アルファ・ロメオの新車が285万円だったなんて、信じられない
全ての画像を見る
心配要らない右ハンドル赤の1台を選んでドアを開けると、シートはオプションのフラウ・レザー仕様だった。+20万円の追加で前後席ともに革張りになるこのオプションは、タン(ナチュラル)か黒、または赤から表皮色を選択する。ステアリング・コラムは角度だけでなく伸長も調整できるから、シートの高さ調整と組み合わせると、かなりの自由度をもって好みの姿勢を選べる。右ハンドル仕様のデキはまずまずという感じだ。ペダル配置にも違和感はない。ただし、クラッチ・ペダルとフットレストの間隔は狭いので、底の大きな靴だと、慣れるまではひっかかりを覚えるかもしれない。マスター・シリンダーを右側に移してあるブレーキの剛性感も、左ハンドル仕様と大差ない。
ギア比がクイックでアシストが強めに効くセッティングのステアリングは、最初こそ戸惑うものの、すぐに慣れる。リムを握り締めるような扱い方をせずに、軽く掌を添えて指を浅く絡めるように保持すればいいだけだ。アクセレレーターとスロットル開度の関係はきょうび珍しいほどにリニアだから、トルク・ステアもそう容易には発現しないので、慌てて握りしめる必要もまず生じない。総じて、操作性は軽やかなタッチで統一されている。日本仕様のミトには215/45R17というサイズのタイヤが標準装着されているけれど、小回りが全然利かないなどということもない。以前の前輪駆動アルファでは強いアッカーマン・ジオメトリーがステアリングに仕込まれていたせいもあって、外輪の切れ角が極端に小さかったけれど、ミトにはずっと常識的なジオメトリーが採用されているようで、内輪と外輪で切れ角に極端な違いは生まれない。全幅1・7m強のボディに215タイヤの組み合わせに妥当な(絶対的には5・5mと決して小さくはないが)回転半径になっている。よほどのことがないかぎり、路地裏で苦しむこともないだろう。かつての164や156、あるいは145、147といったアルファの感触を身体で覚えているひとなら、ミトを走らせ始めたとたんに、ずいぶんと乗りやすいアルファだなと感じるはずだ。乗り心地も軽やか海外で乗ったときには問題なしと思ったクルマも、高架構造道路の金属ジョイントや轍と無縁ではいられない東京で走らせてみると、ハーシュネスの抑えこみが不十分だったり、ステアリングの中立保持力が足りないと感じることがままある。しかし、ミトはどうやら大丈夫。浅い段差や金属ジョイント乗り越えできつい突き上げを食らったりすることもなければ、ちょろちょろと進路が乱されたりということもない。予想していた以上に東京の道路への適性は高かった。

ロール剛性が高めにとってあって姿勢変化は少ないけれど、サスペンションのスプリング・レートはさほど高くないので、ピッチングが出るようなこともない。普段、街のなかで暮らすのに不満を覚えることはなさそうだ。柔らかくはないけれど、きつくないし、角も立たない。あとで借り出して走り慣れた通勤ルートでも確認できた。バネ下が踊るようなこともなかった。頑張らずに走れる山道を速いペースで走ってみると、日常的な使い勝手とスポーティな走りの両立に上手いこと折衷点をみつけたセッティングであることがよくわかった。ワールド・ローンチのときに用意された英文資料に、新しいアルファDNAシステムとうたう統合電子制御装置はサスペンションも司るとあったから、てっきり電子制御ダンパーなんだろうと思っていたら、なんと資料がウソで、DNAが介入するのはエンジンとブレーキの関連制御だけだったということが分かった。最初の試乗記に電子制御ダンパーと書いたのは、だから僕の誤りです。本当にごめんなさい。すっかりだまされたのは、ダンパーにリバウンド・スプリングが仕込んであって、伸び側を強力に規制するため、大入力時には姿勢変化を抑える効果(内側のリフトを抑える働き)がいかんなく発揮されるせいだった。バネレートをそこそこにとどめながら、姿勢変化を抑えるには、トーション・スタビライザーを太くしてロール剛性だけを一気に上げてしまう簡便な方法もあるけれど、それだと乗り心地にネガが出てしまう。
リバウンド・スプリング内蔵ダンパーはスモールカーにはあまり採用されないお金のかかる方法だけれども、その採用に踏み切ったということは、アルファがそれだけ、オールマイティな1台を目指したということの証左だと思う。まなじりを決して山道を攻めたいというひとにはグランデ・プント・アバルトのほうが向いていると思うが、ミトにはいつでもどこでも爽やかに楽しめる軽やかさがある。文=齋藤浩之(ENGINE編集部) 写真=小野一秋■アルファ・ロメオ・ミト 1.4ターボ・スポーツ駆動方式 フロント横置きエンジン前輪駆動全長×全幅×全高 4070×1720×1475mmホイールベース 2510mmトレッド 前/後 1485/1475mm車輌重量 1220kgエンジン形式 水冷直列4気筒 DOHC 4v+ターボ過給総排気量 1368cc最高出力 155ps/5500rpm最大トルク 20.5(23.5)kgm/5000(3000)rpm変速機 6段マニュアル・ギアボックスサスペンション形式 前 ストラット式/コイル サスペンション形式 後 トーションビーム式/コイルブレーキ 前/後 通気冷却式ディスク/ディスクタイヤ 前/後 215/45R17車輌本体価格 285.0万円(RHD)(ENGINE2009年7月号)
無料メールマガジン会員に登録すると、
続きをお読みいただけます。
無料のメールマガジン会員に登録すると、
すべての記事が制限なく閲覧でき、記事の保存機能などがご利用いただけます。
いますぐ登録
会員の方はこちら