2024.06.12

CARS

「なによりも、ステアリングを握る者をその気にさせてくれる」 2008年型500アバルトは、どんなクルマだったのか? 激走イタリア国内1600km サソリの毒は気持ちイイ!

現代に蘇ったアバルト 第一弾は500アバルトだった!

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こいつは200km/hが可能だ

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私には使命があった。それはモンテゼモロ会長の推薦するイタリアのレストラン3カ所を回ることだった。おかげで、トリノ~マントヴァ~ボローニャ~ローマ~トリノと、1500km以上走ることになった。全長4mに満たぬ、軽自動車に毛が生えたぐらいの小型車で。

朝、トリノを出発したときは漠とした不安があった。石畳だとか工事中だとかで、荒れた路面を通るときには肩が上下にグラグラ揺れるのがわかった。トリノは工事中が多くて、グラグラ揺れるのだった。



ノーマルより30mm低められた足回りは、前後にスタビライザーを備え、ようするに硬いのだった。タイヤも、スタンダードの16インチではなくて、17インチを履いている。ピレリPゼロ・ネロは205/45の扁平、ZR規格である。凸凹道や石畳では、胃が揺すられるぐらいの上下動を感じる。そのくせ、不思議とガツン! という衝撃は来ない。どうしてこんなに硬いのに、直接的なショックは伝えないのか。ゴムの使い方なのだろうけれど、不思議だ。

高速道路に上がり、路面がよくなると、俄然、500アバルトは生き生きと走り始めた。

フィアット500をベースに新生アバルトが手を入れたのは、まずもってエンジンである。自然吸気の1.4リッター直4は、IHI製ターボ付きに載せかえられた。これにより、最高出力は100psから135ps/5500rpmにアップした。最大トルクは、スポーツ・モード時に21.8kgmを3000rpmで発生する。ノーマル・モード時だと18.4kgmにとどまり、ノーマル・モードでアクセル一定のままスポーツ・モードに切り替えると、エンジンが音色を変えてボディを加速させる。その差は数値以上に歴然としていて、ひとたびスポーツ・モードのボタンを押すや、2度とノーマル・モードに戻したくなくなった。いったいだれが遅いまま走りたがるだろう。

サソリ・マークが革巻き3本スポーク・ステアリング中央に輝く。シフトは軽くて正確に決まる。ラバーの滑り止めがついたアルミ・ペダルに注意。

5段マニュアルのみのギアボックスはシフトになんの苦労もコツも要求しない。革巻きのシフト・ノブは小ぶりで、いつ何時たりともスムーズに決まった。ただし、高速巡航のさなか、右手が6速ギアを探す、というようなことはままあった。120km/h巡航の5速トップがちょうど3000rpmで、ちょっと前のドイツ車と同じ。現代のクルマとしては、ギア比が低目であることは否めない。

最初は自重していたけれど、おのずと速度が上がっていく。私は本当は上げたくないのである。ところが、速度が上がってしまうのだ。

こいつは200km/hが可能だ。さすがに200km/hだと、エンジンも苦しそうになり、風切り音その他も含めてそうとううるさい。けれど、考えてみたら2000kmも走っていないのだ。少なくともエンジンは調教しだいで、もっと回るようになるに違いない。騒音さえ我慢すれば、驚くべきスタビリティで直進する。ホイールベース2300mmの小さなクルマとして、不思議なくらい。たとえ路面の悪いところであろうと、フロント・タイヤが行く手をさえぎる凸凹をかきわけるように前へ前へと進む。そういうフィールがステアリングから伝わってくるのである。

ひとまわり大型かつ面の張りがパンとしているシート。疲れ知らず。

180km/hで巡航可能。210は確認。200はうるさい。うなる。エンジンも苦しそう。150は楽勝。静か。170まではなんとか。結局、いろいろ試して、170で巡航した。

絶妙のチューニング

ボディはしっかりしている。ひどい路面のアウトストラーダでも踏ん張っている。ダダンッと段差もある。そこがアウトバーンとは違う。アウトストラーダには首都高みたいな陸橋もある。目地段差もある。でも、ボディは耐えている。グッと耐えている。グッと耐えている感がある。

ボローニャからフィレンツェにいたる高速の山道。変なロールがないから、ターンインが怖くない。ロールはします。でも、ロール・スピードが速くない。サスペンションのチューニングが絶妙なのだ。



長距離乗っているうちに、6000rpm手前でシフトアップのインディケーターが光っていることにようやく気づいた。1.4リッターターボは3000rpm回っていると力強い。5速トップのまま、そのまま踏み込めばトルクがわき出す。でも、そこをあえて4に落とす。さらに力強い加速が得られる。しかも息が長い。

なにしろ、小さなクルマで大型車に伍して楽に走れるところが魅力だ。神経質ではないし、といって鈍感かというと、そうではない。スロットルで向きが変わったりするのである。ちょうどいい塩梅でドライバーを見守りつつ、やってる気にさせてくれるのだ。

***

ドライブ1日目はトリノからマントヴァまで、2日目はマントヴァからボローニャ経由でローマまで、3日目はローマからフィレンツェ経由でトリノまで走った。どこの町でも、イタリア人に注目された。何km/h出した? と訊かれた。もっと出るはずだ、といわれた。

1960年代のアバルトの栄光を現代に蘇らせようというフィアット・グループの試みは、いわば男のロマンである。大メーカーがチューニング・ショップをやろうというのだ。自動車を1台売るほうが、手間と暇を考えれば、どんなに楽だろう。

それをあえてやる。驚くべきは、大フィアットにかつてのアバルト・マジックを思わせるようなチューニングの天才がいることだ。いや、いるに違いないのだ。足は固められているのに、乗り心地は悪くない。直進安定性が驚くほど高いのに、曲がるべきときはちゃんと曲がる。なによりも、ステアリングを握る者をその気にさせてくれる。サソリの毒は気持ちヨカッタ。

文=今尾直樹(本誌) 写真=矢嶋修 coordination by Kazunori Iwakura

フェラーリ風のディフューザーで武装したモダンなリア・スタイル。7×17"のアルミ・ホイール。トランクは意外と使える。サソリはボンネットの下にも潜んでいる。

(ENGINE2008年12月号)

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