2024.09.24

CARS

「ロード・カーのセットアップは、公道で時間をかけて決めるんだよ」997型911タルガの国際試乗会でエンジニアが発した一言にポルシェの凄さを見た!

997型911タルガに北イタリアで試乗。

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そして、気づいて、愕然とした

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せっかくだからと、屋根を開け放って走った。僕はオープンカーに心奪われるくちではぜんぜんないのだけれど、これは気持ちがいい。こんなにも大きなスライドルーフが全開になっているのに、開いていることを忘れてしまう。ときおり爽やかな風がいたずらに入り込んで、撫でていく。ただそれだけ。そこがいい。

タルガ・ボディのルーフ構造は基本的に変わりなし。大型のガラス・サンルーフはリアウィンドウ内側に沿ってスライドする。開口部の大きさは普通のスライディング・ルーフの比ではない。

そうやって長閑に走り続け、ときに前方が空いた隙を見つけては右足を深く踏み込んでを繰り返していて、はた、と気づいた。そして、愕然とした。この自動変速シフトプログラムは、素晴らしいとしかいいようがない。渋滞のノロノロであろうが市街地のストップ&ゴーであろうが山道を楽しむときであろうが、どんな状況にあっても、そうあって欲しいという思いにぴたりとシンクロして変速する。魔法のギアボックス。

ギアボックスそれ自体はたしかにとてつもないポテンシャルを秘めているだろう。でも機械を得ただけで、これを実現することは不可能だ。緻密で地道な開発がなければ、ここまで調教することなどできないはずだ。



自動車開発に魔法の近道などない。ポルシェは気の遠くなるようなプログラムの書き換えと走行実験を繰り返して、ここへ到達したに違いない。もてるノウハウのすべてを注いで。

それに気づいたとき、深い衝撃が押し寄せて、ポルシェのすごさを感じないわけにはいかなかった。

「ニュルを走るのはポテンシャルのチェックや耐久性を測るため。セッティングをそこでやることなどないよ。ロード・ゴーイング・カーのセットアップは、公道で時間をかけて決めるんだよ」と、かつてポルシェのシャシー・エンジニアのひとりが教えてくれたのを思い出す。

試乗から帰って関係者に尋ねると、「PDK投入前の1年間はずっと変速プログラムを煮詰めるのに費やされました」と、打ち明けてくれた。

と、そこで気づいた。スポーティにカチャカチャやるのに適しているとはいいがたいステアリング・スイッチは意図してのものではないのか。どんな状況でもDレインジに任せてくれと、それは言っているように思えて、僕は頭を垂れたのだった。

文=齋藤浩之(本誌) 写真=小川義文/ポルシェ・ジャパン

(ENGINE2008年12月)

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