2024.04.06

CARS

ヤフオク7万円で買ったシトロエン、修理の間は代車生活【シトロエン・エグザンティア(1996年型)長期リポート#35/ランチア・ゼータ2.0t(1997年型)短期リポート後篇】

ランチア・ゼータの燃料タンクの容量はなんと90リッター!

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ヤフー・オークションで手に入れた7万円のシトロエン・エグザンティアを、10カ月と200万円かけて修復したエンジン編集部ウエダの自腹散財リポート。天国と地獄が代わる代わるやってくる本篇と、フランスに行った番外篇をちょっとお休みし、エグザンティアの修理中に乗っていた、代車ランチア・ゼータについてリポートする。

さすがはランチア

カークラフトへ入庫したエグザンティアの代わりに、ランチア・ゼータの鍵を受け取ったのは3月某日の夕方のこと。幸い天気は良かったが、寒の戻りを想定したのか、スタッドレス・タイヤを履いていた。



近ごろあまり見かけない縦型のノブを握り、手前に引いてドアを開ける。おそらくコストを優先したのだろう。前席およびスライド・ドアの4つのノブはすべて共通の縦型タイプで、けっしてスタイリッシュじゃない。よく言えば素朴、悪く言えば無骨なものだ。

けれど、これが思ったよりずっと力を入れやすく、使いやすい。後ろのスライド・ドアは電動じゃないけれど、一度このノブを引きロックを解除すれば、大きな力を入れずともするりと開けることができる。

よいしょ、と身体を持ち上げる感じで運転席へ。シート・ポジションはけっこう高めだ。とはいえショルダー・ラインが低い上に少し後ろ下がりになっているし、三角窓もあるし、大きなガラス・ルーフもあるから、室内はすごく明るく開放的だ。

ゼータは一部グレードではシート調整に電動式も選べたようだが、この代車は手動式だった。座面下のレバーを引きスライドさせ、横のノブをつまんでバックレストを起こすと、ドライビング・ポジションはすぐピタリと出た。



両手をステアリング・ホイールに添え、右手を横にずらすと、ちょうどいいところにマニュアルのシフト・ノブがいる。スコスコとシフトを試しにいじってみて、何かに似ているな、と思った。しばし考えて思い出したのが、フィアットの2代目ムルティプラだ。

運転環境も視界もムルティプラにとてもよく似ている。開放的だけど、ノーズの先がまったく見えないところも一緒だ。ゼータは1990年代のクルマだし、コンセプトはまったく違うけれど、後のムルティプラ開発時に多少の影響はあったに違いない。

センター・コンソールがないので、試しに助手席や2列目席にも移動してみる。車内における座席の移動はたやすい。しかも2列目も3列目も、グレーの小ぶりな中央席を除けば、造りもサイズもまったく前席と同じ印象だ。左右に脱着式の肘掛けがあるから、居心地もとてもいい。試すことはできなかったけれど、前席は回転させることも可能だという。



運転席に戻ってキーをひねると、アイドリングは予想よりもずっと静かだった。内装のしつらえも含め、さすがランチア、というべきか。普段から触り慣れているエグザンティアとまったく一緒のステアリングを握り、クラッチを繋いで走り出す。

絶品のステアリング・フィール

なんだこれ!? と最初に思ったのはステアリングの感触だった。よく知っているはずのエグザンティアと同じデザインだけど、手応えはいつものようにねばりっこくやや重いものではなく、かといって軽すぎず、とにかく自然なのだ。



低速でも高速でも、どんなときもステアリングは路面の情報をしっかり伝えてくる。油圧式のアシストが適切なことに加えて、車体の、特にフロアのがっちりした感触がそれを補っている感じだ。タイヤがどの位置にあって、どう動かしたらどう反応するか、ちょっと気持ち悪いくらいよく分かる。田舎のくねくねした道を走るペースが、どんどん上がっていく。

この季節、引っ越しなどレンタカーでちょっと古いハイエースのようなクルマに乗る人も多いことだろう。ああした実用一辺倒の商用車に乗ると、いかに現代の乗用車の装備が過剰か、気がつくはずだ。たとえば(コストダウンが主な理由だが)レーンキープアシストのためとされる電動モーター式のパワー・ステアリングが、クルマとひとのコミュニケーションをかなり阻害していることがよく分かると思う。

ゼータはもともとPSAグループがフィアットと共同でほとんど初めて開発したミニバンだ。気合いも入っていただろうし、前例のなかったカテゴリーのモデルだったこともあって、人や荷物の積載重量にかなりのマージンを取ったのだろう。実際床下を覗いてみると、車体や足まわりはごつく、いかにも強固そうなものだった。



当時のカタログに掲載されていた透視図からも、それがよく分かる。結果的に、その力の入れようや大きめの余地は、ひとが操る道具として正しく頑丈な車体構造と、ひとに情報を豊富かつ緻密に伝えるインターフェイスへと繋がった。1990年代前半という、安全や環境という要素がさほど重要視されていなかった時代なのも良かったのだろう。

加えてランチア版であるゼータは、その性格上、他のブランドに比べ乗員数が少ない仕立てが前提だった。基本、実用一辺倒のフィアット・ウリッセもプジョー806もシトロエン・エヴァジオンも7人ないしは8人乗りなのに対し、上質な方向性を狙ったゼータは6人ないしは7人乗りなのである。強固ないわばオーバースペックな造りなのに、乗せる人数は少なくていい。クルマの成り立ちにおいてプラスとなる要素が、こうして偶然積み重なっていったのだった。



それにしてもこのステアリングの感触の素晴らしさは、とてもスタッドレス・タイヤを履いているとは思えなかった。エグザンティアより重心が遙かに高いのにふらつくことなく、高速直進性も大差ない。いやはやこれで上質な新品タイヤを奢ったら、どうなるのかまったく想像がつかない。

しかもゼータからは、こうしたフランス車的なロング・ツアラーの要素に加えて、初代フィアット・パンダやイプシロンにも通じるような、イタリアの小型車的な身軽さまで感じられるのだ。走っていると本当にミニバンであることなど、忘れてしまいそうになる。

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