2023.09.29

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R.S.(ルノー・スポール)の世界に触れられる最後のチャンス メガーヌR.S.の最終モデル「ウルティム」に乗る

3代に亘りルノー・メガーヌのスポーツ・モデルとしてシリーズのトップに君臨したR.S.がついに終焉を迎える。その最後を飾るモデルとして世界で1976台だけ用意された限定車がウルティムだ。このR.S最終モデルにモータージャーナリストの島下泰久さんが試乗し、メガーヌR.S.に対する想いを語った。

車名を聞いただけでゾクゾクする

その車名を聞いただけでゾクゾクしてくるほどのアイコニックなスポーツ・モデル、ルノー メガーヌR.S.がその歴史を終えようとしている。その名の通りルノーのスポーツ部門を担ってきたR.S.すなわちルノー・スポールが、アルピーヌへと移行するためである。本国で現時点では電気自動車=バッテリーEV(BEV)版が先行してデビューしている次期型メガーヌにもスポーツ・モデルが設定されることはあるかもしれない。しかし、そのクルマが「R.S.」の名を背負うことは無いわけだ。



初代から印象深いモデルだった

メガーヌR.S.といえば、多くの人が思い浮かべるのがニュルブルクリンク旧コースでの前輪駆動(FF)車史上最速をかけたライバル達との熾烈な争いではないかと思う。しかしながら個人的には、初代モデルがデビューしたときの印象も同じくらい鮮烈である。

2004年、クリフカットのリア・デザインが個性的だった2代目メガーヌに追加された初代メガーヌR.S.は、最高出力224psを発生する2.0リッター直4ターボ・エンジンを搭載し、フロントにトルクステア軽減を目的としたダブルアクシス・サスペンションを装備。持ち前のしなやかさを活かしたシャシー設定も相まって、ハイパワーの前輪駆動車なのに扱いやすい、素晴らしい乗り味を体感させてくれた。

今でこそ珍しい存在ではないが、この頃までの高出力のターボ・エンジンを積むFFスポーツは、あふれるパワーとトルクを御しきれず、どうしてもじゃじゃ馬になってしまいがちだった。そこに新たな地平を切り拓いたのは、まさにメガーヌR.S.だったのである。振り返ってみると、実はその精神は最後まで同じようにまっすぐ貫き通されていたように思える。



ルノーのロサンジュが際立つエクステリア

そして今、目の前にあるのがルノー・スポールの名を冠する最後のモデルとなる、ルノー メガーヌR.S.ウルティムである。ルーフとボンネットを彩るのは、ルノーのロサンジュつまりはひし形のメーカー・マークをモチーフにデザインされたブラックマット・ストライプ。同様にロゴやエンブレムの類もブラックアウトされ、足元にはルノー メガーヌR.S.トロフィーのそれに対して1本当たりの重量が実に2kgも軽いブラックの19インチ・アロイホイール「フジライト」が装着されている。

一方、そのハードウェアは締め上げられたセットアップのサスペンション、トルセン式LSD、前輪のアルミ製ハブ、鋳鉄製スリット入りブレーキ・ディスクなど、R.S.トロフィーに準じた仕立てとされる。

◆ルノー・スポールの最後を飾るモデル、ルノー・メガーヌR.S.ウルティムの詳しい情報はこちら!



走りっぷりは半端ない

ドアを開けるとキッキング・プレートにも“R.S. ULTIME”のロゴ。そしてドライバーズ・シートに身体を収めると、シフト・セレクター前に装着されたロラン・ウルゴン氏のサイン入りプレートが目に入る。ルノー・スポ―ルの名テスト・ドライバーとして数々のR.S.モデルを手掛けてきた御仁だが、フランスから遠く離れたここ日本で、かつてこれほど有名になったテスト・ドライバーはいないのではないだろうか。

もちろん、それはメガーヌR.S.の走りから感じられるほとばしるようなパッションのおかげだ。まさにタイヤがひと転がりした瞬間から、このクルマは走りっぷりがやはり半端ないなと感じさせてくれる。サスペンションは想像通り、いやそれ以上にハードで、街中では身体が始終、上下に揺さぶられる。カップ・ホルダーは一応備わるが、使うべきではないかもしれない。レーシングカーをそのまま公道で走らせているような乗り心地といえば、雰囲気が伝わるだろうか。

ただし、土台となるボディが強靭なボディ剛性を備えているため、けっして安っぽい感じがしないのは救いといえる。速度域が高まるほどに落ち着きが出てくるのはうれしい一方で、ペースが上がってしまうという意味では困りものでもある。



すべては切れ味鋭いハンドリングのため

もちろん、締め上げられているシャシーはすべて切れ味鋭いハンドリングのためだ。

圧倒されるのは前輪の路面にへばりついて離れないかのような接地感。ステアリングをわずかに切り込んだだけでも即座に、正確にレスポンスしてノーズをイン側に向けようとする。

そして、それにすかさず追従するのがリアで、4コントロールと呼ばれる後輪操舵がもたらす追従性の高さのおかげで、クルマ全体が息を飲むほどの鋭さで旋回姿勢に入っていく。トロフィーに準じた引き締められたサスペンションも曖昧さを排したソリッドな反応に繋がっているのは間違いない。



右足の動きひとつで思いのまま

その先の挙動は、まさに右足の動きひとつでどうにでもできる。アクセレレーターをさらに踏み込めば、トルセン式LSDのおかげでステアリングの向いた方向にクルマがさらにグイグイ引き込まれていく。多少のトルクステアもお構いなしの勢いには気圧されてしまうが、その旋回感は刺激的だ。

アクセレレーターに載せた右足を少し緩めてやれば逆位相に切れているリア・タイヤのおかげで、これぞニュートラルステアという旋回感覚を得ることができる。先代ではあえてリアのスタビリティを抑えることで、こうしたコーナリングを実現していたが、4コントロールのおかげで安心感と鋭さが高い次元で両立されるようになったのである。



どこから踏んでも即座に加速態勢

ついついシャシーの話から始めてしまったが、1.8リッター直4ターボ・エンジンのパワーフィールも特筆ものと言っていい。全域でトルクの厚みは半端なく、まさにどこから踏んでも即座に加速態勢に入ることができる。コーナーの大小を選ばないこのトルク特性こそ、ワインディング・ロードでの速さに直結する。

強くアクセレレーターを踏み込めば、トップエンドへはまさに騎虎の勢いで到達。ステアリング・コラム固定式のシフト・パドルも大きくて操作しやすく、とにかくすべてが実戦で鍛え上げられたという匂いに満ちているのだ。



誰もが速く走れるわけではない、でもそこが良い

とにかくアンダーステアを嫌い、そのぶん生じるある種の危うさはドライバーがねじ伏せる。そうすれば、とんでもなく速いのがメガーヌR.S.ウルティムというマシンである。誰もがパッと乗ってすぐに速く走れる優等生ではないかもしれないが、むしろそこが良い。

手応えを饒舌に返すステアリングをはじめ全身を通じてクルマを感じ、それこそクルマを通じて作り手と対話することでスイートスポットをうまく見つけると、持っているポテンシャルを100%引き出して速く走ることができる。それがメガーヌR.S.ウルティムを操ることの何よりの醍醐味だ。ロラン・ウルゴン氏が崇められるのも、みんながそんな風にクルマを通じて氏と対話し、その世界に魅入られたからに違いない。



情感あふれるスポーツ・モデル

ニュルブルクリンク旧コースでのタイムアタックをはじめ、メガーヌR.S.は情緒と無縁のクルマのように思われるかもしれない。しかし、それは逆。これほどまでに情感あふれるスポーツ・モデルだったからこそ、世界を魅了したのである。

ファイナル・モデルたるメガーヌR.S.ウルティム。これがその世界に触れられる最後のチャンスである。

◆ルノー・メガーヌR.S.の最終モデル、ウルティムの詳しい情報はこちら!



文=島下泰久 写真=茂呂幸正

(ENGINE WEBオリジナル)

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