2023.12.29

CARS

EVドリフトマシン、アイオニック5N ヒョンデのNブランドとは何か? エンジン編集部ムラカミ、WRCラリー・ジャパンでヒョンデを体験!

2022年に引き続き、愛知と岐阜に跨がって開催された世界ラリー選手権(WRC) 最終戦、ラリー・ジャパン。参戦するヒョンデに誘われて、観戦に行ってきた。エンジン編集長のムラカミがリポートする。

WRC初観戦!

実は、20年以上もENGINEで仕事をしているにもかかわらず、これまで1度もラリーを現場で見たことがなかった。F1やル・マン、ニュル24時間レースには何度も行っているのに、なぜかラリーには縁がなかったのだ。それが今回、WRCに参戦する一方で、もっか日本に再進出を図っている最中のヒョンデから、観戦ツアーに参加しないかと誘われて、こんな機会はめったにないと思って、ふたつ返事で行くことを決めた。しかも、現場でラリー・カーに同乗体験させてもらえるというのだから、こんな役得を逃す手はない。



というわけで、初日の11月16日に向かったのは、愛知県豊田市にある豊田スタジアム。ここにサービスパークが置かれるとともに、前回にはなかった施設内に特設されたコースで、SSの上にもうひとつSがついたスーパー・スペシャル・ステージが戦われることになっている。

昼頃に着いて、まずはヒョンデのNブランドについてのプレゼンを聞いたのだが、これがすこぶる興味深いものだった。2022年からゼロエミッション車に的を絞って日本への再進出を図っているヒョンデは、24年の春から、新たにスポーツ・ブランド“N”のEVモデルを日本に投入する予定なのだという。ラリー・カーのフロント・グリルにも“N”の文字が大きく書かれているが、これはBMWの“M”やメルセデスの“AMG”のようなヒョンデのモータースポーツ・ブランドで、その名はR&D拠点のある韓国のナムヤン(南陽)と開発テストの舞台であるドイツのニュルブルクリンクに由来する。WRC参戦車両はi20Nラリー1ハイブリッド。

注目のアイオニック5N。

そして、日本に投入する予定なのは、日本で市販されているアイオニック(IONIQ)5のNモデルで、2023年7月のグッドウッド・スピード・フェスティバルでデビューした。その実車がスタジアム敷地内のヒョンデ・ブースに置いてあったのだが、パフォーマンス・ブルーと呼ばれる水色のボディ・カラーを持つそれは、なかなか魅力的な仕上がりになっていた。面白いのは、EVなのに内燃機関のサウンドを発生させるようになっていることで、回転数が上がるに連れて音が高まり、パドルを引くとブリッピング音もする。さらに4WDの前後のトルク配分を電子制御して、ドリフト・アングル維持をサポートする機能までついているというから驚き。ラリー・カーさながらのEVドリフトマシンなのである。近く乗れる日が来るのが楽しみだ。

豊田スタジアムのSSSの風景


まったく角がない丸い走り

と、長々とNのことを書いたのは、結局、初日の夜のSSSも二日目の朝のSSも見ることができなかったからだ。初日はヒョンデが本国の社長との会食を用意してくれていて、始まる前のセレモニーだけ見て名古屋に移動。二日目の朝は5時起きで2時間近くバスに乗って山奥の設楽町SSに向かったが、なんと悪天候のためにキャンセルになったのだ。

ようやく観戦が叶ったのは、二日目の夜のSSS。しかし、豊田スタジアムのコースはあまりにコース幅が狭くコンクリート・ウォールに当たるマシンも少なからずあって、そのたびに中断して修復に時間がかかる上、走っている2台の勝敗は分かっても、全体の中での順位が掴めないので、テレビ観戦していた方が良かったかも、とちょっと思った。

しかし、三日目は天候も回復。昼前から岡崎市SSを見に行って、やっぱり現地に来て良かった、とラリーの楽しさを満喫することができた。岡崎中央総合公園の中に設えられたコースは公道と広場がうまくつなぎ合わされていて、見どころ満載。アップダウンありヘアピン・コーナーありで、公道を全開で駆け抜け、広場の特設コースでお尻を流してコーナリングするラリー・カーの姿を、間近でじっくりとみることができた。

ドライバーはフィンランド人のエミル・リンドホルム選手。小さい時からずっと氷の上を走っていると、こういう角のない丸い走りができるようになるのだろうか、というくらいスムーズかつ自由自在にクルマを操るのに驚かされた。


そして、最後のお楽しみが待っていた。ラリー・カーが次のSSに向かった後のコースの一部を使って、同乗体験をさせてくれたのだ。登場したのはカラーリングまで見た目は本物のラリー1と同じだが、実はハイブリッドの電気モーターを持たない内燃機関のみのマシン。ドライバーは、2022年にシュコダでWRC2のチャンピオンになり、23年からヒョンデ陣営に移籍したエミル・リンドホルム選手。この人の運転が凄かったのなんのって。180度のコーナーを、ひょいとお尻を流してクリアしたかと思ったら、狭い林間のワインディングを全開で駆け抜ける。なによりも、すべての動きに角がなく丸い走りに感動した。まったく変な力がかからない。運転が上手いというのは、こういうことなんだと実感。だから、コ・ドライバーもやっていられるのだな、と納得した。やっぱり百聞は一体験に如かず、だ。

文=村上 政(ENGINE編集長) 写真=ヒョンデ

(ENGINE2024年2・3月号)

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