997型911、PDKと6MT、どっちがいい? レーシングドライバーの大井貴之氏が選んだのは?【エンジン・アーカイブ「蔵出しシリーズ」】
ご存じ中古車バイヤーズ・ガイドとしても役立つ雑誌『エンジン』の過去の貴重なアーカイブ記事を厳選してお送りしている人気企画の「蔵出しシリーズ」。今回は、2009年の3月号に掲載した997型911のPDKとマニュアルの比較試乗のリポートを取り上げる。ティプトロニックSに代わるポルシェの新トランスミッションとして登場したPDKは、マニュアルをも凌駕する万能選手だったのか。レーシング・ドライバーの大井貴之が徹底比較テストした。
注目は直噴エンジンとPDKやっぱポルシェはいいね! 新型997。写真では何も変わってなさそうだったが現物はしっかりオーラを放っていた。LEDを使ったアウディみたいなフロントのデイタイム・ライトとテール・ランプが印象的。エア・インテークの形状も上手く処理され、確実にカッコ良くなった。
だが、新型でさらに注目なのは直噴エンジンとPDK! オレくらいの年代にとってPDKは無敵のグループCカー、962Cに搭載されていた未来のメカニズム。シフト・レバーの根元に「PDK」と刻まれているだけでワクワクしてしまう。早速PDK仕様に乗り込みエンジンを始動。短めのシフト・レバーを手前に引き、Dレインジへ。ブレーキを緩めるとスルスルっとクルマが動き出した。特別な機械音もしなければクラッチが繋がるまでのタイムラグもない。普通のATとなんの違いもないことに拍子抜けした。でも、シフト・インジケーターに表示されるギア・ポジションに注目しながら耳を澄ませば、微かではあるがシフトの度にカシャッと薄い金属を重ね合わせるような音がする。あとはミッションが冷え切った状態での始動直後、ユルユル上り坂を走るようなシーンではクラッチが迷っているようで若干ウルウルする。まるで粗探しだが、そうでもしないと違いがわからないくらいPDKは普通なのだ。飛ばしシフトも自在なPDKだが、表示を見ていると一般道の遅い流れに乗った緩い加速や減速時は1速から順に1段ずつ丁寧にシフトしていることが分かる。でも変速ショックはゼロ。しかし、どんな走行状態からもバコッとアクセルを踏み込めば瞬時にシフト・ダウンして強烈な加速が始まる。それはDレインジでもMレインジでも同じ。スポーツ・モードを選択すればより速く、スポーツ・プラスにすれば更に短い時間でシフトが行われる。これはもうMTではどうやっても真似が出来ない速さ! 結果、0-100km/hの加速では6MTよりコンマ2秒速い。そしてPDKのお楽しみ、ローンチ・コントロールを使うと更にコンマ2秒短縮するというのだ。矢を放ったようなダッシュもちろん試してみましたよ、ローンチ・コントロール。スポーツ・プラスのスイッチを押し、左足でしっかりブレーキを踏み込み、躊躇せずにアクセルを全開にする(ゆっくり踏むとダメ)と駆動は一切掛からずにエンジン回転数は6500にキープされる。あとはブレーキを離すだけ。その瞬間、まさに矢を放ったようなダッシュが始まる。一瞬ホイールスピンが発生するが、そこはRRのポルシェのこと、持てるパワーのすべてがトラクションとなる。但し、それはドライ路面の場合。ウエット路面となると、無防備なホイールスピンとそれを抑えるトラコン制御の繰り返しとなり、ちょっとガッカリ。低μ路であれば3回に1回は勝てるチャンスがありそうだ。といいながら、これっていつ使うんでしょうか。ワインディングでのPDKは最高に気持ちイイ! ドライバーはステアリング・ワークとペダル・ワークに集中できるから走りが正確さを増し、エンジンを100%楽しめる。新設計の直噴3.6リッターの圧縮比は12.5対1。レスポンスも低回転からの食い付きも素晴らしく、力強い加速で従来型より200rpm上の7500rpmまで、パワーの落ち込みなくきっちり吹け上がる。以前と比べて雑音が無くなり、音も官能的になった。何よりも気に入ったのは、回転落ちの良さ。近頃のクルマは排ガスの問題でどうしてもアクセル・オフに対するレスポンスがダルに設定されているが、直噴エンジンはリニアに落ちる。RRの911を自在に操るためにはアクセルによる荷重コントロールが命であり、アクセルに対するレスポンスはオンもオフも最重要項目。新型はそういった一つ一つの細部が更なる進化を遂げている。