。後席3名乗車が可能。


気をつけていないといつ変速したのかもわからない。それぐらいにシフト・アップは滑らかで、加速感にも途切れがない。とはいっても、これはプレスティッジ・サルーンではないから、ポンポンとシフト・アップしていくときにエンジン音が変化するので変速を知ることができる。がAT以上といっていいスムーズなシフト・アップは、運転する本人もそうだけれど、なにより同乗者に喜ばれるだろう。運転が上手くなったと思われるかもしれない。

そして何より乗り心地がいい。踏面もケース構造も柔らかな16インチ・タイヤ(試乗車に付いていたのはGYのエクセレンス)のおかげで、これがあのミトだろうか! と驚くぐらいに乗り心地が円満なものになっている。つい最近まで編集部にあった1.4Tスポーツはもとより、最近投入されたクワドリフォリオ・ヴェルデと比べてもずっと当たりが優しいものになっている。気のきいた2ペダルのラナバウトとして使うのにもってこいのセッティングだ。

信号待ちなどで停まると即座に作動するアイドリング・ストップとの心理的な整合性も高い。こういう仕立てのクルマなら、すんなりと受け入れられる。

コンペティツィオーネは?

もちろん、このスプリントだって、シフト・セレクターの根元にあるアルファDNAのスイッチを長押ししてN(ノーマル)からD(ダイナミック)に切り替えれば、エンジンのレスポンスもいっきに鋭くなり、変速機もより高い回転域まで使うようになると同時に変速所要時間も短くなって、アルファに乗っている悦びを満喫できる。柔らかいタイヤが付いているといったって、サイズは余裕あるものだから、容易に腰が砕けるということもない。スポーティな走りが十分に楽しめる。



クワドリフォリオ・ヴェルデ用と違ってTCTに使われるマルチエア・エンジンは135ps仕様で、いかにもターボの炸裂感こそ薄いものの、逆にターボとは思えないようなリニアリティの高い加減速が嬉しい。

けれども、いざ気分が乗ってきてワインディング・ロードへ分け入ったりすると、マニュアル変速するたびに左手をステアリング・ホイールから離さなければならないスプリントよりも、ステアリング・ホイール裏のパドルで変速を司ることが可能なコンペティツィオーネのほうがより楽しいというしかない。

街なかでは少し落ち着きに欠ける動きをもたらす足の硬さも、こういうセクションでは全く気にならなくなる。このクルマに170psエンジンが載っていればさぞや、と思う瞬間がないわけではないけれど、アルファ・ロメオはクワドリフォリオ・ヴェルデはミトに限らず3ペダルMTのみという姿勢をとっているから仕方ない。いまのところ、最新の変速機を楽しむほうを取るか、パワーを取るかの二者択一である。

遅れてきただけのことはある

スプリントとコンペティツィオーネの2台に乗ってみて感じたのは、このデュアル・クラッチ変速機はただものじゃないぞ、ということだ。乾式クラッチ式につきもののように思われていた“つなぎ”の粗さがまったくない。これなら湿式クラッチ式に勝るとも劣らない。マニュアル変速時にドライバーの意思に逆らって変速を躊躇することもない。制御プログラムがよく煮詰められている。

試乗会の数日後に来日したFPT社(フィアット・パワートレイン・テクノロジー)の開発担当エンジニアであるフランチェスコ・チミーノさんの解説によれば、デュアル・クラッチ変速機とマルチエア・エンジンの連携統合制御が、変速機だけでなく、最新鋭エンジンの優れた特質をよりよく引き出すことになっているのだという。エンジンのクランク軸出力とアクセレレーター操作の関係に基づいてエンジンを制御するのではなく、路面に対する駆動力(最終出力)とアクセレレーターの関係に基づいてパワートレインを制御するロジックの採用が可能になったミトTCTは、普通のエンジン以上に緻密な制御が効くマルチエア・エンジンの特質を効果的に引き出せるのだという。聞いて納得。ミトTCTはとにかくマナーが洗練されている。

待った甲斐があったというものだ。

文=齋藤浩之 (ENGINE編集部) 写真=小野一秋

(ENGINE2010年12月号)

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